今回は物件を購入する際に重要となる「 物件の価値判断 」についてお話ししたいと思います。
■ 積算評価と収益還元評価を理解しよう
物件にはある値段がついていますが、購入する際には、それが適切な価格なのか相場に比べて高い価格なのか、もしくは安い価格なのかを判断しなくてはなりません。
さらに、融資を利用する場合は、いくらくらいの融資が期待できるのかも判断しないとなりません。このあたりがわからないと、買い付けをいれるにしても満額で入れていいのか、指値をしたらいいのか、いくらまで指値を入れるべきなのかがわかりません。
そういった時に、物件の価値評価として良く使われるのか、「 積算法 」と「 収益還元法 」です。それぞれは物件の持つ「 担保力 」と「 収益力 」の評価です。それぞれについて詳しく説明します。
[ 積算評価法 ]
積算評価法では、その物件の持つ「 担保価値」を評価します。土地は相続税路線価から計算され、建物に関しては㎡当たりの基準価格から経過年数に応じて減価したものとの積算によって考えられます。
土地の相続税路線価は国税庁の「 路線価図・評価倍率表 」で知ることができます。
参照:http://www.rosenka.nta.go.jp/
図1.路線価図の説明 国税庁ホームページより
事例は札幌市の知事公館周辺のものです。路線価図における 430D というのは、単位は千円ですので、1平米あたり43万円ということです。
最後についているDという記号は、この土地が借地であった場合の評価です。この場合はDですので60%、すなわち43万円x60%=25.8万円ということになります。
建物の評価額は銀行によって多少違いますが、再調達価格を「 構造別の建築単価 」×「 面積 」で計算します。建築単価はだいたい、以下のように設定されます。
木造13~15万円/㎡
鉄骨造17~19万円/㎡
RC造19~20万円/㎡
鉄骨造17~19万円/㎡
RC造19~20万円/㎡
例えば路線価430Dの土地200㎡に居住用のRC造200㎡で築17年の建物ですと、RC造の耐用年数は47年ですので、計算は以下のようになります。
土地価格⇒43万円x200=8,600万円
建物価格⇒20万円 × 200 ×(47 - 17)/ 47 = 2,553万円
土地価格+建物価格=11,153万円
建物価格⇒20万円 × 200 ×(47 - 17)/ 47 = 2,553万円
土地価格+建物価格=11,153万円
実際の評価においては土地の形状や場所に対して各銀行で定めている一定の掛け目( 60%とか70% ) をかけることがあり、その場合はさらに土地の評価額は減額されます。
建物も実際はこれよりも建築費がかかることが多く、銀行の評価方法はかなり厳しいものといえます。
[ 収益還元評価法 ]
収益還元法は、その物件が持つ収益性、すなわちその物件を持った場合、どの程度お金が稼げるかを基準とした指標です。利回りの高いほうが収益性は高いと評価されます。
キャッシュフローはローンの借り方や金利・その人のその他の税金などによって変わるので、ここでは問題にしません。あくまでも物件の価値としての評価です。
こちらの評価方法は多くの銀行が利用していて、特に都心部などでは積算評価額と実勢の価格が大幅に乖離しているため、都心部のみ収益還元評価方法で計算する銀行もあります。
収益還元評価の計算式は、「 不動産の収益還元価格 =(年収益-経費)÷ 還元利回り 」です。
例えば、年間の収益が1,000万円、年間の経費が200万円( 維持管理費・修繕費・固都税・損害保険料等 )の物件があるとします。
利回りの期待値を還元利回りとして計算すると、物件の価値が以下のように導き出されます。
利回り7%を期待値としたとき
⇒(1,000万円-200万円)÷ 0.07 = 11,429万円
利回り8%を期待値としたとき
⇒(1,000万円-200万円)÷ 0.08 = 10,000万円
⇒(1,000万円-200万円)÷ 0.07 = 11,429万円
利回り8%を期待値としたとき
⇒(1,000万円-200万円)÷ 0.08 = 10,000万円
積算評価方法と収益還元評価方法のどちらを評価基準に使うかは各銀行の考え方次第です。
現在は積算評価額でのみ評価する銀行が主流ですが、収益還元価格でのみ評価する銀行、それぞれを一定の割合で組み合わせて評価する銀行など、各銀行によって評価方法が違います。
ですから、融資を受けたいときにはいくつかの銀行に対して検討を依頼をすべきだと思います。そうすることで、各銀行の評価方法がわかってくるようになると思います。
■ 銀行の評価と実際の価値とのギャップを理解する
いままでのお話はあくまでも銀行の融資のお話です。銀行は正直、不動産経営のことはよく知りません。そのため、不動産投資において、評価の高いものが価値の高い物件とは一概に言えないところが難しいところです。
現在、多くの銀行が積算評価法によって物件の評価をしています。一般的に積算評価法の場合は地方の土地の方が実勢価格と相続税路線価の価格は近く、都心部の方が実勢価格は相続税路線価よりかなり高いという傾向があります。
さらに、地方の場合は大型RCの物件が多く、建物も評価が高くなる傾向にあります。そのため、地方の物件の方が積算評価方法を用いている銀行の融資が通りやすいという傾向があります。
それを利用して、一部の三為業者( 合法的に中間省略登記を行う業者の事 )といわれる不動産会社では、実勢価格に比べて融資が出るぎりぎりまで売値を高くして収益物件を売る場合があります。
いうまでもなく、融資がついたからといっていい物件というわけではありません。本当にそれだけの価値があるのか、買ってから運営できる価格なのか、購入する側もきちんと評価能力をつけることが必要です。
積算評価が出ることと、実際に取引される土地の価格とは違うことを良く理解し、例えば、一般住宅での土地単価などをきちんと調べて、土地の実勢価格を評価することも重要なことです。
また、建物に関してですが、例えば私の所有する東京と札幌でのRC造の建築単価を比較すると、実際にはほぼ二倍、東京の方が高いです。
その原因として、建築のための人件費の価格差があります。さらに、例えば単身者で要求される部屋の広さも東京と札幌では倍くらい違うことも影響しています。価格のかかる面積当たりの水回りの数が違うことも原因として考えられます。
銀行が建物の積算評価を見る際は、こういった部分は評価されません。そのため、実勢との差異が生じてしまうのです。
例えば私の所有するRC物件でいえば、東京では駅から徒歩9分30㎡の1LDKで10万円以上の家賃でも入居していただけますが、札幌では駅から徒歩7分70㎡・駐車場付きで8万5,000円程度になっています。
貸し出し賃料は新築では東京の場合は12,000円/坪くらいはとれますが、札幌では4,000円/坪くらいが標準です。収益性で見ると1/3。積算評価法ではこのような部分も評価されないことも大きな問題です。
私は個人的には、国が決めた相続税路線価を利用する積算評価法より、その土地や建物が生み出す収益から評価する収益還元評価法の方がより実際に近く、適正な方法だと思っています。
■ 銀行が融資する物件が良い物件とは限らない
私が過去に物件を売却した際に、三為業者が間に入ってさらに先の投資家に売却したことがありました。
その物件は半分空室でしたが、彼らは空室の家賃を想定より25%以上高い値段で3カ月間の家賃保証を行い、それによる収益をもとに収益還元法で評価する銀行に物件を持ち込み、素人大家に売るということをしたようです。
私はそのことを知らなかったのですが、その後トラブルになり、その際に三為業者は私が売却した価格よりかなり高い金額で第三者に売却したということがわかりました。
買主は購入前に売却物件情報を見ていれば、私が売り出した適正価格での売買情報に気が付いたはずですし、周辺の家賃相場を調べていれば、このような高額な家賃設定の物件を買うことはなかったはずです。
【まとめ】
「 銀行評価が出て融資が通ればいい物件 」ではありません。評価方法をきちんと理解したうえで、購入時には周辺の土地相場や家賃相場もきちんと調べましょう。