大家になって1年も経過していないタイミングでした。その物件に入居者がついたのは半年前の2019年4月のこと。不動産をはじめて最初に遭遇した大きなトラブルだったと思います。その頃の投資規模・状況などは 大家列伝をご参照下さい。
参照:銀行員の職を捨て福岡に移住したオロゴンさんがボロ戸建6戸を買うまで
不動産賃貸業というビジネスは、重い責任を担っているということに改めて気づかされた出来事でした。その時のことを振り返って紹介したいと思います。
■ 2020年新年の夜。いきなりのLINE
お屠蘇気分の抜けていない2020年1月12日の夜21時半頃。お風呂上がりにふとスマホを見ると、入居者さんからLINEに不在着信がありました。見ると、こんなメッセージが入っていました。
「 2階が火事になりました! 全焼に近く、明日放火( の可能性も視野に )入れて現場検証するみたいです 」

つい 2ヶ月前に、DIYリフォームを終えて、ファミリーの入居が決まったばかりの戸建です。あまりに突然のことで、頭が真っ白になったのを覚えています。
あわてて、折返しの電話をしたところ、以下の情報を得ました。
・2階から突然火が出て、あわてて逃げた
・家族はみんな無事
・煙を吸った可能性があり、病院に来た
・すでに鎮火済み
・隣近所は燃えていない
・原因はわからない
・今夜は友人宅に泊まる
・明日10時から現場検証
物件は自宅から車で1時間ほどの場所にあります。お酒も飲んでいましたし、あわてて駆けつけた所で、自分に何ができるわけでもありません。明朝の現場検証に合わせ、現場に向かうことにしました。その夜はなかなか寝付くことができませんでした。
■ 翌朝、火災現場で見たもの
翌朝になって現場に駆けつけると、半年ほどかけてリフォームを行った2階建の戸建は変わり果てた姿になっていました。

想像していたよりもたくさんの消防士と警察官の方がいて面食らいました。30人近くいたと思います。警察官に家主であることを告げると、すぐに周りに伝わり、たくさんの消防の方に囲まれました。
消防の方は、火元の調査をしている様子でした。出火原因が放火か否かを確認することが最優先のようでした。入居募集の際の間取り図を渡すと、それを基に現場検証や聴取が進みました。
現場検証の後は、入居されている方と話をすることもでき、思ったよりも元気そうでホッとしました。
■ ケガ人はいなかったものの・・・
ひとまず人的被害はなかったことがこの目で確認でき、安堵して座り込んでいると、お隣に住んでいるおばあさんがものすごい剣幕でやってきました。( 本来こちらからすぐにお見舞いすべきでしたが、当時の僕にはその余裕がありませんでした )
お隣は火事の影響で、プラ製の雨どいが全て溶けており、外壁も焦げてしまっていました。消火活動によっておそらく家の中も水浸しのはずです。
物件を購入したばかりの時、笑顔で挨拶を交わしたお隣のおばあさんが、怒りと哀しみにあふれた顔をしていました。
「 大家さん、あなた! とんでもない家族を入居させてくれたわね。いつか何か事件が起こるかと思っていたけれど、まさかこんなことになるなんて。こんなに怖い思いをしたのは生まれて初めてよ・・・ 」
おばあさんは絶句して、顔を手で覆って堰を切ったように泣き出しました。
一緒に住んでいる息子さんによると、僕が入居させた家族は、入居直後からゴミ捨て場の使い方など何かと近隣とトラブルを起こしていたそうです。ガラの悪い友人をたびたび呼んでは深夜に至るまで騒音を響かせており、町内でも問題になっていたということでした。
内見時の対応などを振り返ると、思い当たる点は確かにありました。しかし、そこまでのトラブルを起こしていることを僕は一切知りませんでした。僕には「 ご迷惑をおかけしてすみませんでした 」と繰り返すことしかできませんでした。
トラブルと火災は直接的な関係はないかもしれませんが、不動産賃貸業は、自分の物件だけでなく、近隣の方の暮らしにも大きな影響を及ぼす責任ある仕事なのだと、大きなトンカチで頭を思い切り殴られたような感覚でした。
息子さんは避難した後に、スマホで火災当時の様子を撮影した動画を見せてくれました。そこには目の前の真っ黒になった炭の骨組みからは想像もつかぬほど、闇の中で暴れ狂うように燃え盛る炎が記録されていました。
ご老体にとっていかほどの恐怖だったか・・。火事は、人的被害がなかったからよかった、保険をかけているから大丈夫、というものではないことを思い知りました。
ちなみに火事の原因ですが放火の線はなく、漏電かタバコの不始末によるものだろうと言われましたが、結局は原因不明で終わりました。

実際の火災の様子
■ 火災保険は築古でも手厚くかけていて正解だった
築50年近い戸建でしたが、不動産を教えてくれた知人から紹介を受けた保険代理店のすすめで、大手のMS海上の火災保険に入っていました。
この保険会社は、どんなに物件が古くても再調達価格(同じ広さの新築を建てる場合の建築費)での保険料の設定になるので、毎月の保険料は割高でしたが、結果的には厚くかけていて正解だったことになります。
あくまで結果論ですが、全焼後の解体工事費用などをさしひいても、十分すぎるお釣りがくるほどの保険金を受け取ることができました。( いわゆる「 焼け太り 」ですが心労などを考えると二度と体験したくありません )
「 臨時費用特約 」も大きかったです。僕の場合は、保険金の30%が臨時費用として、追加で支払われました。保険金が単純に掛け算で増える特約です。これは間違いなく、最大限でつけておいたほうがよい特約だと思います。
また、「 失火見舞費用特約 」もつけていたので、隣家へのお見舞い金も保険から出すことができました。僕の場合は、お気持ちとしてお見舞金として30万円の現金をお渡ししました。
お隣の修理費用などは、自分の火災保険を使うとのことでしたが、その査定にも時間がかかっていたため、喜ばれました。お見舞金を渡すときは、なんとか笑顔で話すことができました。
入居者の方も、家財保険に加入してもらっていたため、新居が見つかるまでのホテル代 や 燃えてしまった家具・家電などの家財代はひとまず補填でき、少なくとも金銭面で苦境に立つこともなかったようです。
保険というのは、まさにこういう路頭に迷いかねない一大事のときのための金融商品だと学びました。決して、ただの「 お守り 」や「 安心料 」の類ではありません。自らの生命保険プランなども一考せねばと思いました。

延焼しなくて本当によかった・・。消防士の皆様に感謝
■ 火災から得た教訓と反省
この火災が発生するまで、僕にとっての不動産投資は、お金を得ることが第一目標・・・というより、正直言って、ほぼその事しか考えていませんでした。
どうすればリフォームを安く抑えることができるか、どうすれば少しでも高い家賃をもらえるか。買ってから家賃をもらえるまでの期間をいかに短くするか。ある意味、何かにとりつかれたように動いていました。
入居審査についても、戸建ということもあり「 家賃が回収できそうかどうか 」のほぼ一点しか気にしていませんでした。僕の場合は、家賃保証会社を必ずつけるため、保証審査に受かれば、誰でも良かったともいえます。
情けない話ですが、「 ご近所に迷惑をかけない人だろうか 」なんて考えてもいませんでした。火事現場で座り込んでいるときに見上げた、隣のおばあちゃんの、怒りと哀しみが入り混じった表情は、生涯忘れることができないと思います。
「 自分の行いが原因で、誰かにこんな顔をさせてしまって、どうするんだ? 」
自らのこれまでの姿勢を恥ずかしく思いました。ビジネスである以上、収益性はもちろん大事ですが、何があっても超えてはいけない一線があります。頭でわかっていても、行動する中でいつの間にかその一線を超えてしまう危険性も感じました。
この事件をきっかけに、僕の不動産投資( というか仕事全般 )に対する意識はかなり変わりました。
・かかわった人を不幸にする仕事はしない
・価値を生んでお金を貰う。搾取でお金を得るのは能力がない証拠
・ご近所さんとの関係は良好に。連絡先も必ず交換
・入居審査では人柄を見る。対面時の違和感・直感は大事に
特に不動産を始めたばかりの方には、自分がやろうとしている事業にはこういう側面もあるのかと参考にしてくだされば幸いです。あと、保険は大事です。
【追記】
火災から数日後の記憶が鮮やかな時に、音声を収録していました。興味のある方はぜひ聴いてみてください。
⇒不動産投資 所有物件が全焼。火災の顛末と今後の課題