本日は、大家の大事なパートナーである管理会社についてのお話です。私が大家業を始めて17年。「 大家側から管理会社を替える 」ケースは以前より、よく聞いてました。
ただ、ここ最近は、特段のトラブル等がなかったにもかかわらず、「 管理会社が大家さんに管理契約の解除を申し入れる 」ケースが増えてきています。中には、期限を切って、一方的に解約を申し入れられるケースもあります。
私は大家として管理を委託する側でもあり、13年前からは不動産会社の管理職・経営者の立場で管理を受諾する側でもあります。また管理契約の解除を申し入れたこともありますし、解除を申し出られたこともあります。
ですので大家側と管理会社側、両方の立場や気持ち・言い分をよく理解できます。今回は、なぜ大家が管理会社より管理委託契約を解除されるケースが最近、増えているかについて、解説します。
■ ここ数年の要因
〇人手不足
不動産業界の中でも管理業の待遇は、比較的低い傾向にあります。また定年後の高齢者の受け皿でもある物件巡回・清掃作業など現場に携わっているスタッフも、ほかの会社の定年の延長等の理由により応募が少なくなっていたりもします。不動産管理業に人手が集まりにくくなっているのです。
〇管理料が安く赤字
バブル崩壊後やリーマンショック後は、不動産会社は売り上げを維持するため、管理業務を積極的に受注する傾向にありました。そのため、大家から他社へ管理替えを打診されると、管理料を引き下げるなどして引き留めに走ることがありました。
また新たに管理物件を増やしたい管理会社も安値受注する傾向がありました。しかし、最近は日本経済全体がデフレから脱却しきれていない中でも、上記人手不足による人件費やその他の販管費がピンポイントで上がり、収益を圧迫しつつあります。
〇一部大家の無理筋な要望に応えきれなくなっている
20年前ぐらいまで、住居系大家は、地主大家が多くを占めていました。それが、最近は不動産投資ブームに乗り、個人大家でも、サラリーマン大家やセミリタイアした新興大家が増えてきました( 私もそのうちの一人ですが...)。
新興大家は地主大家に比べて管理会社に対して注文が多い傾向にあります。もちろん大家は不動産賃貸業経営者であり、いろいろな手段を取ることにより収益の極大化を図ることは至極当然なことです。
ただ、中には己の利益のみを追求し、管理会社やその発注先の工務店・職人さんに余計な手間やコストを掛けていることがあります。一例として、住宅設備の「 施主支給 」があげられます。
全ての施主支給が悪いわけではありませんが、設備機器の本体だけ支給して、接続部品などのパーツを支給しないようなケースが見られます。管理会社や現場で施工する職人さんにとっては、余計な手間が掛かり、いい迷惑になっています。
■ 今年の要因
〇コロナ禍の影響
コロナ禍で人の移動が少なくなり、昨年に続き賃貸仲介手数料が減少しています。それにより管理会社ではありませんが、今年は「 客付け仲介会社 」の拠点集約も散見されています。
〇賃貸住宅管理業登録制度施行による影響
大家業界では、ほとんど話題になっていませんが、今年の6月から「 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律 」が施行されました。
この法律は、賃貸住宅における良好な居住環境の確保及び不良業者を排除し、業界の健全な発展・育成を図るため賃貸住宅管理業者の登録制度を設けるとともに、事務所ごとに必置となる業務管理者の選任、大家に対する契約締結前の重要事項説明等を義務づけたものです。
ポイントとして、以下のものがあげられます。
・委託を受けて賃貸住宅管理業務( 賃貸住宅の維持保全、金銭の管理 )を行う事業を営もうとする者について、国土交通大臣の登録を義務付け( ※管理戸数が200戸未満の者は任意登録 )
・業務管理者の配置
⇒営業所又は事務所ごとに、資格を有する賃貸住宅管理の知識・経験を要するものを配置
・管理受託契約締結前の重要事項の説明
⇒具体的な管理業務の内容・実施方法について書面を交付して説明
・財産の分別管理
⇒管理する家賃等について、自己の固有の財産等と分別して管理
・定期報告
⇒業務の実施状況等について、管理受託契約の相手方に対して定期的に報告
中堅以上の管理会社は、今までも、できていた業務と思いますが、法律に縛られたことにより、事務手間は確実に増えています。小規模管理会社では、良心的な会社でも業務管理者の配置など人的事務的に管理業務からの戦略的縮小を余儀なくされる会社があります。
■ これからも大家が管理会社より見限られることは増える
真面目な管理会社は一度、管理受諾すると管理料が安くても、限られた人的資源の中で一生懸命きちんと管理しようとします。そして、今までは努力と根性で、なんとかできていたかもしれません。
しかし、最近は人件費が上昇していて、なかなか良質な人材を雇用することが難しくなってきています。スタッフが減っても新たな人を雇用できず、残された人材で無理してやりくりしていた会社もあるでしょう。
それが限界に達して、管理の質が急激に悪化するケースもあります。その場合、管理会社側はあきらめて低採算だったり、無理を強要する大家さんから取り引きを切っていくことになります。
国土交通省の標準管理委託契約書では、管理委託契約は3か月以上の予告期間を置けば、いつでも解約は可能です。書面で解約の申し入れをすればよく、特に解約理由の説明義務を課しているわけではありません。
今後も、まず管理料の値上げや管理条件の改定を大家に打診し、それが受け入れられなければ管理契約を契約満了3カ月前に一方的に拒絶するケースが増えるかもしれません。
大家にとって、管理会社は自分が不動産賃貸経営を行うにあたって、重要なチームの一員です。もちろん悪質な管理会社だったら替えるのも当然ですが、良心的な管理会社だったら、一般の事業会社のBtoBの取引と同じように、win-winの関係を維持していく努力をすることも大家サイドとして必要と考えます。