成長著しいフィリピンの
住宅価格と投資
世界から投資が集中している東南アジアの大都市であるフィリピンの首都マニラ。
英系不動産総合コンサルティング会社であるナイトフランク社が四半期ごとに発表しているGlobal Residential Cities Indexにおいて
2019年4Qから2020年3Qまでの住宅価格上昇ランキング(加算平均値)においてマニラがトップに立った。
以下のチャートにあるように4期平均が24.4%の上昇率となっていることから急上昇していることがわかる。
また東南アジアでトップ10に入っている唯一の都市である。
コロナウィルスのパンデミック下においても成長率が鈍化しているわけではない。
そのマーケットの牽引役はフィリピン人だけではなく、日本人を含む多くの外国人による投資である。
過去最低水準の低金利政策と
必要になる住宅数
直近の政策金利が2%まで(2020年1月時点は4%)低下していることで、フィリピン人による不動産購入における住宅ローン金利が低下傾向だ。
例えばコロナ前では10年間固定金利で10%超という住宅ローン金利が多かったが、現在は大手銀行でも7%台で提供している。
この住宅ローン金利の低下がフィリピン人の購入意欲を刺激している。
投資対象としてマニラが着目される要因の一つが人口だ。
フィリピン全体でも人口は1億人を突破し、生産年齢人口の成長を表す「人口ボーナス」も東南アジア諸国で最も長い2062年まで続く。
2050年のフィリピンの人口は1億4,000万人に到達すると予想されている。
首都においていえば、東京23区とほぼ同程度の面積であるマニラの人口は1990年の792万人から2015年には約1.6倍の1,287万人に達し2050年には2,400万人と予想されている。
このような状況下において人口増・過密化によるインフラ整備を含む開発が急ピッチで進んでいる。
適度なインフレと賃金上昇により安定して不動産価格も成長してくるという期待から国内外からの個人投資家や機関投資家を惹きつけているのだ。
また、フィリピン不動産では外国人不動産所有に関する法制度が整っていること、渡航をする必要がなく購入できることがパンデミック下においても取引の障壁になっていないということもプラス要因だ。
甚大なコロナパンデミックの影響と
盛り上がるREIT市場
しかし、フィリピンはコロナの抑え込みがうまく行っているとは言えない状況だ。
フィリピンにおける感染者数は2021年5月上旬で一日あたりおよそ5,800人となっており、2021年3月前後から始まった第二波がようやく減少期に入っている状況である。
経済活動についての制限は厳しく、政府は強弱をつけた4種類の隔離措置(ロックダウン)を状況に応じて発令している。
依然として国際間及び国内間の渡航は正常化されておらず、このような状況からIMFが発表した2020年のGDP成長率予測は東南アジアで最悪のマイナス9.6%となった。
オフィスや商業の不動産サブセクターにおいては厳しい経済状況とは異なり、明るい話題もある。
昨年8月に上場したフィリピン大手財閥のアヤラグループの不動産会社であるアヤラランドのREIT(AREIT)はコロナ禍ではあったものの大きく株価を上昇させ現在は上場価格から約130%上昇し、配当利回りは約4.4%で取引がされている。
存在感を増す
日本のデベロッパーによるフィリピン投資
東南アジア各国において、海外直接投資(FDI)の投資元としての主役は中国になりつつあるが、フィリピンの不動産開発での共同事業・投資企業では多くの日本企業の名前が目立つ。
例えば三菱商事は前述のREITを上場させたアヤラランドのアッパーミドル向けの開発会社であるアルベオランドと共同事業を2013年から行っているのを始め三菱地所、野村不動産、三井不動産、オリックスなど日本の大手不動産会社が参画するプロジェクトが複数進行中である。
その中で大規模なプロジェクトであるフィリピン・マニラで最も急速に発展したボニファシオ・グローバル・シティ(BGC)における、野村不動産と三越伊勢丹ホールディングスのプロジェクトだ。
商業ゾーンに三越モールを配置、モールには4棟の高層コンドミニアムが直結する大規模開発プロジェクト。
「ザ・シーズンズレジデンス」と呼ばれる高層コンドミニアムは現在分譲されており、販売価格帯が4,000万円台の価格設定だ。
フィリピンにおいては高額物件ではあるが、売れ行きが順調で1棟目はほぼ完売。現在は2棟目である「Natsu Tower」を中心として販売がなされている。
インフラ開発事業でも
日本の存在感が光る
マニラ第二の商業圏オルティガスセンターに本店を構える「アジア開発銀行」。
アジア太平洋の途上国の経済発展に寄与することを目的として設立された日本が最大出資(米国同率出資)国の旧大蔵省が深く関与している銀行であるが、現在の日本銀行総裁の黒田東彦氏が総裁を務めていたことでも知られている。
国際協力機構(JICA)の円借款を通じた交通インフラ事業も複数稼働している。
日本の多くのゼネコンも事業体として参画している。マニラ国際空港(ニノイ・アキノ国際空港)から北部の住宅地までをつなぐ「メガマニラサブウェイ」は清水建設を中心として開発をしており2025年に開業予定で工事が進められている。
日本人投資家からみる
フィリピン不動産
東南アジアでは不動産に関する外国人所有制度がそれぞれ異なるが、フィリピンでは外国人は土地を購入することができない。
そのため、購入する場合はコンドミニアム登記(コンドミニアム・サーティフィケート・オブ・タイトル)がされる不動産のみ購入をすることが可能だ。
これは主として、日本における区分所有権のマンションに近いと思って良い。
さらに1棟や1プロジェクトにおいての外国人所有の最大割合は40%と定められているため、60%についてはフィリピン人が購入することになる。
プロジェクトによっては外国人枠が早期に完売をすることもある。
税金が高いことが
ネック
フィリピンは相対的に税金が高い国である。例えば日本では消費税に該当する付加価値税(VAT)というものが現地法人から購入する際発生する。
付加価値税は売買価格の12%。日本のように建物価格だけに発生するものではない。
また、売却時には譲渡税がかかる。譲渡税は売買価格に対して6%。売却益に対する税額ではないことにも注意が必要だ。
投資家にはやや厳しい税制度でありながらなお、フィリピン不動産の高い価格上昇力が投資家の魅力となっているのが、冒頭のデータにもある強い価格上昇力と所得増にともなう賃料上昇への期待値だ。
物件竣工前に転売する事例や
実質的な値引き案件も
海外不動産取引では竣工前に転売する事ができる国が多いが、フィリピンにおいても本事例は非常に多い。
プレビルド(日本の新築にあたる)であれば、購入したユニットが建築途中であっても他人に譲渡する「竣工前転売」をフィリピンのデベロッパーは認めている。
認めるにあたって一般的に移転料というものが発生し、各デベロッパーに支払うことになる。この金額はデベロッパーごとに異なるため確認が必要だが、適法に購入に対しての支払や義務を履行していれば譲渡が拒絶されるケースはない。
また、コロナ禍において不動産の価格は下落していないものの、
2021年に入り一般的な物件では必要だった売買価格に対する10%の手付金の免除し、月々の分割金払いをすることで購入できるプロモーションもしばしば出てきている。
これは実質的な値引きであると考えてよい。
既存投資家による投げ売りも
出てくるか
堅調に成長しているフィリピン不動産市場だが、落とし穴もある。
竣工前に転売を予定した事例で、コロナにおいて駐在員を含む外国人の入国が進まない中、竣工を迎えた案件ではテナントがなかなか決まりづらい状況下において、想定どおり売却が進まないケースも出ている。
残代金の支払前に転売を目論んでいた投資家で、残代金の支払いの工面ができない場合は、市場の価格よりも割安で案件を出さざるを得ない。
こういった投げ売りのような案件が多くなると、不動産価格にも影響を及ぼしてくるためフィリピンの投資用住宅不動産のマーケットについては注視していきたい。
同時に購入する投資家は残金の支払いについても余裕をもって確認をするとともに、慎重に考えた上で投資をしていくべきだ。
執筆:風戸裕樹(かざとひろき)
Property Access株式会社 代表取締役。
日本国内で15年超の不動産業務投資経験。2014年にソニー不動産の設立に携わり執行役員として売却・購入コンサルティング事業部を牽引。
2016年よりシンガポール移住後当社創業し東南アジアの不動産ネットワークを構築。東南アジア不動産取引に明るい。
早稲田大学商学部卒