さいたま市と都心を結ぶ重要路線
埼玉高速鉄道線とは、東京都北区の赤羽岩淵駅から埼玉県川口市を抜け、さいたま市緑区の浦和美園駅までを結ぶ鉄道路線。運営するのは第三セクター方式で設立された埼玉高速鉄道株式会社で、「SR」の愛称で親しまれている。
同路線は2001年3月28日に開業し、駅数は8駅。「高速」の名を冠しているが急行路線はなく各駅停車を運行し、「埼玉スタジアム線」とも呼ばれている。
JR東北本線と東武伊勢崎線、日暮里・舎人ライナーに挟まれた国道122号線や日光御成街道沿線の川口市東部・北部とさいたま市東部と都心を結ぶ。
本路線が開業するまで鉄道空白地帯だった旧鳩ケ谷市は、バスのみだった交通インフラが大きく改善され、浦和美園駅は「埼玉スタジアム2002」への主要なアクセス手段として利用されている。利用者数は伸び悩んでいたが、2015年度に1日平均が10万人を超え、直近も同様の傾向だ。
東京メトロ南北線と相互直通運転を行い、東急目黒線・新横浜線、相鉄線とも直通列車が運行するなど利便性の高い路線として地域に定着しているが、現在は浦和美園駅から東武野田線岩槻駅、さらにはJR宇都宮線の蓮田駅を結ぶ「地下鉄7号線延伸計画」が進められている。
同計画は2016年の交通政策審議会において「東京圏の都市鉄道が目指すべき姿」を実現するうえで意義のあるプロジェクトとして「浦和美園のから岩槻、蓮田までの区間の埼玉高速鉄道線の延伸」が位置づけられることに。
現在は浦和美園駅から岩槻駅までを先行整備区間として位置づけ、延伸の取り組みが進められている。
先行整備区間で検討されているのは、「埼玉スタジアム駅(臨時駅)」と浦和美園駅から岩槻駅の概ね中間に位置する新駅の「中間駅」で、2023年3月にさいたま市は「地下鉄7号線中間駅まちづくり方針」を策定し、まちづくりの方向性を示した。
中間駅周辺地区は、さいたま市の東部地域となる浦和美園地区および岩槻駅周辺地区の副都心に位置し、緑豊かな農地が広がる地域。周辺には目白大学さいたま岩槻キャンパスがあり、順天堂大学医学部附属病院の建設計画も進められている。いうなれば、大きな発展に期待が寄せられているエリアであり、まちづくりに対して4つのテーマを掲げている。
テーマ①:ニューノーマルに相応しい、多様性に対応した職住遊学を実現するまち
・在宅ワークなどフレキシブルワークに対応したゆとりのある住環境を創出
・多様なライフスタイルに合わせたQOLの向上を目指す
テーマ②:楽しむオープンスペースにより、人々がつながるまち
・スマートな交通結節と居心地のよいオープンスペースによるウォーカブルを推進
・公園などの緑豊かな自然を活かした滞在できる空間により、人々のつながりと地域活力を創造する
テーマ③:自然と先端技術が融合した持続可能なまち
・SDGs・ゼロカーボン実現に向けた建築・情報・エネルギーシステムの導入
・産学公民の連携による、地域と人の健康維持など社会施策への取り組み
・先端技術を活かした安全に暮らせるまちづくり
テーマ④:地域内外のつながりにより成長し続けるまち
・各種機能を共有することにより、さいたま市全域への波及を目指す
・浦和美園、岩槻との連携と地域特性を生かした持続成長を目指す
・中間駅周辺地域との連携を強化し、まちづくり方針の実現に向けた産学公民による地域マネジメントへの取り組み
延伸に必要な事業者への事業化要請は断念
鉄道の延伸とまちづくりはセットで考える必要があり、こうした地域整備の計画が実現性を高める。
先行地域の起点である浦和美園は、浦和レッドダイヤモンズのホームであるアジア最大級のサッカー専用スタジアム「埼玉スタジアム2002」が立地し、公共施設の整備や民間開発も活発化し、子育て世代を中心に定住人口が増加。
新しいまちの創造を目指し「スポーツ、健康、環境・エネルギー」をテーマにまちづくりを展開しており、取り組みを加速すべく2015年10月にはまちづくり情報発信・活動連携拠点「アーバンデザインセンターみその(UDCMi)」が西口駅前に開設されている。
一方、かつては城下町、宿場町として栄えた岩槻はには岩槻城址公園や岩槻城大構など岩槻城の形跡が残り、人形は伝統産業として地域経済を支えてきた。駅周辺は行政施設、医療施設や人形店などがコンパクトにまとまり、地域イベントなども盛んに行われている。
2017年3月には岩槻駅舎と自由通路の完成、西口駅前広場の供用により東西地域が結ばれ利便性が向上し、路線バス乗り場も変更するなど、まちは進化し続けている。
こういった発展目覚ましい地域を結ぶ鉄道が整備され、その間に新たな駅が生まれることでエリア全体の活性化や魅力向上につながるだろう。
ただし、実現に向けては課題もある。
鉄道は開業後も継続して経営が維持されるよう、採算を確保することが求められるが、これからの社会は人口減少により鉄道の利用者も減少する傾向がある。
この点は、まちづくりと合わせて進めることで課題解決が期待される。延伸が実現すすると岩槻駅から都心へのアクセスは格段に良くなり、こういった利便性の向上をアピールすることも肝心だ。
高いポテンシャルを秘めた延伸計画だが、今年1月にさいたま市は2017年度時点で試算した概算建設費860億円が1300億円に拡大したことを市議会特別委員会に報告。
資材高騰や人手不足、建設計画による高架橋のくい基礎や岩槻駅の構造見直し、建設夜を予定する埼玉スタジアム駅の構造変更、工事費増による関連経費・消費税が増えたことが原因だ。
建設費は事業者・国・自治体が3分の1ずつ負担する見込みだが、大幅なコスト負担増に対して事業者側が市の要請を受けられないと判断し、2023年度中の事業者に対する事業化要請は事実上断念している。
今後は社会情勢の変化など不確定要素も踏まえ、市と県が鉄道事業者と一体となり計画内容を精査するという。実現に向かうと地域の発展につながる可能性もあり、今後の展開に期待が寄せられる。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))