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自己破産した人も!火事より怖い(?)漏水トラブルと私の対策

芦沢晃さん_画像 芦沢晃さん 第50話 著者のプロフィールを見る

2023/1/28 掲載

コロナ禍3年目を迎え、賃貸市場の回復を実感しています。読者の皆様の状況はいかがでしょうか?

今回は私がコロナ禍中にあえて物件を購入した理由と、偶然にも、購入直後にその理由( リスクヘッジ )が生かされて「 天佑神助 」ともいえる体験をしたお話を紹介させて頂きます。

■ 区分分譲専有部を同じマンション内で縦方向に「 ビンゴ 」で揃える理由は何か?!

私が区分物件を購入するときには、原則として「 1建物1区分」としてきました。その理由は、災害、共用部管理状況( 管理会社や組合の運営クォリティー )、賃貸需要、共用部のトラブルなど、予測不能なリスクをヘッジするためです。

特に築古区分分譲マンションで大きいリスクは漏水です。同じオーナーが建物全体を持つ一棟物件と違い、区分分譲マンションは、専有部と共用部に権利関係が分かれて、その管理業者も分かれています。更に、専有部同志では、各オーナーと入居者が所有権と居住権を持ちます。

ひとたび漏水事故が発生すると、

  • ① 漏水元専有部オーナー
  • ② 漏水元専有部入居者
  • ③ 漏水元専有部管理業者
  • ④ 漏水被害専有部オーナー
  • ⑤ 漏水被害専有部入居者
  • ⑥ 漏水被害専有部管理業者
  • ⑦ 共用部管理組合
  • ⑧ 共用部管理業者

このように、最低でも8者の間での多面的な調整が必要となり、多大な時間、労力、コストを要するリスクがあるわけです。

この厄介なトラブルを避ける対策として、縦方向に複数の区分専有部を所有する、ということがあります。万が一、漏水トラブルが発生しても、自分の所有物件範囲内で、利権関係者数を最小限に抑えて解決できる確率が高まります。

そして先日、このような物件の買い方をしてみました。これを実行しようと決断した理由は、コロナ禍中に漏水事故を発生させて、その損害賠償のために無借金だったにも関わらず、自己破産した区分物件オーナーさんの話を聞いたからです。

■ 火事は「 火災保険 」と「 失火責任法 」で2重プロテクトされているが、区分物件の漏水は保険でもヘッジしきれない!

火事については明治32年法律第40号( 失火ノ責任ニ関スル法律 )で、以下のように決められています。

「 民法第709条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス 」

故意や重過失でない限り、火元は法律上損害賠償責任を負わないということです。

立法当時は、「 火事と喧嘩は江戸の華 」と言われており、街に木造家屋が密集し、一度火事が起きると、大きな災害になりやすい環境でした。そんな中、火事で自宅を失った火元に、更に延焼の責任=損害賠償責任を負わせるのは、個人の賠償能力を大きく超え、酷だという背景があったようです。

これに加え、現代では火災保険に加入することで、火元、もらい火の両方をヘッジできる仕組みになっています。

一方、区分分譲マンションでの漏水については、この「 失火責任法 」のような法的保護がありません。それにも関わらず、防水機能皆無のコンクリートスラブ1枚( 耐火性はあっても水には全く無防備 )で複数専有部が上下左右に隣接しています。

それなのに、民事賠償責任は無限大なのです。これは非常に大きなリスクです。漏水被害の保険がありますが、保険保証の審査条件も、私どもユーザー側からは老朽化原因、突発事故原因などの判定基準がいまいち良くわからず、有事の際、本当に保険金が支払われるのか?の不安が残ります。

※漏水被害の保険については、別の機会にご紹介させて頂く予定です。

■ 借り手は昔からある地元企業で社員寮として利用

今回購入した物件の情報は、既存の区分物件管理をお願いしている管理会社さんからの紹介がきっかけでした。「 芦沢さんが所有している物件の真下の区分専有部を売りたい方がいらっしゃいますよ 」と連絡を頂いたのです。

実は以前から、漏水リスクを考えて、「 もしも、下の部屋が売りに出る場合には是非、お声がけください 」とお願いしていたのです。( この管理会社さんは、このマンションのすぐ近所なので、全棟の約半分程度の専有部を複数のオーナーさんから委託管理されている地元老練の駅前不動産屋さんです )。

この部屋は地元老練企業が社員寮として借りて下さっています。昔から地元商店街さんの仕事を一手に請け負っており、お祭りや花火大会には寄附を頂戴している密着型企業さんですから、万が一、漏水などの入居社員さんへの被害が発生した場合でも、友好的な話し合いが期待できます。

売り手さんは遠方のオーナーさんで、「 資産整理の為の現金化 」ということで、12%の表面利回でお譲り頂くことになりました。私が所有している全物件の平均利回りに等しいので、リスクヘッジを考えると総合的にはメリットありと判断しました。

■ 購入まもなく、漏水事故が発生!

購入から少し経った頃、私が購入した部屋の上の階が退去となり、ルームクリーニングが入りました。終日、クリーニング作業があった日の夕方、管理会社さんから、私の携帯電話に連絡がありました。

「 芦沢さんが先日、新規購入されたお部屋の入居者さんから、漏水のクレームが入りました。上のお部屋がルームクリーニング中ですので、それが原因と思われます 」

クリーニング屋さんはまだ、現場作業中とのことだったので、私はすぐに現場へ急行しました。漏水は、発生真っ最中でしかも、発生原因と思われる当事者が現場にいるときが、最も解決しやすいからです。

到着早々、下の新規購入専有部内に入らせて頂くと、天井から水滴がしたたり落ちて、床まで濡れていました。かなり大量の漏水です。天井の点検口から屋根裏を覗くと、天井コンクリートスラブから明らかに漏水しています。クリーニング作業は終了しているので、今認められるのは痕跡だけです。

取り急ぎ、管理会社さんに、店舗に在庫している紙おむつと防水シートを持参してきてもらい、天井裏へ応急対策を施しました。これでとりあえず、下階の応急処置はOKです。

図1 自分(上階区分)から自分(下階区分)に漏水被害を受けた物件の天井裏

次に急いで上階専有部へ回り、怪しい箇所を見て回ると、電気温水器の下が濡れています。

図2 電気温水器の床下から漏水した痕跡が確認された

床下を覗いてみると、電気温水器真下に排水管が来ており、その時点では漏水は認められませんが、このあたりがかなり濡れており、原因がありそうです。

図3 キッチン下の配管口から床下を覗いてみると調査時点では、漏水は止まっていた。

図2図3の構造を良く調べてみると、図4のように、電気温水器のオーバーフロー管がキッチン床下へ入り、それが排水管の防臭トラップへ注ぐ構造になっています。

図4 電気温水器床下部オーバーフロー排水管防臭トラップ状況

この防臭トラップは軟鉄の鋳造品で、長年の経年変化で、管内がさび付いて閉塞気味になっているようです。試しに注水実験をしてみると、コップでわずかに注ぐ程度なら排水しますが、バケツで大量に注ぐと簡単にオーバーフローしてしまいます。

この現象から、防臭S字の内部が錆で狭窄していると推定されました。しかし、図3図4で示す通り、トラップ自体がコンクリートで床下コンクリスラブと一体となって固められていて、簡単には外せません。

軟鉄の鋳造品に常時、注水される部材が経年でどう変化するかは、誰でもわかります、管内が錆びて閉塞されたときには、簡単に交換できる建築設計とすべきなのは、素人が考えても当然と思うのですが、そうはなっていません。

実はこういった中長期的なメンテナンスを考えていない構造も、投資用ワンルームマンションの欠点の一つです。新築時の見栄えはよくても、建築販売後の経年保守については全く考慮されていないものが多いのです。

■ 推定原因と対策

直前まで、入居者がお住まいだったにも関わらず、なぜ、今まで下階に漏水トラブルが発生しなかったのか?

おそらく、普通の生活排水量程度なら排水できる程度の閉塞具合( 完全閉塞ではない )だったのでしょう。仮に多めの排水で、多少オーバーフローしたとしても、床下コンクリートスラブがスポンジのように吸収できていて、下階室内までは漏水が及んでいなかったと推定されます。

それが、退去後のルームクリーニングで今までにない膨大な給排水を一気に行ったため、大量の排水がオーバーフローして、下階へも漏水を及ぼしたと考えられました。

図3図4のようにコンクリートで固められた防臭トラップは素人の手には負えません。そこで今回は、専門の水道業者さんに交換工事をお願いしました。

図5 これ以降の調査と対策はプロの水道業者さんへ依頼

工法は、給湯器前のフローリング床を剥がして、コンクリートを斫り、軟鉄鋳造品の錆びて閉塞したトラップを撤去し、錆びない樹脂製のものに交換してもらうというものです。固定方法は床下スラブ上に仮固定するだけで、コンクリートで固めるような、愚かな工法はしないようにしました。

■ 入居者様へのお詫びとその後の状況

当然、下階の家財は水濡れしましたし、下階の天井やクロスも水びたしです。管理会社さんを通じて、長年付き合いのある、社宅として借りて頂いている近所の地元企業さんへ報告とお詫びを入れて頂きました。

すると、「 その部屋に住んでいるうちの社員がなにも言っていないので、別にいいですよ 」というお返事です。現場で、若い男性入居社員さんに、家財の水濡れをお詫びすると、「 あー、べつに拭けば乾くんで、いいですよ 」と、全く意に介さない様子でした。

クロスや天井は、すでに私の専有部になっているので、このままとしました。もし、これがオーナーチェンジしていなければ、被害専有部への立ち入り調査を行う時点から大変です。被害専有部の管理会社さん、オーナーさん、入居者さんと交渉が必要で、非常に時間と手間を要したハズです。

被害保証に対しても、入居者は地元同志の人間関係で解決できたとしても、少なくともオーナーさんに対しては、天井とクロスに水濡れ補修工事を賠償しなければならず、いくばくかの被害額が発生していたはずです。

漏水被害の賠償責任保険特約を適用できたかもしれませんが、発生原因が過失や偶発事故ではなく、排水防臭トラップの老朽化による錆閉塞ですから、老朽化が原因ということで、保険を否認されるリスクもあったかもしれません。

縦方向へビンゴに並べて区分物件専有部を揃えた効果が、意外と早々に発揮できました。
偶然とはいえ、前回、前々回ご紹介のコロナ禍での早期入居決定などと並んで、「 天佑神助 」の幸運に救われたと感じましたので、一つの事例としてご紹介させて頂きました。

もし、リスクヘッジを考慮しないで、この下階の専有部を購入していなかったらと想像すると、ちょっと怖い気がいたします。皆様の参考になれば幸いです。

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※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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プロフィール

芦沢晃さん

芦沢晃さんあしざわあきら

兼業大家・個人投資家

東京城西、城南、京浜地区(川崎、横浜沿岸部)、埼玉(南部)を中心に区分分譲マンションを58棟、60室賃貸運営中

プロフィールの詳細を見る

経歴
  • □1958年
    借家住まいのサラリーマン家庭に生まれる

    □1983年
    アルバイトと奨学金で、都内某大学院博士前期課程で電気工学を専攻し、学位とプロ資格取得。
    電気メーカーに入社。通信システム新規事業の研究、開発、設計等の実務に従事

    □1989年
    自宅中古マンションをローンで購入。バブル崩壊で担保割れとなる

    □1995年
    バブル崩壊で担保割れ売却不能となった自宅を賃貸し個人大家&不動産投資をスタート。
    以後、現金で中古ワンルーム区分マンションを1室ずつ購入し賃貸運営を継続

    □2000年
    アツルハイマー病の母親の在宅介護を開始

    □2004年
    リストラにより46歳で指名解雇。某IT企業へ転職し、ITシステム技術開発実務を担当

    □2007年
    沢孝史さんの「お宝不動産」へ参画。セミナー、執筆&出版を実施。
    サラリーマン不動産投資家として、全国の兼業大家さんと交流

    □2013年
    IT企業の営業職で2度目のリストラに合うも、某電気設備メーカーに転身。55歳にして最前線の現役エンジニアへの復帰を果たす。
    ビル、マンションの電気設備エンジニアの本業を大家業に活用

    □2017年
    本業の電気業界が大再編、リストラの嵐が吹き荒れ、勤務先は債務超過、解体再編。
    大荒れの最中に介護中の母親が急逝。
    一方で、兼業大家業は満室安定経営を継続

    □2018年
    18年間に及ぶ介護(9年間は在宅)が終了し、自身も60歳サラリーマン定年。
    個人対会社での個別契約を結び、兼業公認で、技術支援と後継技術者育成を行う

    □2024年
    個人技術士として、業務技術支援、技術講師、テクニカルライティング、学会参加、個人実験研究、株式投資、不定期にご依頼頂く不動産セミナー講師、執筆依頼、メディア取材等を受けながら、健美家ラジオ木曜日パーソナリティを担当。58棟60室の区分物件で兼業大家業を運営し、家賃+配当で好きな趣味を楽しみ悠々自適・晴耕読雨の日々

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