今回は、元入居者さんのお話です。この入居者さんとの出会いとその後の転身について書きたいと思います。
この入居者様と出会ったのは今から8年程前のことです。その頃に購入した物件の入居者で、前の持ち主( 売主様 )からは「 滞納要注意者 」としてマークされていました。
私が所有者になってからも滞納癖は治らず、定期的に家庭訪問をしましたが、最終的には退去になりました。そこから滞納家賃を完済するまで定期的にお会いし、その度に私からは不動産投資の苦労やメリットを話していました。
滞納家賃を完済してから半年後、この元入居者さんから電話がありました。その内容は一度会ってお話をしたいとのこと。その電話に応じて、物件近くのファミレスに行くと、その元入居者さんから、驚きの提案がありました。
「 大家さん、不動産の買い方や管理の仕方等を教えてください 」
驚きました。理由を聞くと、「 宝くじで高額当選したのですが、このままでは無駄遣いをしてなくなってしまうと思います。それは嫌なので、不動産投資を始めたいと思います 」と言います。
この当時、私の知識で人に教えるのはさすがに早すぎると思い、その話を元師匠にして、私と元師匠のタッグで元入居者さんを期間限定でバックアップすることにしました。
私は、物件の管理や業者の選定方法・物件の購入基準など、元師匠は物件情報の調達・資金調達方法などを指導しました。きつかったと思いますが、元入居者さんは逃げ出しませんでした。
そして、この元入居者さんは、すぐに物件を20戸分購入しました。( 手持ち資金を6割、残りを融資で行い、その融資の引き方も独特でしたが、指値交渉はかなり上手でした )。
期間満了後に独り立ちをしていましたが、今年の4月にふたたび会うことができました。お互いの格好は当時と同じで、とても大家には見えない地味なものでした。元師匠の言いつけを守っているようでした。
その後の話を聞くと、リーマンショック( 2008年 )時に物件を買い進め、現在は住居系・事業系の両方で100室を超える規模を運営しているといいます。エリアは関西で、法人成りも行っていました。
当時の昔話や元師匠が亡くなった時の話など、場所を変えて話をし続け、気が付いたら夜中になっていました。お互いに伴侶もいませんが、充実した毎日を過ごしていました。
ですが、お互いに悩むところは同じ。それは後継者問題です。元入居者さんは法人成りをしていて従業員もいるので、その中から後継者を選定してもよさそうでしたが、「 その器の人間はいない 」とバッサリと斬り捨てました。
かと言って、私も後継者がいるわけではないのであまり詳しくは突っ込みませんでした。あとは、入居者エピソード等のお互いに共感できることについて、たくさんお話をしました。
その時に、こんな話をしました。実は、私は最初、この元入居者が大家業について教えてほしいと相談にきたときに、「 もし、一億円あったらどうしますか? 」と訊いたことがあります。それについての話でした。
初めて訊いたときは、彼はうまく答えられませんでした。しかし、今ならわかるというのです。滞納者を卒業して、大家として成功しつつある彼の回答は、次のようなものでした。
「 一億円あったら、自分がしたいことを行っている先人に逢って、自分がどうしたいかを話をして、それに即した行動するにはどうしたらいいかを聞いて、自分で使い道を判断します 」
滞納していた頃の彼なら、「 何を買うか 」という話をしたと思います。しかし、今の彼は違いました。「 手に入れたお金をいかにうまく生かすか 」。そして、「 お金の使い道を自分自身で判断すること 」の大切さを理解していました。
お金は、いくらたくさんあっても、使ってしまったら終わりです。増えるといわれて人に預けて、あとから「 運用を失敗した 」と謝られても、取り返しがつきません。それは、1,000万円でも1億円でも同じことです。
この元入居者さんは宝くじに当たったおかげで、人生を再生したように見えますが、本当のポイントは金額ではなく、彼の「 マインドの変化 」にあったのだと思います。私も勉強家の彼に負けないように、がんばっていきたいと思います。