2018年1月30日に埼玉県の宅建協会がタウンマネジメントについて学ぶ勉強会を実施した。そこで地元の埼玉の空き家事情についてとして配布された資料に「『埼玉県の空き家』の課題パターン抽出とその解決策の提言 研究報告書」(彩の国さいたま人づくり広域連合発行)がある。
これは埼玉県を走る主要な4路線、つまり東武伊勢崎線、高崎線、東武東上線、西武池袋線で地域を分け、さらに都内通勤者の割合で沿線を3つに分けて空き家事情と課題を探ったもの。
本来は空き家対策への提言を目的とした研究報告なのだが、この視点で見ると空き家がどこにどのように発生しているかが分かるだけでなく、どこに投資すべきかが見えてくる。
■都内通勤者が多い街は流動性、資産価値が高い
4路線×3エリアで、12に分けられた地域を細かく見て行くと、おおむね、どの路線においても都心に近い安定通勤圏と名付けられた都内への通勤者が25%以上のエリアは資産価値が高く、都内通勤者が減るにつれて空き家が増え、過疎化が進んでいるのである。
都内通勤者が多いということは、その地域に流入する可能性のある人口があると考えれば分かりやすいだろう。地元で働く人は地元に居を構えるが、そうした人たちはあまり移動はしない。だが、都心に通勤する人たちは利便性を求めて移動する。そうした人口移動がある街のほうが当然だが、賃貸のニーズもあるはずだ。
■志木市はいいが、坂戸市は?
たとえば東武東上線の場合には安定通勤圏として例に挙げられているのは志木市。ここでは路線価が上昇し、人口が増加している。子育て世代の流入が続いているのである。
これに対して変動通勤圏と呼ばれる10~25%の中には坂戸市があるが、ここでは賃貸住宅の空き家が多いとされている。さらに遠く、地域通勤圏と名付けられた地域内で働く人が多い、都内への通勤者の割合が10%以下の小川町になると過疎化が進んでいる。町内では戸建住宅の比率が高いそうで、住み続けてきた人たちが多く、流動性がないことが分かる。
■所沢市と飯能市の違いは?
あるいは西武池袋線ではの安定通勤圏として上がっているのは所沢市である。同市の地域特性としては沿線開発に伴い、都内通勤者のベッドタウンとして発展してきており、市内にはニュータウンが点在している。路線価が高く、市街地では上昇傾向もあるという。
ところが、これが変動通勤圏である飯能市になるとベッドタウンとして発展、ニュータウンが点在するところまでは同じだが、戸建てが多く、持ち家比率も高くなる。以前から住んでいるファミリー層中心の街というわけだ。
さらに地域通勤圏とされる秩父市になると人口減少、高齢化が進み、独居老人比率が高いという。戸建て、持ち家比率も高いそうで、ここに賃貸ニーズは極めて薄いものと思われる。
また、沿線によって事情が異なっているのも見てとれる。たとえばここまで紹介した2沿線には団地が少ないが、東武伊勢崎線沿線には大団地が多く、距離圏によって更新されている団地、そのままにされている団地などが出てきている。当然、団地の更新は新たに人を呼ぶが、そうでないエリアにはさらなる人口は期待できない。
さて、埼玉県の場合にはこの報告書がアウトラインを教えてくれているので一読すれば、どこを狙うべきかが分かるが、それ以外の地域では当然、こうした研究はない。ひとつ、参考になるのは「関東地方各市区町村からの通勤先比率」という埼玉大学の谷謙二先生が提供している地図。これを見ると自治体ごとにどこに通勤しているかが丸で記され、そのサイズでどこに通勤しているかが分かる。
これで地元通勤が多い地域ではあまり賃貸ニーズがないであろうことが想像されるわけである。目安は25%以上である。
もうひとつ、参考になるのは同じ谷先生が作成している1930年からの都区部への通勤率の変化を表した「東京の通勤圏の変化」。都区部への通勤率、通勤圏は年代を追うごとに拡大しているが、1995年以降は逆に縮小傾向にある。
共働きが増えるにつれ、1時間以上の通勤は嫌われるようになっている。特に賃貸ではその傾向が強い。もちろん、地元ニーズを狙うというのであれば問題ないが、流入する層を狙いたいのであれば、人が流入してくる街かどうかをチェックするのは重要だろう。
健美家編集部(協力:中川寛子)