私はどちらかというと空室が続いて困ったことが多く、おかしな入居者に居座られて参ったというような経験はありません。( おかしな入居者は何人かいらっしゃいましたが、皆さん、いつの間にか退去されました )。
しかし、世の中には家賃を払わないのに出ていかないなど、大家泣かせの賃借人も多くいます。そんな中、「 定期借家契約 」が静かなブームを呼びつつあるようで、私もかなり期待しています。
そもそも、今の「 普通借家 」のルールは、戦時中に生まれたものです。日本では1940年~1945年の第二次世界大戦時代、兵士を増やす為に「 生めや、増やせや 」で、多くの子供が生まれ、人口も増えていきました。
賃貸物件に対して賃借人が多く、今とは違う「 貸手市場 」だったのです。戦場に借り出される男に「 残った妻子のことを気にせず、安心してお国の為に戦死して下さい 」とばかりにできたのが、当時の「 借地・借家法 」です。
これは、居住用物件を一旦借りたら「 借地・借家権 」が発生し、半永久的に借り続けられるという、借家人保護の制度です。大家は、自分がそこ以外に住むところがないなど、余程の「 正当事由 」がないと、明け渡しを請求することはできません。
明け渡しが叶った際も、賃借人の退去費用・引越費用等の天文学的な費用を負担し、引越先まで見つける必要があります。この退去費用・引越費用等は、へたをこけば、数年分~数十年分の受取家賃くらいぶっとぶくらいです。
その後、戦後の高度成長も終わり、1990年の平成バブル崩壊後は少子高齢化・人口減・大不況もあってか、賃貸物件は供給過剰になってしまいました。それでも、新築志向の日本では中古・空き家は放ったまま、新築物件が増え続けています。
借手市場になった今、礼金・敷金・更新料制度も崩壊し、逆に、広告費の悪弊が蔓延し、もはや賃借人ではなく、賃貸人の方こそ、弱者になっているように感じます。
家賃滞納、修理費、リフォーム費用、広告費、フリーレント、家賃スライド、家賃の値下げ要求、そして税金。賃貸人は、もはや青息吐息です・・・。ハー。
ところで、平成12年に、「 一度貸したものが二度と戻らないのでは、賃貸の流通が損なわれる 」ということで生まれたのが、「 定期借家制度 」です。文字通り、一定期間のみ賃貸で、一定期間経過後は返却してもらえます。
これに対し、今までのものは「 普通借家契約 」と言われるようになりました。世界標準では日本の「 定期借家制度 」こそ「 普通 」であり、日本の「 普通借家契約 」というものは、世界標準での「 異常借家契約 」です。
法令を作ったり判断されておられる国会議員・官僚・裁判官等のお偉いさんは、大金持ちで自宅はいくつも所有されておられ、賃借ということはない為、昨今の下々の現状は御存じないのかもしれません。( 皮肉です )。
ところで、「 定期借家契約 」のメリット・デメリットは何でしょうか? メリットとしては、文字通り「 定期 」な為、家賃滞納・近隣トラブル等、悪質な入居者については、賃貸借期間満了で終了とし、賃貸借契約を更新しないことが可能なことです。
また、自分たちが転勤期間中等の短期間のみ賃貸したい場合や、近い将来、建て直し等の予定がある場合等、一定期間のみ賃貸したい場合には便利です。悪質な入居者対策という意味では、他の入居者、不動産賃貸管理会社にとっても、メリットでしょう。
逆にデメリットとしては、「 重要事項説明書 」・「 賃貸借契約書 」以外に、「 定期借家確認書 」なるものが必要で、賃貸借期間満了前にも、その旨の通知が必要となるため、不動産賃貸管理会社に「 面倒だ 」と嫌がられることがあります。
入居者にとっては更新できないリスクを感じることもある為、賃貸料が安くなりがちなこと、賃貸人・賃借人・不動産賃貸管理会社共に、「 定期借家契約 」制度自体がほとんど認知されておらず、説明に手間がかかることもデメリットでしょう。
ただし、「 家賃滞納、トラブル( 騒音・塵出し等 )等がなければ、契約は更新される 」ということを前提に、良好な環境を保障しつつ、運営していけば、誰にもデメリットを感じさせず、うまく運営することも可能かと思われます。
大家の集まりなどに行くと、「 定期借家契約を取り入れたいけど管理会社に反対された 」というような話をよく聞きます。しかし、中身を理解してもらえば、業界全体にもメリットがあることが、わかってもらえるはずです。
不動産業界はどの業界よりも変化が遅いといわれますが、いつまでも戦時中のルールに縛られているわけにはいけません。大家が声をあげることで、業界の人たちにも理解を求めていきましょう。
【 まとめ 】
「定期賃貸借契約」はうまく活用すれば、滞納・トラブル悪質入居者対策になります。建て直し前等の短期間の賃貸借の場合にも、有効活用できます。もっと、大家が声をあげて広めていきましょう。