不動産投資コラム これからの住まい環境
環境

犯罪は特定の環境条件によって起こる?! (18アクセス

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これからの住まい環境 06  /  情報提供: 日本建築医学協会
( 1 )割れ窓理論 ― ニューヨークの犯罪激減の鍵 ―
みなさんは 「 割れ窓理論 」 というのをお聞きになったことがあるでしょうか?
これは犯罪心理学の一理論で、「 犯罪は環境の無秩序さの不可避的な結果である 」という考え方です。

例えば、割れたまま修理されていない窓のそばを人が通りかかったら、どう思うでしょうか。「 この場に対して誰も関心を持っていないし、誰も責任を取っていない 」 という風に意識的であれ、無意識的であれ、認識するでしょう。 まもなく、ほかの窓も割れます。そしてこの殺伐とした雰囲気はどんどん広がり、犯罪を誘発する信号を発し始めるのです。

都市においては、落書きや風紀の乱れなどの環境悪化の比較的些細な徴候が、「 割れた窓 」 と同様の影響を及ぼし、より深刻な犯罪を誘発していきます。
つまり、この例からこういうことが言えます。犯罪を誘発する刺激が、ある特定の人物からではなく、ある特定の環境条件から発せられているということが―。



( 2 )環境を変えることで激減したニューヨーク市の犯罪
前出の 「 割れ窓 」 理論の提唱者ジョージ・ケリングは、1980年代半ばにニューヨークの地下鉄公団の顧問に就任し、徹底的な 「 落書き撲滅作戦 」 を展開。そして、落書きされた車両は一切路線を走らせないことを厳守させたのです。 夜に操車場に忍び込み、苦労して落書きを完成したのに、それが完成した途端に消し去ら れ、決してその落書きが人目に触れることがない・・・。 その虚しさを味わい続けた若者たちは、落書きをしなくなっていきました。

この落書き掃討作戦は1984年から1990年まで続けられました。 さらに1990年から、地下鉄警察による無賃乗車の徹底的な取締まりが敢行されました。 無賃乗車が、落書きと同様に、さらに深刻な犯罪を誘発する 「 無秩序を象徴する小さなしるし 」 であることを、当時新たに就任した地下鉄警察の指揮官は理解していたからです。 この指揮官もまたケリングの 「 割れ窓 」 理論の信奉者だったのです。

その後、この地下鉄警察の指揮官だった人物はニューヨーク市警の長官となり、地下鉄で試した戦略を全市に適用しました。 ニューヨーク市警は、「 生活環境犯罪 」 の過激な取締まりを始めました。 公共の場所での泥酔や放尿、ごみの不法投棄を行う者たちを取り締まる法律を厳しく適用し、違反を重ねる者は逮捕しました。
すると・・・、地下鉄の場合と同様にすばやく、かつ劇的にニューヨーク市の犯罪は激減し始めたのです。



( 3 )日本の犯罪増加率が欧米諸国を逆転、その訳は?
ニューヨークの事例とはまったく反対の状況に陥っているのが、実は日本なのです。
かつて日本は、世界で最も安全な国と言われていました。 しかしながら、最近になって、その安全大国日本が揺らぎ始めました。
立正大学の犯罪社会学者、小宮信夫助教授の著書によれば、
  • 1991年から2001年までの犯罪認知件数の推移をみると、EU( 欧州連合 )平均では1%減少し、アメリカでは20%減少しているのに対し、日本では60%も増加している。
  • 欧米諸国の犯罪増加に歯止めがかかった背景には、犯罪対策のパラダイム・シフトが存在する。
  • 欧米諸国の犯罪対策は、犯罪者の異常な人格や劣悪な境遇( 家庭・学校・会社など )に犯罪の原因を求め、それを取り除くことによって犯罪を防止しようとする考え( 犯罪原因論 )に基づいて展開されてきたが効果的ではなかった。そこで、1980年代に、犯罪原因論に替わる考え方として「 犯罪機会論 」が台頭してきた。それは、犯罪の機会を与えないことによって犯罪を未然に防止しようとする考え方である。
  • この考え方に基づいて、犯罪対策は物的環境( 道路や建物など )の設計や人的環境( 団結心や警戒心など )の改善を通して、反抗に都合の悪い状況を作り出すことが主流になった。
  • これが、欧米諸国で起こった 「 原因論から機会論へ 」 「 処遇から予防へ 」 というパラダイム・シフトである。
『 犯罪は「 この場所 」で起こる 』 小宮信夫著・光文社刊 )


この犯罪機会論の根幹を成すのが、先ほどご紹介した「 割れ窓 」理論なのです。



( 4 )医学の世界で起ころうとしているパラダイム・シフト ― 環境が人を癒す
医学においても、同様のパラダイム・シフトが今求められようとしています。
つまり 「 病気自体を治そう 」 とするのではなく 「 病気になりにくい場を作る 」 あるいは 「 場を整えることで病気に罹る機会を奪ってしまう 」 ことが可能であり、これは疾病の発生を激減させる可能性を持っているのです。 そして、これは既に病気に罹ってしまっている人の治癒のプロセスを加速する上でも有効だと考えられます。
「 犯罪原因論 」 と 「 犯罪機会論 」 を医療の分野で置き換えるならば 「 病人原因論 」 と 「 環境原因論 」 という言葉になるかもしれません。

病人原因論、つまり個人の疾病を治すために様々な技術を駆使しても、なかなか病気は減らず、医療費は嵩むばかりのこの状況に対して、環境原因論、つまり場自体が人を癒し、ストレスを低減させることによって病気を癒し、またその再発を防ぐだけでなく、疾病自体の発生を予防することが可能であるという考え、この環境原因論に基づいて、建築自体を積極的に医学及び医療として活用していくことを目指して提唱されているのが 「 建築医学 」 です。

そして、実はこの環境原因論に近い認識を持ち、医療を実践していたのが、西洋医学の父といわれるギリシャの医師ヒポクラテスなのです。
ヒポクラテスは著書 『 空気、水、場所について 』 において 「 医師は専門的な知識を持つだけではなく、病者の一人ひとりの環境とまた、その病気によって負わされる社会的な重荷についても静かに考えをめぐらし、深い関心を払わねばならない 」 と述べ、また 「 病人にとって重要なのは、良い水と空気に恵まれた風光明媚な環境をもたらすことであり、それによって病気を癒すことができる 」 と説いています。

これまでお読みいただき、環境と病気との密接な関係性についてかなりご理解頂けたことと思います。


2008年9月25日掲載
これからの住まい環境 06  /  情報提供: 日本建築医学協会

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