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どっちが払う? 退去時の原状回復にまつわる問題

泉義孝さん_画像 第14話

賃貸借契約は、いつかは終了します。貸主としても借主としても、最後はお互い気持ちよく終了させたいところです。しかし、退去時の原状回復に関連するトラブルは少なくないのが現実です。

入居中は大きなトラブルはなかったのに、退去時にすんなりいかないということもありますから、貸主としては最後の最後まで気を抜けません。今回は、そんな退去時の原状回復にまつわる問題についてお話ししたいと思います。

1、退去の際の原状回復義務

借主は賃貸借契約が終了して物件を明け渡す際に、物件を原状に回復して貸主に返還する必要があります( 民法616条,597条1項,598条 )。これを「 借主の原状回復義務 」といいます。

原状回復というと、「 物件を完全に入居時の元通りの状態にする 」ことと考える方もいるかもしれませんが、それは正確ではありません。ここでいう原状回復とは、「 賃借した物件に賃借後に付け加えたもの・設置したものを取り除いて、元の状態にして返還する 」ということです。

借主は通常の使用をした場合に生じた損耗や時の経過によって生じた劣化( こうした損耗や劣化を「 通常使用による損耗 」といいます )について、新しいものに交換する義務まではありません。

賃貸借契約は、借主による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものですから、借主が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の損耗は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されており、貸主は通常、それらの修繕等に要する費用も考慮して賃料額を定めているからです。

判例( 最判平成17年12月16日 )の考え方も同様です。

2、通常使用による損耗と通常使用を超える損耗

上でお話ししたとおり、原則として「 通常使用による損耗 」は、借主の原状回復義務に含まれないため、貸主は借主に回復費用を請求できないということになります。

通常使用による損耗には、たとえば、家具を設置したことで生じたカーペットのへこみや、テレビや冷蔵庫などの電化製品の後ろの壁紙にできた電気焼け、日照等による畳や壁紙の変色などが含まれます。

他方で、「 借主が故意・過失により物件に傷や汚れをつけてしまった場合 」は、「 通常使用による損耗 」とはいえませんので、原則として原状回復義務を負うことになります。

たとえば、引っ越しの際に家具を搬送するときに床に傷をつけてしまった場合や、子どもが壁紙に落書きをしてしまった場合などがあります。

貸主と借主との間で、「 通常使用による損耗 」か「 通常使用を超える損耗 」かについて、争いになることも少なくありません。

この点については、国土交通省から発行されている「 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン( 再改訂版 )」に、様々な事例につき、貸主と借主のどちらが費用を負担するべきかという基準が示されているので、参考になるでしょう。

ガイドラインはそれ自体には強制力はありませんが、裁判で争われた場合に、裁判所はガイドラインに沿った内容で判断することが少なくないため、借主との間で「 通常使用による損耗 」か「 通常使用を超える損耗 」かで揉めた場合には、確認してみるとよいでしょう。

3、借主負担を定めた特約の有効性

では、賃貸借契約で、借主は故意・過失を問わず、物件の毀損・汚損等の損害につき賠償しなければならない旨の特約が定めておけば、借主に「 通常使用による損耗 」についての修繕費用を請求することができるのでしょうか。

このような特約の有効性についてですが、まず、強行法規に反しないものであれば、特約を設けることは契約自由の原則から認められます。

しかし、借主に「 通常使用による損耗 」について負担させる内容の特約は、借主に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課すことになるため、以下の3つの要件をすべて満たしていなければ有効とはなりません。

@特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
A借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
B借主が特約による義務負担の意思表示をしていること


したがって、上述のような特約の有効性は、厳しい条件を満たした場合に初めて認められるのであり、簡単には認められないのが現状です。

4、原状回復の範囲

「 通常使用を超える損耗 」にあたるとなった場合でも、原状回復費用をどこまで借主に請求できるかについては別途検討する必要があります。

たとえば、借主が誤ってクロスに傷をつけてしまった場合に、借主に部屋全体のクロスの張替え費用を請求できるのか、それとも傷を含む面の張替え費用のみ請求できるのかといった問題( 負担対象範囲の問題 )があります。

また、入居時からの期間の経過により、借主に請求できる金額が変わってくるのかという問題( 経過年数の問題 )もあります。これらの問題について検討する場合も、上でご紹介したガイドラインが参考になります。

たとえば、負担対象範囲の問題について、ガイドラインは、クロスについては「 u単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない 」としています。

また、経過年数の問題については、クロスについては「 6年で残存価値1円となるような直線( または曲線 )を想定し、負担割合を算定する 」としています。

5、原状回復トラブル防止のためにできること

最後に、原状回復トラブルを防ぐために、貸主としてはどのようなことに気を付けておくべきかについて、簡単にお話ししたいと思います。

まず、賃貸借契約書で原状回復に関する特約を設けている場合は、無効となりそうな内容になっていないか確認しておく必要があります。無効となりそうな条項があれば、予め内容を変更するか、削除しておくべきです。

また、借主入居前の物件チェックも重要です。物件の状態( 傷や汚れの有無 )を確認する書面を作成したり、物件内の写真を撮影したりして、傷・汚れが入居前からあったものなのか、入居後に生じたものなのかがわかるようにしておくとよいでしょう。

経過年数をめぐるトラブルを防止するためには、修復対象物の修理・交換などの履歴をきちんと残しておくことが有効です。

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健美家不動産投資コラム

プロフィール

■ 泉義孝(いずみよしたか)さん

泉義孝さん

弁護士・不動産投資家
「泉総合法律事務所」代表
「不動産トラブル何でも法律相談所」所長

■ 経歴

京都大学法学部卒業。
社会人生活を経て司法試験に合格し、2000年に弁護士登録。

都内にて勤務弁護士を2年間務めたのち、共同事務所を設立して独立。
その後、個人事務所を開設し、弁護士法人泉総合法律事務所を設立する。

知的財産権、渉外関係を除く民事全般、刑事事件全般に取り組んでおり、不動産関連の案件の実績も豊富。

信条は「多角的視点に立って、最後まで粘り強く戦い抜くこと」。
趣味は海外旅行で、特に好きなのはイタリア。

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