「建物が傾いているので見てほしい」。そういうご依頼が来た。そこで、DIY体験会で原因を調査し、対応することにした。
■建物の傾きの原因は「排水桝」の穴?
建物が傾くには理由がある。シロアリの食害などで柱が下がっているのか、施工が悪いのか、基礎や地盤の問題なのか。ケースバイケースだろう。そうなった原因を考えて修繕しないと、また同じ現象が出たりする。
まずは室内を調査。確かに傾いていて、引き戸が開かなくなっていた。大きな雨漏りの跡はなく、室内にはシロアリの形跡はない。建物が原因というのは考えにくいと判断。
次に外観調査。基礎を見て回る。しかし、大きなクラックは見つからない。基礎に問題はなさそう。
地面を見ると排水桝が結構地上に出ている。地盤が沈下したのかもしれない。排水状況を確認してみる。排水が公共の下水に繋がる排水経路を確認。下水に繋がる直前の排水桝は一目見てわかるほど明らかに沈下していた。
桝のふたを開けると、排水管が繋がっていない穴があった。排水管が繋がっていない穴。これは怪しい。
すなわち、水はこの桝から本来の下水には流れず、穴から地中に放出される形になっていた。さらに、下水に繋がる排水管は、桝のほうが低くなっていて、逆勾配となり下水には流れなくなっていた。
試しに穴に水を流すとどんどん流れていく。1mの鉄筋を入れてみるが、穴の奥には届かない。相当の空間があると思われる。この穴から水が流れ、それが地中の土を流して空洞ができたと考えた。数年前、博多駅前で大規模な道路陥没があったが、それと同じ理屈かもしれない。
原因を探るべく、排水桝の周りを掘ってみた。桝の奥に大きな穴があるようで、枡の下から土で埋め戻しを試みる。もうこれ以上は入らないというところまで棒で押し込んで土を入れる。
土が入らなくなったところで桝を上げる。ジャッキアップして、桝の下にできた空間にモルタルを団子状にして押し込んでいく。押し込んでも入らなくなるまで充填する。
今回はモルタルとしたが、砂を入れたセメントでもいいだろう。充填したモルタルが桝の重みで逃げないよう、ブロックなどで抑えてジャッキを外す。
ジャッキをかける位置を変えてジャッキアップし、モルタル団子を押し込む。
この作業を繰り返して、少しずつ桝を上げていく。
公共下水側への勾配が取れ、水が流れていく高さまでジャッキアップ。排水管の下に土を入れ締め固める。
その後は排水桝の周りに土を少しずつ入れ、踏み固めていく。少しずつ踏み固めることで、専用の道具がなくてもそれなりに締め固めることができる。
これで公共下水への排水勾配が取れるようになった。あとは桝にあいた穴をふさぐ。穴はこの桝だけではなく、他の3か所の桝にもあいていたので、すべてをふさいだ。
並行して、鉄筋を地面から打ち込んで空洞を探してみた。すうっと鉄筋が入る箇所が数か所あった。やはり桝からの漏水で地中の土が流されたと推測される。今回は桝の穴をふさいだので、これ以上の土の流出は止まったはずだ。
■DIYとプロの違い
これを「プロ」にお願いするとどうなるだろうか。
重機で桝の周辺を掘り起こし、桝や排水管を撤去し転圧。新品の桝や排水管を所定の位置にあげて、セメントを打って、新たに土を入れて整地という感じだろうか。
プロだときちんとした施工が求められるのでそうせざるを得ないだろう。結果として相応のコストがかかる。大家がDIYでやれば、「どこまでやるか」を考えられる。そのことによりコストが削減できる。
とりあえず排水が確保できればいい。あるいは、とりあえず漏水が止まればいいなどと考えてもいい。今回は、また穴が空けばふさげばいい、また沈下すれば上げればいい。そう考えることで簡易な施工で済み、コストが削減できた。
ダメならやり直せばいい。そう考えられるのがDIYのいいところだ。これによりコストを下げることが可能になる。そしてチャレンジしやすくなる。
■原因を探し、対策をとらなければ、また同じことが起こる
また、大家として考えるべきことは「なぜそうなったか」だ。
以前、マンションの排水管が詰まった時、プロに見積もりをお願いした。「配管交換3~10万円」という結果になった。お金を払えば直る。
しかし、せこい私はDIYで直すことを考えた。詰まった原因は何だろうかと考えた。
調べると、この詰まりは、上階に住む外国人が流す油が原因だった。油を流さないよう外国人に注意して、油を溶かす薬剤を注入し、数百円で解決した。もしその業者にお願いしていたらまた詰まって、また交換しての繰り返しだったかもしれない。
今回も、「建物の傾きを直してほしい」とプロにお願いすれば直してくれただろう。しかし、ジャッキアップの業者と排水管の業者は違う。排水管まで考えてくれるだろうか。もし、排水管の調査をしなければ数年後に再度沈下して、再度ジャッキアップになってたかもしれない。
大家の修繕。
業者に丸投げするのは自由だ。しかし、原因をちゃんと調査し、対策を打たないとまた同じ事象が出ることもある。業者には「専門」があり、専門外のことはしないかもしれない。
大家として、健全な賃貸経営を目指すなら、修繕する前に原因を考え対策を打つことが重要だ。
DIYはそういう考え方を身につける重要なツールではないか。