賃料交渉をされてきた店舗はすべて、スナック・バーなど夜の飲食店でした。料理をメインに提供する飲食店さんからのリクエストはありません。
僕は「 安く買って安く貸す 」をモットーとしてきました。僕のテナント賃料のプライシングは、安いことはあっても高いことはないはずです。
オーナーチェンジで購入した場合は、しばらくはそのままの賃料を引き継ぎ、次の更新や2~3年のおつきあいを経た後で、こちらから値下げした賃料を提示します。空室の状態で貸し出す場合には、これ以上ないくらいの安い金額で貸し出します。
契約する前に「 これ以上ないほど安く貸しますので、値上げはあってもこれ以上の値下げはありませんよ 」と半分本気で半分冗談で笑いながらきちんと説明をしておきます。
高く貸して数年で退去されるよりも、安くてもずっと使ってもらう方が良いと思っています。そして、良いお店が入っているビルは他のテナントさんも入りたくなるはずです。
ビル・店舗投資を始めてから15年目になりますが、僕はそうやって運営し、テナントさんとの関係を深めてきました。
■ 賃料値下げのリクエストを断った理由
このコロナ騒動の中、3年契約で2回目の更新をしてくれたテナントさんがいます。つまり6年間店舗を借りてくれて7年目のおつきあいになる方です。この方には更新ごとに1万円、賃料を下げてきました。
家賃の遅れが1度もないので、2回の更新では2回とも更新料をいただいていません。お願いされてではなく、いつも僕の方からそうしています。
今回、こちらのテナントさんからも「 コロナで厳しいので賃料を下げて欲しい 」というリクエストがありました。お店を営業している限り従業員の方などの経費は通常同様にかかりますが、売り上げが5割減以上だというのです。
それは僕もよくわかるのですが、賃料を下げることは断りました。もちろん、すべての店舗に対して頭ごなしに減額を断るつもりはありません。
しかしながら、僕も現在の段階では固定資産税など税金の減額や免除はなく、借入をして購入している物件は利息の免除等もなく、同様の影響を受けています。先日は予定納税で高級外車が買えるほどの税金を納めたばかりです。
注)この原稿を書いているタイミングで固定資産税の減税があると下記のようにアナウンスがありました。
「 中小企業保有の全ての設備や建物などの、2021年度の固定資産税と都市計画税を減免する。2~10月までの任意の3カ月間の売上高の前年同期比減少率が30%以上50%未満の場合2分の1、50%以上減少の場合は全額免除とする。2月以降、前年同月比20%以上収入が減少した全事業者に対し、無担保かつ延滞税なしで納税を猶予する。法人税や消費税、固定資産税など基本的にすべての税が対象となる 」
「 中小企業保有の全ての設備や建物などの、2021年度の固定資産税と都市計画税を減免する。2~10月までの任意の3カ月間の売上高の前年同期比減少率が30%以上50%未満の場合2分の1、50%以上減少の場合は全額免除とする。2月以降、前年同月比20%以上収入が減少した全事業者に対し、無担保かつ延滞税なしで納税を猶予する。法人税や消費税、固定資産税など基本的にすべての税が対象となる 」
全ての事業は経営計画が必要ということを僕は10年前のドン底生活時代に痛感しました。そして、事業を行うならば、トラブルが起こった時に備えて運転資金としてできれば6ヶ月、最低でも3ヶ月収入がゼロでもやっていけるだけの資金が銀行口座になければいけないということも学びました。
僕を含めて中小零細企業や自営業は自転車操業になりがちですが、万が一の時に備えて良い時に悪いときのことを考えて準備しておかなければいけないのです。これは僕が2年間毎月1度の勉強会を開催した時に、ほとんどの先生たちが言っていました。
ここ数年間の飲食業はアベノミクスの恩恵を受けてかなり景気が良かったはずですが、大家側の僕はそういう時にも「 景気が良いから店舗の賃料を上げて 」とは言いませんでした。
「 景気の良い時だけでいいから数ヶ月家賃をあげてくれ 」と言ったら、テナントさんはどんな返答をされるでしょうか。「 繁盛しているのは営業努力です 」と答えて、断ると思いますし、それは当然だと思います。
ですから、良い時に散々儲けたお金をどう使うかは自由ですが、「 悪くなって2ヶ月しか経過していない段階で賃料を下げてくれというのは違うかもしれません 」と僕は伝えました。
■ 安易な値下げは悪である
まずは、自助努力を最大限して欲しい。お店を開けてもお客さんが来ないならば、そしてお店を営業しないように要請があったとしたならば、今の事業ではなく他に何かできないか。従業員がいるならば他に何かの仕事はできないかを考えてほしい。
例えば、Zoomなどで有料のオンラインスナックをしてみたり、マスターやママがオンラインセミナーをしてみたり、頭をフル回転させて考えれば、何かできることはあるはずです。
また、コロナ被害対策の国や行政からの色々な融資があるので、そういうものを利用するのはどうか。僕自身は、これから数ヶ月の損害を確認して、状況によっては融資や減税の手続きをしてみようと思っています。
こんな状況でもアメーバのように形を変えて生き残れるはず。やれることを全てやってから最後に取引先にお願いをするというのは、事業をするものとして当たり前でないのか。僕はそう考えています。
こういう大変な時だからと家賃を軽々しく下げるのは良いことだとは思いません。ましてや、普段から営業をきちんとしているところならともかく、いつ行ってもお店を開けていないようなところがここぞとばかりに「 コロナ 」と言うことを僕は拒否します。
しかし、一方で経営をしっかりと数字で見ているところもあります。そういうところで先行きを見通して事前に意向を伝えてくる方に対しては、対応の余地はあると思っています。
それでも先方の希望する条件と僕の条件が合わなければ、どうするのか。契約を継続してもらうのか、それとも契約を解除して空室を覚悟で新たに違うテナントを探すのか…。
この先の状況も次々と変わると思いますが、今の段階では、次のどちらかを選んでもらおうと思っています。
①賃料の支払いが厳しいところは数ヶ月~1年程度の賃料支払いの遅れを認めるが、賃料の値下げは基本的にはしない。
②値下げをしても回復後にはその差額分を支払ってもらう。
普段から必要以上に多く賃料をもらおうとは考えていません。しかし、繰り返しになりますが、安易な値下げも悪だと僕は考えています。
もちろん、僕の考えが正解というわけではありません。全ての不動産投資家の属性も状況も違うのですから、答えは千差万別です。
僕自身、普段はもう少しシビアにお付き合いして、今回みたいな大変な時だけ優しくした方が良いのかもしれないと思ったりもしていますが、こういう経験を積み重ねて改善していくしかないと思っています。
■ キツいときの過ごし方
それにしても先が見えない今のような時は、メンタルの消耗が激しいかもしれません。こういう時こそ、乗り越えてきた修羅場の数と経験を生かすときであり、腕の見せ所だと僕は思っています。
自分の信念と経営哲学に照らし合わせて、時には清濁併せ呑んでいきながら、生き延びることを考えましょう。
状況によっては「 一気に改革をするチャンス 」と一度ゼロリセットをするくらいの覚悟と、「 雨降って地固まる 」ではなく、「 雨降って地固める 」という意気込みでお互いに乗り越えたいですね。
今回、初めての困難に直面しているという不動産投資家の方に伝えたいのですが、こういう時こそ自分が大きく成長できます。
問題を頭と心の中のイメージで捉えるのではなく、一つ一つ書き出して数字と図で整理していく。そして毎日を1日1日の区切りで生きていく。もし今が少しキツいなら、昨日のことも明日のことも考えない。ただ今日に全力を尽くす。
今回、世の中の半数以上の飲食店が潰れてしまうのではないかと言われています。こんな状況でも僕が生き延びることができそうなのは、借入は10年以内を基本として既にいくつかの借入が終了していることや、現金で購入している物件がたくさんあるからだと思います。
今の僕は、90年代のバブルが如何に厳しかったかを少しずつ体感している気がします。あのバブルを全身に浴び大火傷をしながら、バブル後も戦い生き抜いてきた僕の父親の「 借入は10年以内にしろ 」という教えに僕は今回救われました。
※詳しくは第22話「 融資期間を最長10年にする理由ー不動産屋の息子としてバブルを見た僕にできることー 」をお読みください。