第10回目は、不動産投資の面でも知っておくと良い会計処理の一つをご紹介いたします。
最近、私も含めてですが、事業再生構築補助金や事業承継・引継ぎ補助金などの補助金制度を活用して、新しい事業や分野への取り組みを行うために建物の改修や設備投資をされる不動産投資家の方が増えています。
補助金申請を行い、採択決定され、建物の改修や設備投資などについて補助金申請を行った内容が完了し、完了報告をしてそれが承認されると、補助金が入ってきます。
補助金が入ってくると、その補助金に対して税金がかかります。その補助金に対してかかってしまう税金を繰り延べることができる会計処理として「 圧縮記帳 」という処理方法があります。
■ 補助金への税金を繰り延べできる「 圧縮記帳 」とは?
圧縮記帳とは、補助金や助成金などの臨時的に発生する収入にかかる税金を、補助金や助成金を受取ったときに一度に課税するのではなく、次年度以降にタイミングを遅らせることができる制度です。圧縮記帳を適用することによって、何年かに分散して税金を支払えるようになります。
一度に税金を支払う必要がなくなるため、助成金を受け取った効果がそのまま享受できるようになります。ただし、税金を一度に支払わなくてよくなるだけで、税金が免除される訳ではないということに注意してください。以下に、事例を紹介します。
1.圧縮記帳の会計処理を適用しない場合( 通常の会計処理 )
事例 )建築費10,000万円の保育園用木造建物( 耐用年数22年 )を手元資金2,500万円と補助金7,500万円で建築した場合
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① 補助金の受取り
現預金 7,500万円/補助金収入 7,500万円 -
② 建築費の支払い
建物 10,000万円/現預金 10,000万円 - ③ 決算時の減価償却費の計上( 定額法償却率0.046 )
減価償却費 460万円/建物 460万円
※10,000万円×0.046=460万円
補助金のみを収入とした場合、利益は「 7,500万円( 補助金 )- 460万円( 減価償却費 )= 7,040万円 」となり、支払う税金は税率が30%とすると、「 7,040万円×30% = 2,112万円 」となります。つまり、補助金の実質的な受取額は、5,388万円( 7,500万円-2,112万円 )になってしまいます。
2.圧縮記帳圧の会計処理を適用した場合
次に、圧縮記帳を適用した場合の会計処理を紹介します。圧縮記帳には「 直接減額方式 」と「 積立金方式 」の2つの方法があるので、両方のケースを記載します。
1)圧縮記帳の「 直接減額方式 」で処理する場合
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① 補助金の受取り
現預金 7,500万円/補助金収入 7,500万円 -
② 建築費の支払い
建物 10,000万円/現預金 10,000万円 -
③ 圧縮損の計上
建物圧縮損 7,500万円/建物 7,500万円 -
④ 決算時の減価償却費の計上( 定額法償却率0.046 )
減価償却費 115万円/建物 115万円
※( 10,000万円-7,500万円 )×0,046=115万円
圧縮記帳の直接減額方式は通常の会計処理と違い、助成金の受取額と同額を圧縮損として損失を計上して、建物の取得価額を減少させています。
補助金のみを収入とした場合、利益は「 7,500万円( 補助金 )- 7,500万円( 圧縮損 )-115万円( 減価償却費 )= △115万円 」と赤字になるため、支払う税金は0円になります。補助金の実質的な受取額は、7,500万円( 7,500万円-0円 )という結果になり、実質的に補助金の全額を受取る形となります。
2)圧縮記帳の「 積立金方式 」で処理する場合
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① 補助金の受取り
現預金 7,500万円/補助金収入 7,500万円 -
② 建築費の支払い
建物 10,000万円/現預金 10,000万円 -
③ 積立金の計上
繰越利益剰余金7,500万円/圧縮積立金 7,500万円 -
④ 決算時の減価償却費の計上( 定額法償却率0.046 )
減価償却費 460万円/建物 460万円
※ 建物10,000万円×0.046=460万円
- ⑤ 決算時の圧縮積立金の取り崩し
圧縮積立金345万円/繰越利益剰余金345万円
※圧縮積立金 7,500万円×0.046=345万円
注意点ですが、「 積立金方式 」で処理した場合、会計処理と税務処理が異なります。
< 会計処理 >
補助金のみが収入とした場合、利益は「 7,500万円( 補助金 )- 460万円( 減価償却費 )= 税引き前当期純利益 7,040万円 」になります。
ちなみに直接減額方式の場合、「 利益7,500万円 - 115万( 減価償却費 )- 7,500万円( 圧縮損 )= 税引き前当期純利益 △115万円 」になります。
< 税務処理 >
税引き前当期純利益 7,040万円 ― 圧縮積立金 7,500万円 + 圧縮積立金取り崩し額 345万円 = 課税所得 △115万円
課税所得が△115万なので、税務上は直接減額方式と同じく支払う税金は0円になります。また、補助金の実質的な受取額は、7,500万円( 7,500万円-0円 )という結果になり、直接減額方式と同様に実質的に補助金の全額を受取る形ということとなります。
■ 直接減額方式と積立金方式の違いと注意点
上記の事例のとおり、税金の支払いのタイミングを次年度以降に遅らせることが出来るという点では、直接減額方式も積立金方式どちらも同じですが、損益計算書の税引き前当期純利益の数字については異なってしまうのです。
この違いですが、直接減額方式の場合は、上記の事例のとおり、建物圧縮損 7,500万円/建物 7,500万円で相殺して建物を圧縮します。そして、建物圧縮損は損益計算書上、特別損失として計上します。
一方、積立金方式の場合は、繰越利益剰余金7,500万円/圧縮積立金 7,500万円として貸借対照表の純資産の部に計上して調整をし、損益計算書では調整をしません。また、圧縮積立金は税務上、課税所得の減算項目( 損金算入 )なので、上記の事例のとおりとなるのです。
また、課税所得は上記の事例の場合、△115万円なので、損益計算書の法人税等は0円になり、税引き後当期純利益は、税引き前当期純利益と同じ 7,040万円になります。
一方、直接減額方式の場合、上記の事例のとおり、損益計算書の税引き前当期純利益 △115万円となり、法人税等は0円で、最終の税引き後当期純利益は △115万円になります。
繰り返しになりますが、税金の支払いのタイミングを次年度以降に遅らせることが出来るという点ではどちらの処理も同じですが、片や当期純利益が7,040万円、一方は△115万円とでは、金融機関の与信評価なども大きく変わってきてしまいます。自分は積立金方式で処理を行っています。
■ 圧縮記帳はどんな時に使えるのか?
圧縮記帳が使えるケースは、設備投資などを目的とした補助金や助成金以外にも複数あります。
< 圧縮記帳が使えるケース >
根拠法令 | 圧縮記帳の例 | 根拠条文 |
法人税 | 国庫補助金等で固定資産等を取得 | 法人税法第42~44条 |
工事負担金で建物を取得 | 法人税法第45条 | |
非出資組合が賦課金で固定資産等を取得 | 法人税法第46条 | |
保険金等で固定資産等を取得 | 法人税法第47~49条 | |
土地・建物などを交換により取得 | 法人税法第50条 | |
租税特別 措置法 | 収用等に伴い代替資産を取得 | 租税特別措置法第64条、64条の2 |
換地処分等に伴い資産を取得 | 租税特別措置法第65条 | |
特定の資産の買換え等により取得 | 租税特別措置法第65条の7 |
不動産投資家の方が使えるものとしては、赤字で記載してある国庫補助金等で固定資産等を取得したケースと、保険金等で固定資産等を取得したケースが多くなると思います。例として、台風の被害により、火災保険の保険金が自分の所有物件で発生した事例を紹介します。
事例 )地下の音楽スタジオが台風によって給水ポンプが故障。床下浸水し、床の張替80万円と給水ポンプの交換60万で合わせて140万の損害が発生したが、火災保険の施設賠償保険で140万全額が保険金で賄えたケース
< やりがちな会計処理 >
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① 保険金の受取り
現預金 140万円/保険金収入 140万円 -
② 費用の支払い
修繕費 140万円/現預金 140万円
< 圧縮記帳を使った正しい会計処理 >
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① 保険金の受取り
現預金 140万円/保険金収入 140万円 -
② 費用の支払い
建物附属設備60万円/ 現預金 140万円
修繕費80万円 -
③ 圧縮損の計上
建物附属設備圧縮損60万円/ 建物附属設備60万円
本来、建物附属設備として固定資産に計上しなければならない給水ポンプの60万円を、修繕費として費用で計上してしまうと、税務調査が入った際に、「 固定資産に計上して耐用年数に応じて毎期減価償却費を計上してください 」と言われる可能性があります。
そうすると、固定資産に計上した分だけ、保険金収入に掛かる税金を支払うことになってしまうので、圧縮記帳を適用して処理するのがお勧めです。
■ 圧縮記帳を適用した場合の税務申告書について
最後に、圧縮記帳を適用した場合の税務申告書についてですが、「 別表十三 」という明細書を用います。国庫補助金等で固定資産等を取得したケースが「 別表十三(一)」になり、保険金等で固定資産等を取得したケースは「 別表十三(二)」になります。
圧縮記帳以外にも、方式や処理の仕方によって決算書の数字の見せ方が変わる会計処理があるので、またご紹介できればと考えています。