原状回復とは本来、「 入居した時の状態に、入居者責任で戻す 」・・・という至極単純なことであるはずなのに、揉めてしまう原因はどこにあるのでしょう??
退去に伴う費用負担を嫌がる方は以前からいらっしゃいましたが、最近は国交省のガイドラインを論拠にして、「 このクロスは減価償却済みだから価値はゼロだろうが! だから費用負担はしない! 」などと主張する方もちらほら見受けられるようになってきました。
私自身、地元自治体に長期一括借り上げしていただいていたマンションを最近返還され、同じような主張をされて困っていますので、改めてガイドラインを読み込んでみました。
■ 元はと言えば大家の過剰請求が原因( 汗 )
お恥ずかしながら私は、さいきん初めてガイドラインの原文を読みました。せっかくですからぜひみなさんも通読してみてください!
◎原状回復をめぐるトラブルとガイドライン( 再改訂版 ):国土交通省
ガイドラインが作られた理由ですが、賃貸物件がまだ少なかった頃、大家さんの立場は非常に優越的でした。その頃は、「 退去した入居者が汚した部分ではない部分まで入居者に請求しちゃえ 」という大家さんが多かったのだと思います。
大家さんからの多額の請求に承服しかねた入居者さんが反撃し、多くのトラブルが発生しました。そうした状況を看過しかねた国交省がガイドラインを作った。。。という経緯があるのです。
そういった意味で、我々大家業は襟を正さなければなりません。私自身気をつけているのですが、入居者への過剰請求は厳に戒めるべきです!
■ ガイドラインの「 ??? 」な部分
ガイドラインはお国が定めたものですから、その内容は客観的で公平な内容だと思っていました。しかし、読めば読むほど私の頭のなかはハテナマークで一杯になりました。
最初に疑問に感じたのは「 内装は減価償却期間が経過したら価値が1円になる 」と読み取れる記述です。
例えば法定耐用年数が6年とされているクロスは、貼り替えから3年経過時点で価値が50%、丸6年経過したら価値が1円になるから、その価額をベースに原状復帰の計算をしなさいと書いてあります↓
しかし、よく考えるとこの論理は全くのナンセンスです。法定耐用年数とは税金を課税するために便宜的に設定している数字なので、実際の使用可能期間とはまったく関係していません。
たとえばRC造建物の法定耐用年数は歴史的に次のように変遷してきました。
( 出典:和田晃輔税理士事務所ブログより )
為政者の政策意図によって「 法定 」耐用年数がどんどん短くなっていく様子がよくわかります。しかし普通に考えて、大正時代のRCよりも現代のRCのほうが絶対に長持ちしますよね!
それにもかかわらず、「 法定 」耐用年数が半減しているということは、法定耐用年数そのものに合理的な根拠がないことを示しています。
話は原状回復のガイドラインに戻りますが、このような合理的・科学的根拠のない法定耐用年数ですから、建物や内装の実使用年数とは大きな乖離がある・・・と考えるのが適切です。
我々大家は、そんな不確かな根拠に基づいて「 原状回復の負担割合 」を示されているわけです。信用に値しませんよね。
■ モラルハザードを招く!?
ガイドラインの言うとおり、例えばクロスが丸6年で法定耐用年数を超過し、価値が1円になることを強制されたとします。しかもガイドラインの記述が広く一般の入居者に知れ渡ることになったとします。
その結果、起こるのはモラルハザードではないでしょうか? そうなれば、「 あ、この物件は丸6年経過したから何やってもいいんだ♪ 」と思って、クロスを意図的にビリビリに剥がす・・・
建具にボコボコのパンチ穴をあける・・・
クッションフロアにカッターで無数の切れ目を入れる・・・
などと好き勝手なことをした入居者に、「 原状回復費として1円払えばいいんでしょ 」と言われてしまうかもしれません( 涙 )。そんなモラルハザードをあの優秀な国交省が良しとするわけがありません。( イヤミですよw )
■ 実は逃げ道が用意されていた
ブログの読者さんから教えていただいた情報なのですが、ガイドラインの12頁に次のような記述があります。
「 経過年数( 注:法定耐用年数のこと )を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、( 中略 )賃借人の負担となることがあるものである。」
要は法定耐用年数を超過した内装でも、もともとの「 機能 」を回復させる義務が入居者にはある! とする記述です。
クロスであれば汚されたり剥がされていない状態に、建具は穴の空いていない状態に戻せというわけですから、ごく当たり前のことです。
こっそりこのように書くのであれば、わざわざわかりにくい減価償却の考え方などを持ち込まずに、シンプルに「 原状回復とは機能回復 」と定義すれば用は足りるのでは? と思うのは私だけでしょうか…。
■ ハウスクリーニングは販売促進か??
もうひとつ、私が承服しかねるのはハウスクリーニングの扱いです。ガイドラインの21頁には、こう書いてあります。
「 入居者が通常の清掃を実施している場合は、( ハウスクリーニングは )次の入居者確保のためのものであり、大家負担とすることが妥当と考えられる 」
ハウスクリーニングは次の入居者を確保するための販売促進行為だそうです。いやはや・・・これは現場の実情を知らないおバカな役人が書いたのではないかと思っています。
いま取り組んでいる全空の大型マンションでは大半のお部屋がヒドい状態でしたが、中には「 もしかしたらこのまま貸せるんじゃないか♪ 」と思えるキレイなお部屋もありました。
そのお部屋の床はホコリなどなく、通常清掃はされていた様子が伺えましたが、クッションフロアに黒ずみが認められましたのでグリラーNEOで清掃を行いました。その結果、このような真っ黒な廃液が大量に発生しました。
恐らく長年、裸足で室内を歩き回った結果、皮脂の汚れが付着したものだと思われます。素人目には一見キレイに見えるお部屋でも、このように汚れがあるものです。
これは入居者自身が付けたものですので、入居者自身の負担でキレイにする必要があります。決して次の入居者を確保するための販売促進ではないと思います。
■ まとめ
このように、一見理路整然とした国交省ガイドラインですが、本稿では書ききれない部分も含めてツッコミどころがいろいろあります。
ガイドラインを楯に原状回復費の負担を免れようとする入居者に対しては、大家さんもきちんとした知識で応じたいものですね(^_^)