こんにちは、ぺんたです。今回は少し重たい話題です。『 姫路のトランプ 』の異名で知られる大川護郞さんの会社が銀行取引停止処分を受けたと先日報じられました。
◎記事①:代表が「 姫路の不動産王 」として知られる不動産賃貸業、ANGELO( 兵庫 )が銀行取引停止処分受ける( 出典:帝国データバンク )
銀行取引停止処分とは事業者に取って最も重たい処分です。帝国データバンクの記事は「 倒産速報記事 」に分類されていますので、恐らく今後法人の処分が進むのでしょう。
営業は継続しているようですし、大川さん自身も再起を目指していると報じられているので影ながら応援したいと思いますが、ここに至った原因の推定と、我々一般の大家が得られるであろう教訓について、推論も交えて整理してみたいと思います。
■ 異変を知ったのは6月
大川さんといえば言わずとしれた5,000戸・投資総額500億円の超メガ大家さんです。新聞配達から身を起こしてこの規模まで拡大された立志伝中の人物です。
その異変を知ったのが、友人から来た一通のメッセージでした。そこには大川さんの経営する会社の減資広告が添付されていました。
ここには資本金を8億7千万あまり取り崩すと書いてありますので、恐らく大きな欠損を出してその穴埋めをするためだと理解しました。
その後8月末に日刊SPA!の記事が出ました。管理会社が家賃を入金してくれず返済が滞っているという話でした。↓
◎記事②:年収24億円の不動産王、姫路のトランプを襲った悪夢。借金300億円が返せない!
更に9月に入って先述の記事①と、日刊SPA!の続報( 記事③ )が出ました。銀行取引停止処分に対する大川さんの反論という格好です↓
◎記事③:借金500億円の“姫路のトランプ”、銀行取引停止処分でさらなる窮地に
( 詳しい経緯は記事①~③をご参照いただければと思います。)
■ 「 家賃0円 」への挑戦
記事①のなかには「 同期に( 2019年度に )約5億9,200万円の当期純損失を計上し 」という記述があることから2019年度が事業のターニングポイントだったようです。
どうしてこうなったかという原因の部分は推測するしかありませんが、私が想起したのは大川さんが「 家賃0円 」という新しいビジネスモデルに挑戦していたことです。恐らくこの取り組みが大きな欠損につながっているはずです。
この本を以前購入して読みましたが、正直なところ著しくハイリスクな取り組みだと感じました。内容をかいつまんでご紹介すると、
・故郷に恩返しするため、姫路市内の2500室を家賃0円にしたい(!)
・そのためオリジナルのスマホアプリを普及させ、そこからの広告収入で家賃減をまかなう
・姫路中を無料のWi-Fi網で網羅し、1万5千台以上の監視カメラを設置する
・2500室の入居者では数の優位が確保できないので、アプリを多くの姫路市民に普及させる
というものでした。何とも気宇壮大なプランですが、直感的に「 これはうまくいかないだろうな(..;) 」と思いました。
■ 安定した家賃収入を不安定な広告収入に転換
その理由は2つです。
私はサラリーマン時代に広告を出す側の立場だったのですが、インストールベースが数千から数万程度の雑魚アプリに広告はまず出稿しません。大川さんもそれはわかっておられて、アプリを普及させるべく大規模な広告キャンペーンをネットで展開したはずです。
しかし利用者にとっては、普通のWEB閲覧でも触れることのできる広告を、わざわざ専用アプリを通じて見る動機がないためアプリはなかなか普及しません。なので、ユーザー数を増やすためにものすごい広告費をつぎ込んでも、アプリの利用者数は相当伸び悩んだと思います。
それを裏付けるような記述が記事①のなかにあります。「 過剰な広告宣伝費や100億円を超える借入金に伴う金利負担などが重なり・・ 」という部分がそれです。( 大川さんはアプリを通じてADもゼロにしようとしていたので、ここでいう広告宣伝費はADのことではありません。)
いっぽう、アプリ利用者から入ってくる広告収入を考えてみるとやはり無理筋だったことがわかります。ネット広告はユーザーがバナーなどをクリックしたらいくらというクリック課金が多いのですが、単価は決して高くありません。
仮に平均単価を高めの100円だとしましょう。アプリユーザーが2500室の入居者だけだったとすると、広告収入で家賃をまかなうためには全世帯が1ヶ月間600回とか700回のクリックを毎月(!)継続する必要があります。
これは利用実態から4ケタも5ケタもかけ離れた数字ではないでしょうか。私の試算では姫路市民全員がアプリをインストールしても目標の広告収入には到達しませんでした。
このコロナ禍のなかで唯一被害が軽微なのは不動産賃貸業だと言われるほど、大家業は安定した収入を得られる業種です。
その安定した収入源を捨てて、時々刻々と数字が変動する広告収入に転換しようとすること自体がそもそもリスキーなチャレンジでした。ましてやソロバンが立たないビジネスであればなおさらです。
■ 小さく産んで大きく育てる
以上のように、
・大規模なインフラ投資がかさんだ
・アプリ利用者獲得の広告投資がかさんだ
・アプリ利用による広告収入が想定を下回った
などが重なり大きな損失につながったのだと思います。そして手元資金を新規事業への投資に充てた影響で、空室をリニューアルするための資金が枯渇し空室損が増えていったと考えれば無理がありません。
我々一般の大家さんも新規事業を企画することがありますが、基本は「 小さく産んで大きく育てる 」ということです。
新規事業はごく小さな規模でスタートして、仮に失敗しても本業に支障がない程度に投資額を抑制する。その取り組みの中で勝ち筋が見つかったら大胆な投資に踏み切って大きく育てる・・・というのが定石だと思います。
特にアプリやネット広告のようなものはβ版でテストを行っていればユーザー獲得単価がいくらぐらいかかるか?とか、アプリユーザーが月平均何クリックしてくれるか?という数字がわかって、事業の成否が予測出来たはずです。
そういうアドバイスをしてあげられる広告代理店や参謀役が大川さんにはいなかったようなのが悔やまれます。
■ 500億で5,000室のなかみ
大川さんは「 見た物件をすべて買う 」「 日本中の不動産を全部買う 」と豪語していたようです。何とも豪快な、大家の夢を体現したようなスタンスで、いちど私もやってみたいものです(^^ )
しかし金に糸目はつけないためか高値掴みの噂はよく耳にしました。また融資も信金や信組からのものが多く、比較的高い金利で借り入れしていたようです。
( 出典:日刊SPA!記事③より )
更に記事②のなかには、「 大川氏の法人が所有する物件は当時空室率30%台 」という記述がありました。裏返すと全所有物件の入居率が60%台ということを意味し著しく低いと言わざるを得ません。これはいただけませんね。。。
目がくらむような事業規模ですが、高値で買って、高金利で金を借り、空室が3割以上あるというのが本当であれば、事業の基礎体力は相当弱っていたはずです。そこに新規事業の不振が重なり、一気に苦境に陥ってしまった・・・というのが私の仮説です。
やっぱり空室をしっかり埋めるのが大家の一丁目一番地だな・・と自省しました。
■ 管理会社は分散を
最後にもうひとつだけ。大川さんは全物件を1社に管理委託していました。その管理会社が造反し、賃料の送金を止めてしまったことが銀行取引停止の引き金になった格好です( 記事②参照 )。
規模の大小を問わず、全物件を1社だけに管理委託した場合こういう恐ろしいことが起こり得るんだなと初めて気付かされました。その1社が大家さんの生殺与奪の権を握ることになってしまいます。
私は200戸にも満たない規模ですが、現在3社の管理会社に分散委託しています。これは募集活動の負荷分散を主眼に置いてそうしたものですが、送金停止に備える意味でも管理会社を分散したほうが良さそうだなと思っています。
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以上、報道ベースで勝手な推測を交えて立論しましたが、もし事実誤認や推論の誤りがあれば予めお詫びしておきたいと思います。
しかし中卒の新聞配達から身を起こし、500億もの資産規模に到達されたバイタリティー溢れる方ですし、私よりもずいぶんお若い方ですので近い将来必ず再起されると思います。
その時には実際にお目にかかりたいものです。できれば私はその頃までに「 山口のドンファン 」とでも呼ばれていたいものですがそれはまだまだでしょうね(^_^;