三菱地所レジデンスがマンション建設を進めている英国大使館跡地(東京都千代田区一番町)で弥生時代の竪穴式住居跡などが発見され、工事がストップしている。
地中から何かが発掘されたというと、歴史的、文化的価値の高いお宝を想像するかもしれないが、貝塚や古墳、住居跡などの文化財が出土すると、たいていの土地所有者は頭を抱えてしまう。
文化財保護法で新たに遺跡を発見した場合には自治体の教育委員会に届け出ることが求められているからだ。工期に大幅な遅れが出るだけでなく発掘調査費用の負担も必要なため、土地所有者にとってはデメリットしかない。(土地所有者が法人ではなく個人で、自己居住用の住宅を建設する場合には、費用は公費負担)
冒頭の英国大使館跡地は2015年に駐日英国大使館から変換された国有地の一部で、皇居に面した都心の超一等地。かつては大名屋敷だった由緒正しい土地を三菱地所レジデンスが2022年4月に購入した。昨年2月に遺跡が出土したため発見届を区に提出して、6月から本調査を進めてきたという。
弥生時代の竪穴式住居の出土は都内では珍しく、学術的にも重要な発見だそうだが、三菱地所レジデンスは3月末で調査を終了し、発掘内容を記録したうえで遺跡を埋め戻し(文化財保護法による「記録保存」を実施)、マンション建設を再開する方針だ。
詳細は明らかにしていないものの、完成すれば地上20階建て程度のタワーマンションとなる見込み。2013年に同社が近隣で販売した「ザ・パークハウス グラン 千鳥ヶ淵」(千代田区三番町)の最多価格帯は2.7億円だったが、ここ10年の都心のマンション価格の上昇と、今回の物件は皇居の眼の前とより地位が高いことを考えると、販売価格はいくらになるのかー。
遺跡として現地に残さない判断をした同社には非難の声も出ているようだが、同社としてはこれだけポテンシャルの高いマンション計画が一年以上もストップした状態であり、たまったものではないというのが本音ではないだろうか。
ただ、奈良や京都などの古都でなくても、実は日本全国、地中深く掘れば何かしらの遺跡が出る可能性のある土地は多い。埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている「周知の埋蔵文化財包蔵地」は、文化庁によると全国で約46万カ所あり、毎年9千件程度の発掘調査が行われているという。
前述の通り、個人が自己居住用の住宅を建設する場合には費用負担は免除されるが、調査のために工事が遅れることは避けられない。投資用のアパート建設の場合は当然、発掘調査費用も全額、開発者負担となるので注意が必要だ。自治体によっては発掘調査が立て込んでいて、順番が回ってくるまで一年待ちという状況もあるそうだ。もちろん、その間も着工できない。
周知の埋蔵文化財包蔵地ではない土地なのに工事に着手したら思いがけず文化財が出てきてしまった、というケースは避けようがないが、周知の埋蔵文化財包蔵地については「東京都遺跡地図情報インターネット提供サービス」など各自治体が分布図を公表している。
埋蔵文化財包蔵地は上述のようなリスクから相場価格より安価で取引されることも多いが、実際には発掘調査までは至らずに済むケースも多い。不動産投資の観点からすれば一長一短というところだろうが、慎重な検討が必要だろう。
健美家編集部(協力:
(おおさきりょうこ))