今回は年初ということで、昨年の1月のコラムに続き、今年の個人投資家向け融資スタンスと投資対象となる不動産の相場について、私見を述べます。
その前に昨年の不動産投資にまつわる融資のポイントを振り返ってみると、以下のようなものがありました。
銀行の融資スタンスは、堅調に推移。しかし、一部の地銀や外資系銀行が得意とする不動産投資家向けの地方・郊外物件に対する融資は厳しくなり、その対象となる不動産相場は、引き続き下落基調となる。
「 金融緩和 」は継続され、「 相続税対策 」の不動産投資も引き続き活況で、「 インバウンド投資 」も維持されると予想されることから、東京やその他中核都市の不動産価格が大きく下落に転じることはない。
実際にはどうだったかというと、インバウンド投資については、ドル円のレートが2015年12月に月平均122円弱であったのが、2016年8月には101円近くまで円高に振れたこともあり、一時買い意欲が弱くなっていたようです。
私が知っている不動産売買仲介会社で一昨年頃から外国人投資家向けインバウンド事業に注力していたところも、数社撤退したところもあります。しかし、12月に116円近くまでドル円相場が円安に戻ってきたので、再び買い意欲が強まってきています。
総じて、予測通りだったと思っています。それでは、今年は、どうなるのでしょうか?
■ 銀行の融資方針は4月〜6月頃に変更になることが多い
他の大家さんと情報交換していると、「 〇〇銀行は融資が積極的になった 」「 〇〇銀行は融資が厳しくなった 」「 支店長からこう聞いた 」「 融資担当者から、あー言われた 」というような話をよく聞きます。
今の時点で、融資を利用して不動産の取得を検討している方にとっては、有効な情報です。しかし、今後の融資動向と不動産相場を推測する時には、あまり意味を持ちません。
銀行の1年間の融資方針は、4月〜6月頃に変ることが多いといえます。それは、以下のような理由からです。
1、銀行の新年度が4月に始まること
2、6月に開催される株主総会で選任された取締役が、その年度の融資方針を最終的に決めることが多いこと
年度初めに決まった融資方針や、各支店に割り振られたノルマによって、各支店は営業活動に邁進します。
年末から3月ぐらいに、大家さんが銀行の支店で聞いている融資スタンスは、銀行の方針ではなく、その支店のノルマの達成度合いに影響されていることもあります。
ノルマ未達の支店は、ノルマ必達すべく積極的に、既にノルマを達成している支店は、お腹いっぱいで不動産融資に消極的になっていることもあります。
■ 今年の銀行の融資スタンスを決める要因
現時点で、今年の4月以降の不動産融資スタンスを推測する要因としては、次のようなものがあげられると私は考えます。
・相続税対策や不動産投資ブームなどのために、賃貸アパート・マンションの新築物件の供給が増えている
・築古物件も修繕されることにより、取り壊されることなく、維持されつつある
・それに対し、人口は減少しつつあり、賃貸物件への需要は減っている
・供給は増えているのに、需要は減っているので、地域によっては空室率が上がり、家賃相場は下がりつつある
・家賃収入減少により、金融機関への借入返済ができなくなっている大家さんが増えつつある
・金融庁が、地方銀行を中心に急増しているアパートローンの実態調査を進めている
( 建設・不動産業者が作成した提案書なども銀行に提出を求め、将来の空室率や家賃下落のリスクを借り手にどのように説明しているかも調べている )
■ サラリーマン大家さん向けの融資は厳しくなる傾向か?
ここから、今年の銀行の融資スタンスを読み解きます。自分が銀行で融資方針を決める立場の責任者となったと思えば、予想しやすいと思います。ポイントを以下にあげます。
1、銀行員は、総じて保守的( 私が勤めていた銀行は、一時向う傷を問わない気風がありましたが )。チャレンジして成功するよりも、リスクを取って失敗することを恐れます
2、監督官庁である金融庁の意向を大いに気にする
3、前期の融資の返済状況を参考にする→アパートローンの滞納・貸し倒れが増えてきたら、当然に融資スタンスが厳しくなる
大手銀行は、マーケットをマクロ的に判断する調査部門が充実していて、すでに先行してアパートローンの審査を厳しくしつつありました。
地方銀行はそこまでではなかったのですが、実績としてアパートローンの滞納が増加しつつあることと、金融庁がアパートローンの貸し出し状況に注目していることから、今年は総じてアパートローンの貸し出しに慎重になることが予想されます。
例外として、相続税対策の資産家向けのアパートローンは、総合的に審査・査定して影響は少ないでしょうが、資産背景が脆弱なサラリーマン大家さん向けの融資は、昨年に比べて厳しくなるでしょう。
結論として、今年の金融機関の不動産投資に対する姿勢は以下のようになると私は考えます。
1、全体としては、昨年と同様に相続税対策の対象となり、空室率や家賃相場が大幅に悪化していない東京やその他中核都市の中心部の不動産価格が大きく下落に転じることはない
2、地方・郊外物件に対する融資は厳しくなり、その地域の不動産相場は、引き続き下落基調となる
皆さまの参考になれば幸いです。