街を歩いていると、日本のマンションの外壁の多くはタイル貼りになっていることに気づきます。タイル張りのマンションが多いのは、コンクリートを風雨に直接さらさないといった耐久性の観点から、そして何より美観に優れるため、といった理由から。
しかし、「 張った 」ものは時間の経過により、いつか剥がれ落ちる運命にあります。タイルが高いところから道路に落下すれば、もはやそれは「 凶器 」。そしていま、日本のあちこちで、マンションのタイルが落ち始めています。
■ 増えるタイル剥落に関する相談
さくら事務所には連日、タイル剥落に関する相談が舞い込んできます。横浜市内にある築3年のマンションでは、7階付近からタイルが落下。幸いケガ人はいませんでしたが、ほかにも明らかにタイルが浮いているところがあるということで、急きょ足場を組んでタイルの打診調査を行いました。
すると、全タイルのなんと20%以上が、いつ剥がれてもおかしくないといった状態でした。この状況は即座に売主業者に報告され、売主負担で修復されました。
都内のとあるマンションでは、11年目になって一部のタイルが剥落。こちらも幸いケガ人はいませんでしたが、6階付近から落ちたタイルが人に当たれば負傷は免れません。
すぐさま外壁全体の打診調査を行ったところ、全体の15%程度のタイルに浮きが見られました。オーナーは施工不良だとして売主業者に補修を要請しましたが、業者は「 施工不良ではなく経年によるもの 」として応じず、いまだ協議中です。
いずれにしてもそのままでは危険なため、オーナー負担で浮いたタイルはすべて剥がし、新しいタイルを張り直しました。
タイルの剥落事故が起きたり、異常なタイルの浮きが発生しているタイルの施工方法は「 コンクリート直貼り工法 」であることが多いようです。
現在では浮きや剥離が生じにくい「 弾性接着剤貼り 」といった工法が徐々に普及してきていますが、施工時に不具合が起こりやすいといったデメリットもあり、痛しかゆしといったところです。
タイルが浮く原因はいくつかあります。1つは、建物本体のコンクリートとタイルの間に塗る下地モルタルの不足や施工不良。
次に、タイルのひび割れ。マンションなど鉄筋コンクリート建物には、コンクリートにあえて弱い部分を作って、ひび割れを目地の中に起こすための「 ひび割れ誘発目地 」がありますが、タイルがそこをまたいで貼ってあると、タイルがコンクリートに引っ張られて割れ、雨水などが侵入してタイル剥落の原因となるのです。
タイルが浮いていることが発覚したら当然、売り主や施工会社の責任を追及します。しかし、多くの場合は前述の事例のように「 経年劣化が原因 」あるいは「 地震の影響 」などと結論付けられ、結局オーナーの費用負担で改修するケースが多いようです。
■ 売主の責任は追及できるのか?
実は外壁タイルの施工不良は、品確法( 住宅の品質確保の促進等に関する法律 )の対象外で、売り主の瑕疵( かし )担保責任の対象外。同法で責任を問えるのはあくまで「 構造耐力上、主要な部分 」「 雨水の浸入を防止する部分 」のみだからです。
売り主の責任を追及する場合においても、なかなか骨が折れるもの。調査に費用がかかるため、誰が費用負担するのか決まらず、調査すら始められないことも多いのです。売り主が責任を認めないため、裁判に発展するケースも。
オーナー側が裁判に勝訴しても、浮いたすべての部分の改修費用を売主からもらえることはありません。経年劣化によって一定の浮きが発生することは事実であるため、裁判所はタイルが浮いた部分から経年劣化と思われる割合を差し引いて金額を決定します。
万が一、タイルが剥落したら、まずはすぐに売り主に連絡し、調査や補修の依頼をしたいところ。原因究明の証拠にするため、剥落したタイルは、そのまま管理事務室などで保管しておきます。売り主は瑕疵を認めない場合が多いので、第三者機関などを必要に応じて活用するのがベターでしょう。
売り主が調査と補修を同時に提案することがありますが、原因が不明瞭なまま工事が終わってしまうことも。その場合は十分な改善が行われたか確認できないため、まずはいったん調査を行い、そのうえで納得のいく補修ができるのかを吟味するべきです。
また、こうした対応が施工会社任せになるケースもありますが、その対応はあくまで、契約の当事者である売り主に説明を求めたいことろ。
国土交通省は2008年、外壁タイル剥落事故の多発を受け「 定期報告制度 」を改訂し、外壁タイルの打診検査を義務化しました。定期的な調査と報告を怠ると、オーナーは罰則( 100万円以下の罰金 )の対象となります。
仮に調査や報告を怠っているマンションでタイルが剥落し人災が起きたら、オーナーの重大な責任は免れないでしょう。