大家にとって、水のトラブルは天敵です。上下水の漏れもありますが、何と言っても雨漏りです。傾斜の付いた屋根でも、下図のような谷がある屋根は漏りやすいです。地形でも谷地には水が溜まって地盤が緩くなりますが、屋根の谷にも水が溜まりやすく、流れにくく、漏りやすく、さらに屋根材、樋材も痛みやすいといったダブル、トリプルパンチで効いてきます。
左上がバタフライ屋根、右上が昔の工場でよく見たノコギリ屋根、左下がテラスを間に切り込んだ屋根です。いずれも水が溜まるように、溜まった水が流れないように、水が漏りやすいように、わざわざデザインしているようなものです。
このような屋根の場合、谷の部分に樋( とい )を作りますが、その樋も深さ、幅が大きいもの、金属板の厚みのあるもの、できたらカラー鉄板ではなくてステンレス板のものがベターです。深さや幅が無いと水がすぐにあふれてしまうし、薄いカラー鉄板ではすぐに孔が空いてしまいます。
下の写真は私の買った築古戸建てで、左側の折板屋根( 鉄板をギザギザに折り曲げて強度をもたせた屋根材 )はプレハブで、右側の建物本体に後から増築で付けられたものです。プレハブの安い小屋は屋根の勾配の向きが自由に変えられないことが多く、ここではまずいことに建物の側に流れるように勾配が付いていました。
樋が詰まって水が流れずに、大雨の時はプレハブ小屋と本体との間に水が流れ出して、ジャージャーと音を立てる始末でした。その水のために、本体の木造部分が腐って、さらに下の支えの鉄骨もさびて大穴が空いて、支える力を無くしていました。右端の下に樋が付いているのですが、折板屋根の上からは隙間が小さくて、ほとんど見えませんでした。
下は、樋を見るために側面のカバーをはずしたところです。
横樋が見えていますが、反対側の縦樋まで水が流れていません。そこでこの横樋に孔を空けて、こちら側にも縦樋を作ることにしました。
下は、横樋の孔を拡大して見たところです。このように樋に新たに孔を空けると、パイプを縦に接着して付けただけでは、パイプの付け根から水が外に漏れ出てしまいます。
そこで、孔の下側の周りにシールを盛り上げて付け、下のように枡( マス、あんこう )を付けて水を拾うようにしました。
後はカバーを元通りに付けて終了です。
このように、屋根の谷から水が漏れると、修理が大変なことになります。屋根は谷にしない、内勾配にしないのが大原則です。CASHFLOW101さんに聞いたのですが、北海道の屋根は無落雪工法で、内勾配の金属屋根が普通だそうです。鳥の巣などで排水口( ドレイン )が詰まって、水があふれることがあるそうです。
雪国は仕方ないとしても、他のエリアでは、ごく一般的な外勾配の屋根が無難です。こと屋根については、無難がなによりでしょう。
と、ここまで語ってきましたが、バタフライ屋根でも名作があるので、ご紹介します。ル・コルビュジエのエラズリス邸計画案( 1930、チリ )です。バタフライ屋根の勾配に合わせて、同じ角度で上るスロープが吹き抜けに架けられています。
下はコルビュジエによるスケッチです。
( 図面はル・コルビュジエ全集 第2巻 1964 アルテミス社 から )
実はこの作品のそっくりさんが、要はパクリが、日本の軽井沢にあります。アントニオ・レーモンドによる夏の家( 1933 )です。レーモンドはチェコ生まれで、旧帝国ホテルを設計する際に、フランク・ロイド・ライトと共に日本に来て、その後日本で活躍した建築家です。夏の家は、避暑のために建てた彼自身の別荘です。
今では軽井沢タリアセン( タリアセンという名は建築家ライトの設計工房名からのパクリです! )に移築されて、ペイネ美術館として使われています。当初は草屋根とされていましたが、今は金属板葺きとなっています。築80年近く経っているのに健在ですから、内勾配でもすべてが悪いというわけではない、というところでしょうか?
コルビュジエもそっくりまねされたことに驚き、抗議の手紙を送り、自分の作品集にその写真を載せています。軽井沢タリアセンは広大な庭園も素晴らしく、他にも著名な作家の建物もあります。読者の皆様も軽井沢に行かれた折りにはぜひお寄りください。
先日、ある資産家さんとお話した際、この建物の話が出ました。優れた建物は移築、保存して美術館などに使うと、この建物のように減価せずに残すことができる。逆に価値が上がることもある。資産家の皆さんは、ぜひそのような観点でも不動産を見られるといいと。
手前味噌ですが、今回出てきたコルビュジエやライトについては、前回もご紹介した拙著『 ゼロからはじめる建築のインテリア入門 』でかなり詳しく扱っています。雑誌の写真を見るよりも勉強になると思いますので、ご興味のある方はぜひお読みください。
今日のまとめとして
内勾配は雨漏りのもと! 屋根は無難に外勾配!
となります。