芦屋市は、高級地、人気の住宅地などのイメージが強い。住宅関連各社の「住みたい街」「住み続けたい街」というランキングの上位にも食い込んでいる。そんな芦屋市の中心である「JR芦屋駅南地区まちづくり」再開発事業について、現状を調べてみた。
再開発事業が必要な理由の一つ目は「整備状況が良くない」
「JR芦屋駅南地区では、昭和52年に芦屋浜埋立造成地の土地利用をはじめとした将来計画に対応して駅前広場面積を変更する都市計画変更をしているが、未整備であり、JR芦屋駅の乗降客数に対して乗降客の滞留空間が小さく、手狭となっている」
ということ。
「また、バス、タクシー、送迎の一般車等が交錯しているうえ、路上駐停車が目立ち、危険な状態。駅前線も昭和21年に都市計画決定をしているが未整備」
だった。
ずいぶん以前から十分な歩道が整備されておらず、危険な状態が続いていると言える。それについて掘り下げて見てみると…
◆路線バス・タクシーの利用状況
JR芦屋駅南側で駅と結節する公共交通機関は、路線バスとタクシーがある。路線バスの発着便数は平日約90台、休日約70台。便数が多い朝7、8時台には2台同時に停車することもある。タクシー乗り入れ状況としては、交通量調査の結果では最大時には10台以上が駅前広場西線まで待機している状況。また、一般企業等送迎バスもJR芦屋駅南側を利用している。
◆一般送迎車両の利用状況
駅前では横断歩道周辺に駐停車する乗用車が多く、歩行者などの安全な通行を妨げている。また、駅西側では学校、企業の送迎バスの駐停車により東行きの車線が塞がれ、後続車の通行に支障をきたしている。
◆駅前線の状況
駅前線では十分な歩道が整備されておらず、歩行者と車が混在している。
再開発事業が必要な理由、二つ目は「地域に人が増えている傾向」
人口は平成7年の阪神・淡路大震災によりいったん減少したものの、その後回復し、南芦屋浜のまちづくりの進捗に伴い増加。近年では全国的な人口減少と同様で、平成27年をピークに増加から減少に転じているが、JR線を挟み南北の人口推移を比較して見るとJR線以南の人口のほうが増加の割合が大きい。
また、芦屋市での鉄道利用も考慮するべきだ。JR、阪急、阪神を利用することができるが、JRの利用者数が一番多い。加えて、平成2年のJR芦屋駅新快速停車の開始以降、JR芦屋駅の乗降客が数もさらに増加している。市内で最も乗降客数が多い駅となっているのだ。
整備状況の改善や、駅前の利便性UPが必要
再開発事業で目指すのは、整備状況を良くして安全にし、多くの人にとって便利な駅前空間を構築すること。駅前線(駅に向かう南北道路)の拡幅による歩道の確保やロータリーとペデストリアンデッキによる歩車分離を図るとともに、バス事業者と協議を行なうことで駅北側の交通課題緩和と市域南側の利便性を向上させ、更に駐輪場も集約していく。
「広報あしや 令和4年6月号」を参考に紹介しよう。
◆バス・タクシー用ロータリー
市の南側を行き来するバスの停留場が集約され、タクシー乗降場もつくる。
◆地下駐輪場
駅周辺に点在している駐輪場を、ロータリーの地下に集約し、雨に揺れずに駅と行き来できるようにする。
◆再開発ビル
地区内に住んでいる人、商売をしている人々が、事業の後も地区内に残ることができるようにビルを建築する。ビルは、民間事業者が建築する予定。
ビルの中の利用想定(広報あしや 令和4年6月号)
4階~ 住宅51戸
3階 公益施設
1階~2階 商業施設
地下1階~2階 駐車場
◆自家用車送迎用ロータリー
自家用車で停車し、安全に乗り降りできるようにする。
◆歩行者用デッキ
車の通行を気にせず、安全に駅や改札と行き来できるようにする。再開発ビルや地価の駐輪場とも繋ぎ、エスカレーターやエレベーターも設置する。
◆南北道路の拡幅
駅から国道2号への南北道路の両側に、安全に歩行できる歩道をつくる。道路の東側に大きく拡幅し、国道2号南側の「茶屋さくら通り」と同じ幅にする。
◆【完成済】JR芦屋駅リニューアル
エスカレーターを駅の北側と南側及びホームの階段に設置し、構内のトイレを含む内外装、ホームのエスカレーターもリニューアルし、完成している。
停滞していた再開発事業は始動!
事業計画では、再開発ビルや交通広場、道路等も含めた完成は令和8年9月30日としていた(平成30年度当初)。
しかしながら、令和2年度から2年間、再開発に関する予算が市議会で否決され、遅延。令和4年11月、次いで令和5年12月に事業計画を変更し、現在令和11年9月30日の完成予定となっている。
停滞していた事業が、ゴールに向かって動き始めているのだ。
見込んでいる総事業費は約214.5億円。不安の声に対して前向きな回答
「年間400億円の財政規模の芦屋市で200億を超える再開発事業を行なうことは大きな負担になるのでは」という意見も出ている。
それに対して芦屋市は、「事業には国からの補助金や特定建築者制度の活用による民間企業からの資金も利用するため、現時点で事業の市の負担額は約100.9億と想定しています」と回答。
また、「ここ数年の市の1年あたりの一般会計予算規模は400億円台で推移していますが、事業は複数年にわたって行ない、”起債”の制度を用いることで支出を数十年で平準化させるため、長期的な財政見込みにおいても問題ないことを確認しています」と、前向きな回答を出している。
★注釈:”起債”とは地方債を発行する制度のこと。地方債とは、市が公共施設等の建設事業を行なうために外部から調達する借入金のことをいう。起債には、①毎年の財政負担の平準化 ②現在の市民と将来の市民の負担を公平にする といった効果がある。
再開発事業、現在の様子を見に行ってみた
「住みたい街「住み続けたい街」と言われてはいる芦屋市は、状況を見ると安心感が実は不足していた。だからこそスタートした再開発事業が、2年も停滞していた時期があったのは残念である。
だが現地に見に出かけて、少しずつとは言え、近年進み始めていることを実感することができた。
完成予定の令和11年、街の姿は、歩く人々の表情はどう変わっているか、目にするのが楽しみだ。
取材・文:
(あかいしまきこ)