■ 不動産向け融資のチェックは厳しくなる方向へ
昨年から、金融庁や日銀がアパートローンの急増について監視を強化しています。金融庁が昨年10月に公表した「 金融行政方針 」の中に、次のような内容が記載されています。
「 国内で活動する金融機関については、不動産向け与信( アパートローンを含む )等を増加させる動きが見られる。こうした与信集中リスクが、経済・市場環境が変化した際に金融機関の健全性に与える影響について検証する 」。
それ以外にも、銀行業界の集まりなどで金融庁幹部が懸念を表明したりしています。そして、先月の28日に日本銀行が今年度の日銀考査の実施方針を発表しました。
その中で、「 不動産関連貸出については、不動産業向けのみならず、不動産業以外の業種や個人事業主も含め、幅広くリスクの所在と管理体制を点検する 」として、適切な審査・管理と融資戦略に見合った体制の整備を銀行に求めています。
今後は、金融庁検査や日銀考査によって不動産向け融資のチェックが厳しくなることが見込まれます。
■ 金融庁検査・日銀考査とは何か?
金融庁検査や日銀考査と言われても、大家さんにとってはあまり馴染みのないものなので、まずはそこから説明します。
銀行の融資内容に対するチェック・指導は、主に金融庁検査と日銀考査があります。金融庁検査とは、銀行の監督官庁である金融庁が銀行の経営に問題が無いか業務内容を確認する定期的な検査です。
内容に問題があれば業務の改善や停止を命じます。検査は、立入検査権や資料提出請求権を付与された行政権限の行使として実施され、これに従わない場合には罰則が課されたり、意図的に書類を隠すなど検査妨害があれば、刑事告発されることもあります。
平成バブル崩壊期には、不良債権処理と金融危機の収束を主な目的として、個別の融資内容を厳しく査定していました。この過程で、多くの不動産会社や不動産投資家への融資が不良債権として処理されていきました。
近年は、銀行の不良債権処理も落ち着き、財務内容も健全化してきたので、個別融資への査定の点では緩くなってきていました。
※*参照:アパートローンのターニングポイント〜大家さんの融資は銀行の自主判断へ〜
金融庁検査に対して、日銀考査は、当座預金取引の相手方である取引先金融機関の業務および財産の状況を把握するために行われます。考査契約に基づくものであり、行政権限の行使として金融庁が実施する検査とは異なります。
金融機関が正当な理由なく、考査や情報提供を拒絶した場合、日本銀行はその事実を公表することがあるほか、当該先との当座預金取引等を解約することもあり得ます。
ただし、考査は行政権限の行使ではないため、金融機関に対する法律上の罰則や強制力はありません。
2017年度は、3週間前後の立入期間で、金融機関の経営実態とリスク管理体制を包括的に点検・評価する「 通常考査 」に加え、1週間前後の立入期間で、重点的に調査すべきリスク分野等に調査範囲を限定した「 ターゲット考査 」を実施するとのことです。
法律上の罰則や強制力はないとしても、日銀考査の情報は金融庁にもいきますので、最終的には指導につながることがあります。
また、銀行員の人事評価は一部の銀行を除き減点主義です。なので、金融庁検査や日銀考査で自分の職域が悪く評価されることを大変嫌います。
銀行の本部も支店も今後の不動産融資審査においては、今後の金利や空室率について今以上に強いストレスを掛けて返済シミュレーションをするようになるでしょう。融資のハードルは、総じて高くなっていきます。
■ 融資が締められることは大家にとって悪いことではない
これは大家さんとって良いことなのでしょうか。それとも悪いことなのでしょうか? 私は、良いことだと思います。
金融庁や日銀の矛先は、サブリースで不動産賃貸事業に疎い地主や資産家に新築アパート建築を勧める大手ハウスメーカーに特に向いています。
彼らは、将来の空室リスクや家賃下落リスクを十分に説明せずに今後リスクが高くなりそうな地方・郊外にも新築物件を建てさせることもあります。そして金融機関は、彼らと組んで融資をしています。
何を隠そう私自身が、平成初期に今と同じようなことをエリアは都区内ですが銀行員の立場で手掛けていました。当時は相続税も高く、真にお客様の為と思ってハウスメーカーと組んで業務に邁進していました。
その後、バブルが崩壊し、アパート・マンションを建てた方々の融資を不良債権として処理もしました。その過程で、不良債権とみなされないように金融庁の検査官とも、よくやりあっていました。
当時は不良債権処理の結果、銀行が破綻したり、他行に統合されたりしていた時代です。金融庁の検査官も銀行の担当者も日本経済の回復や銀行の存亡を掛けての金融庁検査に臨んでいました。
今の金融庁や日銀の幹部も多分その当時の悲劇を覚えていて、その過程に至りそうな現在の状況を危惧しているのだと思います。
■ 初心者や規模拡大を目指す大家さんは早めの行動を
実需に基づかない賃貸物件の新築は抑制されるべきです。抑制される結果、空室率の上昇や家賃の下落は抑えられ、大家さんの収益力・経営安定性は高まります。
大家としての実績があり、経営基盤がしっかりしている大家さんにとってみれば、さほど融資環境は変わらないでしょう。しかし、まだ初心者で、これから拡大していこうとする大家さんは時が経つほどに融資のハードルは高くなっていくでしょう。
それもまた、本来は取得してはいけない物件を取得することを銀行がおしとどめてくれたということで、結果的には良いことなのかもしれません。
それでも高いリスクを取っても自分は差別化できると考え、事業規模を拡大したい大家さんは、急いだほうがいいかもしれません。