私が普段物色しているエリアは、東京都心通勤時間1時間以内が多いですが、このエリアにおいては絶対に買ってはいけない不動産は、ほとんどないと考えています。タイトルの意味は、隠れたリスクやコストを勘案しない価格で買ってはいけないということです。
私もそうでしたが、誰にでも過去を思い返すと、あの点についてチェックしたり注意していたら良かったなと思うことが、あるのではないでしょうか。
今回は新規取得候補物件を選別する時に私が気を付けている点について、いくつかとりあげます。
■ 擁壁・崖地の法規制とコスト
私が特に注意しているのは、擁壁や崖地・斜面です。関東平野は一見平らなようにも感じられますが、武蔵野台地は無数の川に削られて結構起伏があります。
高低差10m以上の坂や崖も無数にありますし、その周辺の建物の敷地には擁壁があります。多摩地区や隣接県には、それこそ丘陵地帯に住宅が立ち並んでいます。
普段気に留めない擁壁ですが、その材料には、いろいろなものが使われています。古い家屋だと石積みや大谷石、塀に多用されるコンクリートブロックで造られているのも多見されます。
不動産投資初心者の方だと、物件取得時、特に土地取得から新築ではなく、中古物件取得時には、取得希望物件に擁壁や崖地・斜面があっても、あまり意識しないかもしれません。
しかし、擁壁や崖地・斜面には、大きなコストとリスクが隠されていることがあります。擁壁のある不動産の取得検討時には、擁壁に関する法律である「 宅地造成等規制法 」( 以下、宅造法 )の内容について理解しておく必要があります。
宅造法は、崖崩れや土砂の流出による災害防止のために1962年に施行された法律です。宅造法では都道府県知事等が、崖崩れ等が生じやすい区域を規制区域に指定し、その区域内で行われる宅地造成について規制を行います。
対象となる工事は着工前に許可が必要となります。また、擁壁には技術基準が定められており、その技術基準に達していない擁壁は作ることができません。基準に適合していれば竣工後の検査終了後に「 検査済証 」が交付されます。
次の一つに該当する工事は、宅造法の規制を受けることになります。
・切土をした土地の部分に高さが2メートルを超える崖を生ずることとなるもの
・盛土をした土地の部分の高さが1メートルを超える崖を生ずることとなるもの
・切土と盛土とを同時にする場合における盛土であって高さが1メートル以下の崖を生じ、かつ、切土及び盛土をした土地の部分の高さが2メートルを超える崖を生じることとなるもの。
・切土又は盛土をする土地の面積が500平方メートルを超えるもの
・盛土をした土地の部分の高さが1メートルを超える崖を生ずることとなるもの
・切土と盛土とを同時にする場合における盛土であって高さが1メートル以下の崖を生じ、かつ、切土及び盛土をした土地の部分の高さが2メートルを超える崖を生じることとなるもの。
・切土又は盛土をする土地の面積が500平方メートルを超えるもの
新たに擁壁を造る時以外に既存の崖や擁壁についても、放置すると危険なものについては、改善の勧告や命令を受けます。そのため中古物件を増築する場合や取り壊して新築する際は要注意です。
宅造法施行前の擁壁は技術基準を満たしていないものが多く、その場合、擁壁を造りなおさなければならず、時には数百万円から数千万円の費用が掛かることになります。
ですので宅地造成工事規制区域内で擁壁のある中古物件を取得検討する際は、「 検査済証 」の有無の確認が必須となります。
■ 東京と神奈川で擁壁を造る場合について
下記図は東京と神奈川の宅地造成工事規制区域図です。
*東京都都市整備局のウェブサイトより
*神奈川県のウェブサイトより
東京多摩地区から川崎・横浜・三浦半島への広いエリアが指定されていますね。
では、土地が宅地造成工事規制区域の外にある場合は関係ないかというとそうではなく、建築基準法の規制対象になります。2メートル以上の擁壁を造る場合は、建築基準法に基づく工作物の確認申請が必要になります。
擁壁を新たに造ったり、改修する場合には多額の費用が掛かりますが、行政のほうで費用の一部や全部を負担してくれる場合もあります。
例えば新宿区では、条件はありますが、擁壁の高さが1.5m以上のものについて、擁壁等の改修工事費の1/3が助成されます。
擁壁等の高さによる助成額の上限は、2m未満:100万円、2m以上 3m未満:200万円、3m以上 5m未満:300万円、5m以上:600万円となっています。
もし、擁壁の新造・改修が必要な物件を取得検討する際は、その地域の助成の有無や内容についても確認しましょう。
■ 分譲マンション敷地の擁壁が崩れた事件
擁壁には多額の費用が掛かることがありますが、維持管理を疎かにしていると大家さんも大変な事態に直面する可能性があります。
一例をあげると、今年2月に神奈川県で分譲マンションの敷地の擁壁の上の斜面が崩落し、下を通行中の女子高校生が土砂に巻き込まれ亡くなるという事故が起きました。
現地調査を行った国土交通省は「急傾斜面において風化により崩落したもの。 崩落は水による流動ではなく、乾湿、低温等による風化からの崩落」と所見を述べています。
この事故では、遺族がマンション管理会社の代表を業務上過失致死の疑いで、マンションの区分所有者の住民を過失致死の疑いで県警逗子署に刑事告訴し、いずれも受理されています。
さらに遺族は、マンションの区分所有者に対し、斜面の管理で安全対策を怠っていたとして、1億円以上の損害賠償を請求しています。このように大家さんや管理会社は、民事のみならず、刑事で責任を問われることがあります。続きは次回に。