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スタグフレーションの現実味。コロナによる郊外移住増加はマスコミの「連想ゲーム」だった

長嶋修さん_画像 長嶋修さん 第240話 著者のプロフィールを見る

2021/10/24 掲載

世の中は一見無風のようでいて、ものすごい激変の兆しが見えます。まずは世界的な「 スタグフレーション 」の兆しが。

スタグフレーションとは、簡単にいえば「 景気が良くないのに物価が上がる 」というもの。景気が良くならず私たちの給料は同じなのに、この前100円で買えたものが110円、120円と上昇していくという現象です。

スーパーへ買物に行く方はお気づきだと思いますが、10月あたりから様々なものが微妙に値上がりしたり、すでに「 ステルス値上げ 」といって、価格は変えずに小さく、少なくなったりする動きが起きています。200グラムのお菓子が180グラムになっているみたいな話ですね。

こうなると金利は上昇方向にベクトルが向きます。日本はまだマシな方ですが、アメリカはインフレを抑えるのに「 テーパリング 」といって金融緩和を縮小するタイミングをはかっているほか、金利上げの話もちらほら出始めています。だからこそ昨今はドル高になり円安になっているわけです。

ちなみに不動産市場、とりわけ新築マンション市場のステルス値上げは随分前から行われており、アベノミクス・黒田バズーカ前は3LDKのマンションといえば70平米超えが当たり前でしたが、今はせいぜい60平米台前半です。

また、大きさ以外の陳腐化・チープ化も著しいものがあります。例えばキッチンやユニットバス、洗面化粧台と言った設備系のグレードはかつてより明らかに下がりました。室内の建具などもしかり。2重床をやめ直床も普通です。

またスロップシンクがバルコニーにあると、靴を洗う際や草木に水やりするのに便利だったのですが、今では姿を消しています。廊下から扉を開けて玄関ドアまでスロープを設けるアルコーブもすっかり見なくなり、玄関を開けると廊下を歩いている人にぶつかる!みたいな設計となっています。

それでいて価格は随分と上げてきています( グロスを抑えるために面積を小さくする等の涙ぐましい努力がされていますが )。こうした新築マンションの品質低下と、供給戸数の絶対的な少なさが、中古マンション市場を賑わせる根拠ともなっていたりします。

■ コロナで東京都民が郊外へ移住したという報道はメディアの「 連想ゲーム 」だった

アフターコロナの不動産市場は一言でいうと絶好調。「 コロナを避けて都市部から郊外や地方に人が逃げ出す 」「 リモートワークの普及で地方移住も促進される 」。最初に緊急事態が出された頃には、こんな言説がTVやネットで聞かれたものです。

しかし、そんなことにはまったくなっていません。もちろんコロナをきっかけに、かねてから地方移住などを考えていた向きが動いた形跡は見られますが、それはほんの一握り。沖縄などの離島や地方への移住といった動きも限定的なものにとどまりました。

都市郊外に逃げたところで人はたくさんいてコロナ対策にはなりませんし、電車内で密になる通勤時間はむしろ増えてしまいます。完全にリモートワークが可能な業種・業務はIT系など一部に限られ、週に数回は通勤する必要がありますし、そもそもリモートワークが可能な業種はそんなに多くないわけです。

皆さんの身の回りを見れば、周囲に、コロナを理由に郊外や地方、ましてや海外に移住した人が、はたして何組いたでしょうか?また、あなたご自身は移住しましたでしょうか?

そうした動きは、かねてより移住を検討していた向きがコロナ禍をきっかけに動き出す、といったものでしかなかったはずです。むろん熱海や軽井沢といったリゾート地などでは中古マンションや一戸建てが売れているといった報道も一部にはあります。しかしそれらは移住ではなく2次的な住居として求められたものです。

人口が大きく移動するものではなく、また、取引数も目立ったデータで現れないほどに限定的です。熱海市の人口はコロナ以降もずっと減少し続けています。つまりは、メディアの「 連想ゲーム 」だったというわけです。

■ 郊外への移動の理由は上がり過ぎた都心マンションを避けるため

昨今の住宅ニーズは前述したとおり、共働き世帯の圧倒的増加や自動車保有比率の低下などから、通勤や買物を始めとする生活利便性を求める傾向にあり、必然的に駅近が中心となります。そうでないものは極端に言うといくら賃料や価格が安くてもそのニーズは限りなく限定的になってしまうのです。

人材情報会社の学情が2020年5月に発表したアンケートでは、在宅勤務を経験した結果、20代のおよそ7割は「 郊外移住 」よりも「 通勤時間をもっと短くしたい 」と回答しています。

理由のトップは「 自由に使える時間を確保したい 」で、希望の通勤時間の平均は29分でした。「 15分〜30分 」「 30分〜45分 」の回答が多いようです。

学情によるアンケート1(2020年5月)
学情によるアンケート2(2020年5月)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000504.000013485.html

東急グループが2020年6月〜7月に行った「 生活行動と交通に関するアンケート 調査結果概要のご報告 」によると、93%が「 転居しない/考えていない 」。ここには、在宅勤務は一過性で今後は元に戻ると考える人、自宅が在宅勤務に対応できる人が含まれます。リモートワークが不動産業界に与える影響は少なかったのです。

東急グループによるアンケート(2020年6〜7月)
https://www.tokyu.co.jp/image/information/pdf/9943eefeb27ec9cbcd3c0b20a16dd03f0664c7a3.pdf

実際問題として、例えば東京都区部の人口は2020年1月から21年9月までに2万人減りましたが、その内訳を見ると外国人が4.9万人減少し、日本人は2.9万人増えています。世帯数を見ても全体が4万人増えたうち、外国人が4万減に対し、日本人は8万人増加しているのです。

むろん、都区部への人口流入ペースは、かつてよりは鈍化しましたが、少なくともコロナで都市から人が逃げ出すといった動きは見られず、都心から郊外への動きの多くは、上がりすぎた不動産価格を嫌う動きで説明できるだろうということです。

この傾向はしばらく続きそうです。この延長線上には、ペーパーマネーの価値が薄まると同時にモノの価値が上がるという相乗効果があると予想され、結局はさらなるバブル化に向かうしかないだろうと見ています。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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プロフィール

長嶋修さん

長嶋修さんながしまおさむ

不動産コンサルタント
さくら事務所 会長

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経歴
  • 不動産デベロッパーで支店長として幅広く不動産売買業務全般を経験後、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、不動産の達人 株式会社さくら事務所を設立、現会長。

    以降、様々な活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築く。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。

    2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。

    また、TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。

    現在、「東洋経済オンライン」、「Forbes JAPAN WEB」等で連載コラムを執筆中。業界・政策提言や社会問題全般にも言及。

    主な著書に、『空き家が蝕む日本』(ポプラ社)、『不動産格差』(日本経済新聞社)、『5年後に笑う不動産』(ビジネス社)等。

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