第4話 
通常売買、任意売却、依頼物件。競売の違い ( 37 )

朝、新聞を開くと、バサッと落ちる不動産広告のチラシ。犬を連れて散歩をしていると、新築戸建住宅のノボリが立ち、営業マンが売り出し現場の設営に慌しく働いているのを目にします。少し汗をかき、帰宅すると、奥さんが朝食の準備を済ませ、寝癖のついた坊主が目をこすりながら、食卓に。

今日は、たまの休みの日曜日。旦那さんはゆっくりとした時間を過ごそうと決めています。手を洗い、食卓につくと、「 いただきます 」 もそこそこに、ウサギの形をしたリンゴにかぶりつく坊主。( しかたがないなぁ ) と、思いながらも何気なくつけたテレビをつけると、大手住宅メーカーのコマーシャル。少し顔をしかめ、熱いコーヒーを飲み干します。

「 あなた、ご近所に新築住宅ですって 」
「 だからなんだ 」
「 なんでもない、ちょっと言ってみただけ 」
他愛無い会話の中に、見え隠れするマイホームの要求。旦那さんの日曜日は、
どうやらゆっくりとした物にはなりそうにありません。

藤山勇司

新聞に挟まれた不動産のチラシや、売り出し物件、そしてコマーシャルで流されるマンション情報は全て通常売買物件。大手の不動産仲介業者が扱う物件です。不動産の権利を阻害する、境界線の争いや、道路付けの悪さから再建築が出来ない物件ではありません。金融機関も競って融資を出す優良物件。マイホームの購入を希望する若夫婦には願っても無い物件です。

「 ふーん、買うなら通常売買だね 」

そう、お金が腐るほどあり、立地にこだわるなら、それも良いでしょう。但し、購入資金の大半を住宅ローンに頼るなら話は別。終身雇用が事実上終わり、安定収入が不確かとなった旦那さんには重すぎる負担です。

そこで、登場するのが任意売却物件。返済が滞り、借金の清算の為に売却される不動産がそれです。取り扱うのは、大手不動産会社ではありません。大手不動産会社が目指すのは、売主と買主、双方から仲介手数料を受け取れる両手の物件。しかも、将来買主から訴えられる恐れの無い、白無垢の不動産です。

返済が遅れ、銀行から借金の返済を迫られている不動産は何かと傷があるもの。しかも、購入した後で判明する不動産の問題 ( 瑕疵:かし ) があれば、売主と共に損害賠償をしなければなりません。こうした任意売却物件を扱うのは、町の不動産屋。大手不動産会社のように、若手の営業マンが忙しく働く会社ではなく、卓越した不動産知識を持つ初老の男性と中年女性の事務員が殆どの弱小の不動産会社です。彼らは、大手不動産会社が扱わない、任意売却物件をメインに仕事をする不動産のクリーニング屋です。売値は、通常売買価格の 60% 〜 70%。 5000万円相当の物件であれば、 2000万円から 1500万円の削減が可能になります。

藤山勇司

大家さんとして不動産を多く所有するようになると、狙い撃ちで購入を持ちかけられることがあります。町の不動産屋と何度か取引を重ねると、彼らは購入対象者に格上げしてくるのです。こうした特定の人間に売却される物件を依頼物件と呼びます。売却価格は任意売却物件と同様の 60% 〜 70%ですが、依頼物件は手垢のついていない不動産売却の一時情報。こうした依頼物件が来るようになれば、物件取得に苦労することはありません。

藤山勇司

所有者兼債務者が物件内部に居座ったり、売却金額が融資残高よりも遙かに低く、借金の整理が出来ない場合、任意売却物件は競売物件と名前を変えます。つまり、町の不動産屋が洗濯し切れず、裁判所が売却するわけです。

以前は法律が整備されていなかったため、競売物件は素人の方が手を出せる物件ではありませんでした。なぜなら、建物内部に居座る占有者はあくまでも善意の第三者として扱い、不法入居者を追い出すには一件毎に裁判を起こす必要があったからです。

藤山勇司

こうした状況に異を唱えたのが、アメリカの投資会社。彼らから見ると、入居者の権利保護に変重した日本の法律は理解に苦しむ悪法。日本とアメリカ双方の法律実務者の協議により、競売物件の落札者の権利は拡大強化されました。

結果、占有者の立場は保護の対象から権利を証明する立場に、占有解除は、訴訟から引渡し命令と名前を変え、殆どの占有者は引渡し命令の対象となったのです。

又、家賃を支払って居住する店子の保護期間は、3年から 6ヶ月に短縮され、敷金や保証金を返還する必要がなくなりました。

こうした各種法律の整備により競売は身近な不動産の卸売市場に姿を変えています。競売物件の落札価格は通常売買価格の 40% 〜 60%。隣地境界が不確かな物件や道路づけに問題のある物件は、20% 〜 40%。担保価値は下がりますが、利回りの高い物件となります。

2009年3月24日掲載

藤山 勇司さんのご紹介

藤山勇司オフィシャルサイト
不動産競売格付センター981.jp

サラリーマン家庭の三男として生まれる。

大学卒業後、商社へ入社。在職中からサラリーマンとの兼業 「 大家さん 」 に挑戦。勤めていた会社が突如倒産し、失業。

その後、専業 「 大家さん 」 に転身。 現在はアパート・マンション 87戸、駐車場などのオーナー。

総資産 4億 7千万円強、毎月の不動産収入は 350万円を超え、今もなおその資産は増え続けている。

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