前回のコラムでは、擁壁の維持管理を疎かにしていると大家さんも大変な事態に直面する可能性があることを指摘しました。ここで注意しなければならないのは隣地との境界の問題です。
参照:その不動産は買ってはいけない。"擁壁"のリスクを知っていますか?
大抵の場合、敷地境界線は擁壁の下部で擁壁の所有者は上側であることが多いのですが、それぞれの土地の経緯から境界が擁壁の間にあることや、擁壁全体を下側が所有していることもあります。
擁壁全体を下側が所有していると、上側が建て替えを希望したけれど擁壁が今の基準に適合していない場合に、下側が擁壁を造り直さないと上側の建て替えができないという事態も起こりえます。
境界には、いろいろなリスクやコストが隠れていることがあります。今回はそれらについてとりあげてみます。
■ 境界とは
境界とは隣地との境ですが、実は境界には「 筆界 」と「 所有権界 」があります。「 筆界 」は明治時代に誕生したもので、当初は「 所有権界 」と一致していましたが、その後一筆の土地の一部を売却したり交換したのに分筆しなかったという場合には、実態とずれていることがあります。
「 筆界 」を表したものが「 公図 」ですが、明治時代に作成されたものだけあって、その精度は低いです。下記は、私が所有している土地とその周辺の公図です。
現地に行けば、素人が見ても、距離とか角度、道路の方向とかが実際とは異なることがわかります。
「 公図 」に対して各筆の土地の位置及び形状を明確にした地図であり、登記所において備え付けられたものを「 地積測量図 」といいます。
測量図には、他に隣地所有者の立会いのもとに境界を確定した境界確認書付きの「 確定測量図 」や、土地の所有者が自分の敷地と思っている部分を隣接地の所有者の了解を取らずに測量した「 現況測量図 」があります。
下記の図は、上記公図の中の私の土地の地積測量図の一部です。元々一筆だった土地に二つの建物があるのですが、今後の共同担保提供や売却等の投資戦略を考慮して、今年分筆しました。
公図では一見直線と見えるところにも境界杭がいくつか打ち込まれて、曲線になっています。今回測量が終わり、面積が確定し、分筆が完了したことによって、より多様性のある投資活動を迅速に行うことができるようになりました。
■ 境界測量に想定外の時間が掛かることも
実は、上記の分筆登記手続き( 測量 )は、昨年の1月に開始しました。境界確定には民有地( 私有地 )と道路などの官有地( 公有地 )という2種類の確認が必要です。
今回の件では隣接する第三者所有の民有地がなく、道路を管轄する区役所とのいわゆる官民査定だけだったので、数ヶ月で完了することを想定していました。
しかし、測量が完了したのが今年の6月、そのあと登記が完了したのは8月でした。なぜ、ここまで時間が掛かったかのでしょうか?
実は、上記公図にも載っていますが接道の反対側に「 公衆用道路 」として提供された個人所有の幅数センチから数十センチの土地があったためです。
この辺りは明治時代は農地だったので、その名残のようです。調べてみると、その土地の所有者はとうに亡くなっており、その子孫もこの地には住んでいませんでした。その子孫の方を探すのにとても時間が掛かってしまいました。
今回は不急の分筆だったので、まだ良かったのです。仮に分譲業者さん向け土地の急ぎの売却案件だったら、境界確定ができないと分筆ができないため、買い叩かれていたかもしれません。
この件とは別に、今年9月には所有する区分マンションの隣地所有者から「 筆界特定申請 」がされました。
筆界特定制度とは、土地の所有者の申請に基づいて、筆界特定登記官が、民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。
裁判よりも迅速に問題を解決することができ,費用負担も少なくて済みます。本件は、トラブルというより隣地が100世帯程度の区分マンションだったので、この制度を活用したのでしょう。
区分マンションの隣地で「 確定測量未済物件 」を買うと、後が手間だと再認識しました。
■ 公簿売買はありか?
公簿売買とは、土地登記簿上に記載された面積をもとに売買価格を決定する契約です。売買契約書に、「 後日実測面積と公簿面積とが異なる場合でも、その差異に基づく金額の精算は行わない 」等の特約を付すことが多いです。
山林、原野、田畑等広大な土地で、測量してもコスト面で割に合わない場合によく使われます。投資物件でも土地の単価が安い所で使われています。土地の価値と測量コストを天秤にかけて納得できればありでしょう。
■ 境界未確定のデメリット
土地の坪単価が高い物件は、境界が少しズレたり、実測して面積が減ったりするとその影響が大きくなります。売り急ぎの割安物件でも、せめて「 現況測量図 」は付けてもらいましょう。
また、境界確定に対して売主がネガティブな場合、隣地の所有者と過去の経緯から境界を曖昧なままにしていたり、トラブルを隠していたりする場合があります。
この場合、隣地所有者は新しい所有者に替わったことをいいことに、境界が自分に有利になるように立ち回るかもしれません。その点には注意が必要です。
接道が良好で将来建物を解体後に分譲できそうな土地は、特に確定測量が重要です。確定測量がされていないと、上記の私の事例のように分筆をすることができず、よって分譲もできません。
確定測量がされていないと銀行が融資しないこともあります。確定測量できないということは、隣接地所有者と何らかのトラブルを抱えている可能性があり、資産価値に疑義が生じたり、担保処分が円滑に進まない可能性があるからです。