大家は空室が活用でき、介護事業者は経営上のメリットを享受し、老人ホームを増やさずに済むかもしれない等、そのメリットの多さはすでに述べたとおりです。
では、高齢者が安心して生活できる部屋、「 バリアありー 」の部屋は、どのように実現すればいいのでしょうか?その中には、簡単なDIYでできるものも多くあります。今回はそれについて、具体的に説明させていただきます。
※「 バリアありー 」の特徴や効果については、第2話で詳しく紹介しています。ご参照ください。
■ バリアありーの基本と、高齢者向きアパートへの取り入れ方
バリアあり―の基本は、「 段差を認識する 」「 段差を越える 」といった一連の流れをスムーズに行えるようにすることだ。そのために、室内には以下の工夫を実施する。
<段差を認識する工夫>
段差を認識するには、段差そのものを認識する、段差を予感するという切り口が考えられる。段差そのものを認識するには、「 段差の明瞭化 」を行う。段差のある所に色を付けることにより、段差がわかりやすくなる。
人によってわかりやすい色は違うこともあるので、入居者さんの分かりやすい色を選んでもらう。具体的には、ビニールテープやマスキングテープ、カッティングシートなどを段差近くに張る。あるいはペンキを塗る。
もし暗い場所なら、センサー式のミニ照明を付けてもいい。「 入居者さん本人 」が分かりやすいものを考えて取り付ける。
また、手すりを付けることで、そこにある段差を「 予感 」させることもできる。框には階段のすべり止めを付けると目立つようになるし、足の裏で段差を予感することもできる。また、樹脂製のすべり止めなら、転倒して体をぶつけたときにもクッションとして緩和効果も期待できる。
<手すりを付ける>
手すりは入居者さんの必要に応じて付ける。付ける位置は入居者さんの状態に合わせ、手すりがあれば役に立ちそうな位置に付ける。具体的には室内を歩いてもらい、手をつきそうになる場所を観察する。そして手をつきそうな場所に入居者さんと相談して取り付ける。
また、玄関、トイレ、ベッド、階段、風呂など、立ったり座ったりする場所にも手すりがあると都合がいい。手すりは後述する「 補助板 」を使えばDIYでも簡単に取り付けられる( 写真赤枠部が間柱の位置 )

手すりは壁の「 強度のある場所 」に取り付ける。柱に取り付けられれば簡単だが、うまく付けられない場合が多い。多くの場合は「 間柱 」という細い柱に取り付ける。以下に取り付け方を述べる。
@間柱を探す
一般的に壁には柱と柱の間に、間柱という柱が縦方向に入ってて、間柱に石膏ボードや薄い合板が止められている。石膏ボードや薄い合板に手すりをねじ止めしても強度は期待できない。手すりは柱や間柱など、「 強度が確保できる 」ものに取り付けないと危険だ。
間柱は壁を叩いてみて音の違いで探せる。難しい場合は、専用のセンサーを使えば簡単だ。ホームセンターで1千〜3千円くらいで売っている。

A間柱に補助板を取り付ける
間柱の位置が確認出来たら、間柱に「 補助板 」をねじで取り付ける。手すりはこの補助板に取り付ける。これにより、手すりの長さや、止める位置をあまり考えなくて済むので、取り付けは飛躍的に簡単になる。補助板は手すりを付けてもしっかりと固定できる厚みの板を使う。
また、補助板の上下方向の幅が広いと、手すりの高さ調整が容易になり、入居者さんの腰が曲がってきたりして、手すりを低くしたい時などにも便利だ。
B補助板に手すり本体を取り付ける
取り付けた補助板に手すりを付ける。こうすることで手すりの位置が合わせやすくなるし、既製品でも付けやすくなる。手すりを取り付けたら、手すりに乗って強度を確認する。乗っても壊れない強度であれば手すりの機能は果たせる。
<手すりを付けることは思いやりを伝えることになる>
入居者さんが手すりを付けるのは大家への遠慮があり、なかなか難しい。大家が手すりを付けるのはDIYでもできる。手すりを付けることで「 大家さんが私のために付けてくれた 」と感謝され、いい大家だなと思われる。
「 こんないい大家さんに迷惑などかけられない 」と思うだろう。これにより、スタート時点から良好な関係が築ける。
<石膏ボード追加を考える>
古いアパートの場合は、石膏ボードが入ってなく、火事になると全部燃えてしまうことがある。石膏ボードがしっかり入っていると、火事になっても燃えるのはその部屋だけで済むこともある。
火災を考えると石膏ボードは必需品だ。そこで石膏ボードが入ってない場合は既存の壁の上から石膏ボードを「 追加 」して張る。これにより火災時の安全性が増すだけでなく、遮音性や防音性も向上し、暮らしやすい部屋になる。
ボードの追加はDIYでも容易だ。手すりの補助板を付ける要領で間柱に石膏ボードをねじ止めする。ボードの継ぎ目は溝を付けてパテ埋めして、パテが乾いたら紙やすりで平滑にして、クロスを張る。
多少の段差があっても、工夫次第で安全に生活できるようになる。むしろ、段差の中で生活する方が段差に対する注意力、体力が維持できるので健康に長生きにつながるはずだ。大家の小さな工夫が入居者さんの大きな信頼へつながってゆく。