今回の大家列伝は、兵庫県姫路市を中心に274棟4911世帯を所有し、家賃年収等の不動産関連収入が年間で約47億7,000万円という大川護郎さんに登場いただきます。
前編の今日は、不動産投資を始めたきっかけや、借り入れ約447億6,000万円、毎月の返済額は2億3,000万円弱という大川さんの金融機関との付き合い方等を話していただきました。( 注:物件数や借入金額等は、2018年8月10日現在 )。
■ 借入額は約447億6,000万円、毎月の返済額は2億3,000万円弱
華子
自己紹介をお願いします。
大川護郎さん
兵庫県姫路市で不動産賃貸業をしている大川といいます。年令は45才。所有物件は274棟4,911世帯で、家賃年収は約43億円です。
その他に、自動販売機、太陽光電、コインランドリー、トランクルーム、倉庫、コインパーキング、ガス、電気、水道等からの収入が年間約4億円あります。
華子
すごい規模ですね。どのくらいの期間で4,900世帯まで増やしたのでしょうか。
大川護郎さん
初めて不動産を買ったのは1995年ですが、本格的に買い始めたのは2003年、30才の時からです。広めの物件を中心に、自分の体力で買えるものを買ってきました。

華子
それだけの物件を買うには融資が必須だと思いますが、借金の額はどのくらいですか?
大川護郎さん
約447億6,000万円です。毎月の返済額は2億3,000万円弱で、返済比率は63.7%。返済比率は半分が理想なので、少し高いですね。ちなみに物件の現状借り入れ利回りは9.64%で、満室借り入れ利回りでみると12%ちょっとになる水準です。
華子
普通のサラリーマンで、それだけの借り入れをするのは難しいと思うのですが、ご本業は何ですか?
大川護郎さん
私は中学卒業後に新聞販売店に入社して、40才までずっと新聞業界で働いていました。会社員ではありますが、19才で販売店をひとつまかせてもらったのを皮切りに、徐々に大きなエリアを担当するようになり、最高時の年収は約5,000万円ありました。退職時も3,000万円くらいもらっていましたね。
華子
サラリーマンでその収入はすごいですね。普通なら、不動産投資よりも散財に使ってしまうのでは?
大川護郎さん
そういう時期もありましたよ。20代でセルシオやフェラーリに乗ったり、腕時計もロジェやパテックをつけたりしていました。腕時計は今も好きで、ランゲ&ゾーネや、ユリスナルダンには目がありません。
ただ、不動産投資を本格的に始めてからは、お金があれば不動産を買うので、そういう買い物も減りました。
■ 新聞の仕事以外に「 安定した収入 」が欲しかった
華子
5,000万円稼ぐサラリーマンだった大川さんが、不動産投資に興味を持ったのはどんなきっかけがあったのでしょう?
大川護郎さん
若い時から店を任せてもらい、ピーク時は地域内で42%のシェアをとっていました。ただ、そこまで増えると今度は、減ることが怖くなるんです。「 従業員に給料を払えなくなったらどうしよう 」と不安になり、「 新聞の他に安定して収入が得られる方法 」を考えるようになりました。
新聞の仕事を通じて、「 数の力 」を感じていたので、「 日本人全員から1円ずつもらえる仕事はないかな 」という発想から入りました。

華子
なるほど。すぐに、不動産のことが頭に浮かびましたか?
大川護郎さん
「 衣食住 」に関係するものがいいと思い、その中から消去法で残ったのが不動産業でした。それも、売買ではなく、賃貸なら安定していそうだと思いました。
それで、姫路で有名なある大家さんの経歴や所有物件について調べてみると、もとからお金持ちだったわけではなく、最初は八百屋さんで、1代で成功していたことがわかりました。その八百屋さんのことを知ったとき、「 この人すごい! 」と感銘を受けました。
その後も、不動産で成功した人について調べていくと、私の中で、「 100世帯以上の不動産を10年以上持っている大家でつぶれた人はいない 」という結論が出ました。しかも、規模は大きければ大きいほど、安定している。このことが、今の仕事の基礎になっています。
華子
それは説得力がありますね。
大川護郎さん
それで、不動産をどんどん買っていこうと決めたんですが、最初は融資が付きませんでした。一棟目を持ち込んだ23才の時、年収は1,000万円あったにもかかわらず、銀行に相手にしてもらえず、結局、現金でボロボロの物件を買いました。
ところが、私が不動産オーナーになると、銀行の態度が変わりました。次の物件は、最初の物件を担保にお金を借りて購入。その後も、積算評価以下の物件を中心に、融資を使いながら買い進めてきました。
■ 安めの賃料で貸して「 長く稼ぐ物件 」を作る
華子
積算評価以下の物件は競争相手も多いと思います。何か人と違う探し方をしているのでしょうか?
大川護郎さん
立地にはあまりこだわりませんし、ガラガラの売れ残り物件や、築年数が30年を超える古い物件も買っています。オフィスやテナントも、気に入れば買います。
買う時は傷んでいても、しっかりと直して安めの賃料で貸せば、長く稼ぐ物件になります。多いのは、土地が広くて古い物件です。古い物件は買う時に融資が伸びにくいですが、直して埋めれば、次の物件の担保になります。
間取りはファミリータイプで、駐車場が全戸分以上揃っているものが好みです。姫路は競争相手が少ないので、多く買えたのだと思います。
華子
個人で買われている物件もあるのですか?
大川護郎さん
最初は個人で買っていて、途中から法人に移行しました。今も個人でも何棟か所有しています。
華子
270棟を超える物件はどのように探しているのでしょう?
大川護郎さん
多くの業者から物件を紹介してもらい、来た資料は全部見て、条件が合うものに買い付けを入れています。見ないで買うこともよくあります。買った後で予想より修繕がかかった物件もありますが、それも勉強です。

■ リーマンショック後に値下がりした物件を大量に購入
華子
物件を買い進める中で、ブレイクスルーになった瞬間は何かありましたか?
大川護郎さん
リーマンショック後に、値下がりした物件を大量に買ったことですね。例えば、バブル時代に坪100万円した土地220坪とその上の建物を、坪8万円で買いました。
建物が廃墟同然だったので安く買えたのですが、この物件の改装費として、金融機関から期間10年で6,000万円を借り入れることができました。
華子
なるほど。リフォームローンをうまく組み合わせたのですね。
大川護郎さん
はい、このように、私はできるだけキャッシュを減らさない買い方を心がけています。今、25行の金融機関とお付き合いがありますが、大手だけでなく、ノンバンクや信組さん、信金さん等からも借りています。
条件交渉を行わないので、平均利息は3.2%台です。金融機関さんにもしっかりと儲けてもらい、うちもしっかりと儲けるという方針です。
ちなみに、積み立てや保険は、お願いされれば入ります。自分は属性が良いとは思っていないので、銀行さんのいうことは全て聞くようにしているんです( 笑 )。
華子
40才のときに会社を辞めたのは、家賃収入で暮らせるようになったからですか?
大川護郎さん
いいえ、ずっと勤めるつもりでしたが、社長と対立して、解雇されてしまったんです。赤穂から明石まで、読売新聞の権利を持っている大きな会社でしたが、景品で契約を取るようなやり方もしていたので、このままでは読者が減り続けるのではと私は危機感を持っていました。
それで、「 こういうことをやりませんか? 」と少し強引なくらいにあれこれと提案していたところ、社長にうっとうしがられてしまったようです。社長からすれば、自分の言うことだけ聞いている社員の方がやりやすいでしょう…。
解雇されても困らなかったのは、家賃収入があったおかげです。ただ、新聞業界からまったく離れたわけではなく、今も新聞販売店を6店舗持っています。このビジネスは、妻の弟に任せています。
華子の編集後記
豪快に見える大川さんですが、不動産投資を始める前に時間をかけて、地元の資産家や優良企業の所有物件とその登記簿を調査する等、その行動からは慎重さや堅実さが垣間見えます。
会話の中に、小数点以下の細かい数字が頻繁に出てくるところも印象的でした。明日の後編では、規模を拡大し続ける理由や次の目標等をうかがいます。お楽しみに。