昨年末にテレビで「 ザ・ノンフィクション 」というドキュメンタリーを見ました。メインキャストは1970年代にビーイング( 現在の主な所属アーティストはB’z )という音楽制作会社を設立した月光惠亮さんという男性です。
月光さんはビーイングを退社して自分の会社を立ち上げてからも、氷室京介さんやLINDBERGなどをプロデュースした超大物ですが、その日のテーマは、その彼の転落劇にスポットを当てたものでした。
■ 30億の自社ビルを建てた男はなぜ転落したのか?
月光さんは、全盛期には200人の従業員を雇い、海外へはファーストクラスで移動。恵比寿に30億円をかけて自社ビルを建てたものの、覚醒剤使用の罪で逮捕されました。
今はライブハウスで知り合った20代の男性のアパートに転がり込んで、月10万円ほどの年金で暮らしているというその姿を見て、考えさせられるものがありました。
逮捕が直接的な転落の原因ではなく、それ以前からCDが売れなくなったことが事業衰退につながったといいます。8億円の借金を抱え、自社ビルや音楽の版権などをすべて手放しても、追いつかない程だったそうです。
一方で、現在のビーイングはといえば、音楽事業に加えて不動産投資をメイン事業として拡大させています。かつては同じ飯を食った仲間たちと、なぜここまでその後の人生が大きく違ってしまったのでしょうか。
僕は年末年始の1週間以上を費して考え続けました。録画した番組を4回繰り返して見て分析し、自分はどうするべきかと考えた末に、ノートに次の3つのことを書き出しました。
1.いつまでも今の事業がうまくいくと思ってはいけない
月光さんが活躍した80年代や90年代前半は、日本の音楽業界に最も勢いがありました。そこから時代も流行もテクノロジーも変わり、音楽業界のマネタイズの方法も変わってきました。その変化に合わせて形を変えていけない者は座して死を待つのみです。
僕が不動産投資を始めた頃、資金力不足でマーケットになかなか参入できず、外から市場をずっと見ていました。自分は何に投資すべきかと常に考えていました。
今でもよく覚えているのが2,800万円で利回り12%の2階建木造アパートです。優良法人が借上げていたこともあり、融資については金融機関の内諾をもらいました。でも、あと一歩を踏み出せず、購入には至りませんでした。
結果として、このようなどこにでもあるアパートを買わなかったことは、僕にとって正解でした。では、自分はどんな物件を買うべきなのか。その後は日夜、自分にそのことを問い続けました。
2009年のある時、空き店舗を見ながらあることに気がつきました。当時はまだスマホは一般的ではありませんでしたが、iPhone3Gは発売され、携帯でモノを買う、通販するということが少しずつ広まってきていました。
そして、高崎市の街並みを歩きながら、小売店が以前よりなくなってきていること、新しい店舗がオープンするのは飲食業がほとんどだということに気がついたのです。
これからもモノはネット通販で売れ続けていくだろう。しかし飲食店は通販できない。すなわち、どんなネット時代になろうとも飲食店はなくならない。だから僕は、飲食店にターゲットを絞り投資をしていこう。ここでようやく、方針が固まりました。
あれから10年以上が経過。先日、これもテレビで見たのですが、会社の忘年会が居酒屋等ではなく、ケータリングを利用して会社で行われていることや、自宅にいながらネット上で映像を通じて飲み会をする人が増えていることなどを知りました。
また、これから先のそう遠くない世界では、人間は脳だけが残り、体は必要なくなっていくといいます。脳への刺激、すなわち疑似体験、バーチャルの世界になっていくというのです。
こうした世界では、ウーバーイーツのような形態が加速していくと思います。僕が昨年まで住んでいたマレーシアのペナン島でも、ウーバーイーツはかなり一般的でした。
そんな未来に、店舗というものが必要なのだろうか。そして、そんな店舗に対していつまで投資をするのか。僕のセンサーは、「 このまま進まずによく考えろ 」と警笛を鳴らしました。
2.固定費を低く、組織を小さくする
家賃、光熱費、人件費、リース、借入金の返済などの固定費は、売り上げがなくても一定の割合で発生します。売り上げが好調の時は問題ありませんが、低調な時にはこの固定費に苦しめられることになります。
30億のビルを所有し、200人の従業員を雇用していた月光さんとは比べ物にはなりませんが、僕も以前、レコード店を経営していました。最高時は3店舗で10人以上を雇用していたため、固定費の重さ、きつさは骨身に沁みています。
そしてまた今、好調だからと店舗や従業員を増やし、設備投資をすることの怖さを思い出しました。ましてや、先に書いたように、これからの時代は今まで以上に早く大きく変わっていくはずです。
今こそもう一度、ダーウィンの「 最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である 」という言葉を噛みしめる必要があるのかもしれません。
巨大な恐竜が急激な気候の変化に対応できずに絶滅したように、組織も所有物件も大きいと変わるのに時間がかかります。組織も所有物件も、もう一度シンプルに整え、変化にすぐに対応できるようにしたいと思いました。
3.不動産投資をもう1度研究する
30億円をかけて建てたビルを手放した月光さんと、今や不動産投資事業がメインのビジネスにまで成長しているビーイング。ちなみにWikipediaでは、ビーイングの不動産投資部門は以下のように紹介されています。( 一部略 )
「 1998年頃よりこれまでに蓄えていた豊富な財源を利用し大阪市内に多数のビルやマンション、駐車場などの不動産投資を始める。その後も保有資産を増やし続け2019年現在までにグループが保有するビル、マンション、駐車場などの不動産は関西地区のみだけで1,500を超える。2000年代中期より音楽業界ではCDの売り上げ不振が続き各レコード会社とも業績の悪化を余儀なくされている状況だが、それ以前に不動産投資に着手したビーイングは音楽事業以外での収益の獲得に成功している。」
時代がどう変わっていくのかは確かではありません。しかし、形を変えながらもいつの時代も「 衣食住 」が人の生活に必要である以上、不動産投資は個人や組織を支える安定的な柱として欠かせない存在であり続けると思います。
この年末年始に70冊近くの本を購入しました。不動産投資、株式投資というものの歴史や関係する人物を学び直したい。改めて分析・研究をし直して、2020年代をゼロから始めよう。そう思ったからです。
2010年代には通用した僕の不動産投資スタイルですが、次の10年間のために、大幅に見直したいと考えています。
■ 時代が変わる時にチャンスが訪れる
今年8月に東京オリンピックが終わってから、どのような日本になっていくのか。11月のアメリカ大統領選挙でどのような世界に変わっていくのか。しばらく続いた好景気が終わり、不安定で先の読めない時代がいよいよ始まるかもしれません。
しかし、時代が変わる時こそが本当のチャンス。今までの誰でも勝てた時代から、いよいよ本物だけ生き残る時代へ。僕は武者震いするほどの期待と不安を胸に、日々を全力で楽しみたいと思います。
そして、常にプレイヤーとしての僕の体験から得た学びをこのコラムに詰め込みます。読者のみなさま、今年一年もよろしくお願いいたします。