今回の大家列伝は、元商社マンで現在はITを活用した不動産オーナー支援サービス会社を経営されている、きこりさんです。北海道から九州まで全国に物件をお持ちで、元商社マンならではのバイタリティで不動産投資を進めて行かれた様子を伺っていきます。
■ 商社の仕事は激務の連続。海外赴任で「 与えられる者 」に自由や豊かさはないと気づく
華子
まずは自己紹介をお願いします。
きこりさん
初めまして、きこりと申します。北海道育ちで現在は福岡県在住の37歳です。新卒で務めた総合商社を辞め、東京で不動産オーナー支援サービス会社を運営しています。
ハンドルネームの由来は、会社に務めていた時に呼ばれたあだ名からつけています。かっこいいスーツを新調して、気合いを入れていざ合コンに行ってみたら、同期に「 お前、きこりみたいだな!」と言われまして(笑)。それ以来私はずっときこりで通しています。
華子
商社のお務め時代はどのようなお仕事をされていたのですか?
きこりさん
商社の中でシステム開発の仕事をしていまして、3年経って上海に駐在に行くことになったんです。昼夜問わず忙しくしておりましたので、上海に行けば今のこの激務から逃れられると思い、喜んで行きました。
結局上海で2年過ごすことになったんですが、仕事は日本ほどではないにしてもハードでした。何よりも大変だったのが飲み会です。白酒( バイジュウ )という50度くらいあるお酒をテキーラみたいに飲むんです。あちらは飲んで仲良くなるという文化なので…。
僕はそんなにお酒が強いほうではないのですが、無理して飲みました。そんなのを週4くらいでやっているうちに、ある日赤ワインを飲んでもいないのに、赤色の嘔吐物が出てしまったんです。どうやら胃の中が切れてしまったらしくて。
華子
華麗なイメージの職業の裏では大変なご苦労をされていたんですね…。
きこりさん
そうですね(笑)。土日もゴルフなどの付き合いがあり、心休まる暇がなく、ある日心が折れてしまいました。もうこんなことしていたらダメだ、と思ったんです。会社の給与や待遇は素晴らしかったですが、経済的に自立していない「 与えられる者 」に自由や豊かさはない、と感じました。この挫折を味わったのが私のターニングポイントでした。
■ 新築マンションをDIY!相場11万円の物件が15万円で貸せた原体験
華子
そこから不動産投資に行き着いたいきさつを教えてください。
きこりさん
もともとうちの実家が造園業をやっていまして、小さい頃から人の庭を作ったり、木工仕事をやったりすることには慣れていました。自分の部屋をDIYすることは大好きで、棚を作ったりなどは、よくやっていたんです。
実は駐在に行く前に、芝公園に自分が住むマンションを買っていました。新築にもかかわらず自宅でDIYをやって改造したんですよ。いざ駐在に出るので家を貸すという段になって、周辺の相場を調べると11~12万円でした。
ところが実際に賃貸に出してみたら、15万円で貸すことができたので驚きました。DIYのおかげで他の部屋にはない個性的な感じが出て、それが良かったみたいで、高い値段で貸せたんです。不動産投資って面白いな、と思い始めたのがこの頃です。
華子
DIYで付加価値をつけて3~4万も家賃が上がったのはすごいですね!
きこりさん
その経験があったので、上海にいた頃も、世の中に自分のやったことが認められたように思えて、充実感がありました。あとはネットで不動産投資のことを調べ始めてブログや書籍を読んで、知識を増やしていきました。
■ 真面目に働け!と銀行に怒られる
華子
不動産投資を始められたときの目標があったら教えてください。
きこりさん
始めて3年以内に月80万のCFを出すというのを目標にしていました。結果的に、目標より少し早く2年と10ヶ月くらいで達成できました。千歳市に買った4棟目のRCと松本市に買った5棟目のRCを買った頃に目標をクリアした感じです。
銀行には何十件当たったかわかりません。30件当たって1件融資が引けるくらいだったかなと。2棟目に買ったRCは積算がすごく低くて、CFは出るものの、積算が足りず、特に融資に苦労しましたね。
華子
さすが商社マン、きこりさんのへこたれないパワーが活かされるわけですね!
きこりさん
築年数とか、エリアや、業歴でも切られました。この時代は一般の人で不動産投資をやる人が少なかったので、そんな風に見られたんです。年配の銀行員の方から「 若いんだし真面目に働け 」と怒られたりもしました(笑)。
■ 最初の物件のリフォームはほぼDIY。業者見積りをとって相場観も養う
華子
最初の物件はどのようにして買われたのですか?
きこりさん
私はその時々にできるベストを選択して来ました。最初は種銭も少なかったので2014年にボロアパートを買いました。当時出会えた自分の中のベストが、札幌市で見つけた築24年、1,400万円、利回り約20%、30㎡ある1R×8室の木造アパートだったんです。
ここの修繕はほとんどDIYでやりました。同時に見積りもとり、修繕の相場感を把握することにも努めました。そして2棟目を探しているときに出会えたベストが築12年のRCでした。最初からRCは欲しかったんですよ。
■ 距離は関係ない!北海道から九州まで条件に合う物件なら即飛んでいく
華子
北海道から九州まで物件が散らばっていますよね。どうしてですか?
きこりさん
物件選びには自分の中での基準があるんです。RCだったら返済比率が40~45%とか。そういう物件を買おうとすると、都会では無理です。だから条件に見合う物件があったら近さにはこだわらず、全国どこでも買うという考え方を持っていました。
また私には二つの方針がありました。一つはボロボロの物件を公庫融資やキャッシュで買う。高利回りがとれて、会社の決算が良くなるような物件です。もう一つは、自分の与信を活かして融資を大きく引いてRCを買う、というものです。
エリアを全国に広げることで、移動にかかる時間の問題はありますが、自分としては物理的な距離はあまり気にしていませんでした。
華子
遠隔地に物件があって困ることはありませんでしたか?
きこりさん
ありませんでしたね。当時はすぐに飛んでいって、全部日帰りです。宿泊することはほとんどありませんでした。会社の休みは丸一日はとれないので、大体午後休をとって行きました。
例えば札幌あたりでも、東京から3時間くらいあれば行けます。飛行機に乗っているときに仕事ができるんで、あまり苦に感じなかったですね。
華子
物件運用中のトラブルはありませんでしたか?
きこりさん
もちろん物件のトラブルはありました。でも大家さんは現地へ行ってもできることが少なく、私自身は無力と思っています。それより現地で動いてくれるチームをいかに作り、動いてもらうか、という部分に注力していました。
具体的には現地の管理会社さんと工務店さん、大工さんや電気屋さんが入るLINEグループを作っています。問題が発生したときにそのLINEの中で片付けられるようにしておけば、僕が遠いところにいても、電波が入れば問題は片付けられますから。
業者さんを探すのが大変という声もよく聞きますが、コストを下げようとすれば、自分でタウンページを見て電話をして、工務店さんなどを集めるしかないですよね。ちなみに、クロスの張り替えや床をはがすことは一通り自分でやってみました。おかげで、これは大変だ、これは簡単だ、と自分で理解した上で発注できるようになりました。
ホームセンターにもしょっちゅう行きました。部材ってどんどん進化するんですよ。職人さんが減っているので、簡単に施工できないと売れないんです。その進化がすごくて。そんな話を職人さんにすると、「 こいつはわかって言ってるんだな 」、と思ってもらえるせいか、出てくる見積りも変わりました。
華子
相手の懐に入る、きこりさんならではのコミュニケーション術ですね。
きこりさん
そうですね。正確な発注ができると先方もやりやすいのではないでしょうか。「 ここはこの仕様でいいです。もしあとで問題になってもノークレームです 」などと伝えるようにしています。すると、「 こいつわかってるな、じゃあ余計なコストは乗せないでやってあげよう 」となるわけです。
■ 売主側から値引きをしてくれた長崎の180万円アパート
華子
思い出深いボロ物件があったら教えてください。
きこりさん
6棟目の長崎市のボロアパートですね。ある不動産屋さんが写メで販売資料を撮って僕に送ってくれたんですが、きちんとした販売資料ではなくメモ紙程度だったんです。
そこに住所と価格が書いてあったんですが、実は別の不動産屋さんの窓に貼ってあったものを、好意で送ってくださったようなんです。それを見た時、「 これは行くべきだ 」と感じて、さっそく土曜の午前中の便で長崎に行きました。
そこは1DKが7室ある全空の築古アパートでした。2階の天井から光が漏れていて、1階の一部に直した跡があり、木材も置いてありました。長崎は階段が多い立地です。その物件にも木材を入れるのがかなり大変なんですよ。バイクは上っていけるんですが、道は車が入れないくらい細くて。
謄本を見ると「 何々工務店 」と入っていました。訊くと、売主の旦那さんが大工さんをやっていて、ご自分で数年前に購入し、自らリフォームしようとして進めていたそうです。ところが修繕の途中で亡くなってしまい、奥さんが相続して、困って売りに出したという経緯でした。
それを聞いた僕は、前にやっていた物件リフォームのビフォーアフター写真を持って売主さんに会いに行きました。そして「 僕に売ってくれたらこんな物件がこうなります。その地域の人気の物件になります。お父さんの遺志を引き継ぐわけじゃないですが、こんなきれいな物件にします 」とお伝えしました。
そして後日、売主さんから「 きこりさんに売ります 」、と言っていただけました。
華子
誠意が通じて良かったですね。
きこりさん
その後、売買契約書のドラフトが来ました。当初の売値は380万円でしたが、ドラフトを見たら180万円になっていたんですよ。
「 ここ間違っていますよ 」と不動産屋さんに指摘したら、「 これは奥さんからのご厚意です。その物件には抵当が入っていますが180万円あればきれいにできます。売主さんには高く売りたいという意思はなく、その分物件をきれいにしてほしいとのことです 」と言われました。
僕はとても感動しまして、それなら徹底的にきれいにしてやろうと思い、自分で現地に入って大工さんと一緒に壁を塗ったりしました。完成してすぐに満室になり、利回りも30%くらいになりました。
内装プランニングは全部自分でやりました。おしゃれにしたかったので、部屋の中に内窓とか作ったりしました。キッチンも造作で、必要な部材は全部支給で作りました。
造作で作られたおしゃれなキッチンのビフォーアフター
大工さんに一点一点指示書を見せて、細かく確認してもらいました。現場では「 飛行機で来てDIYするのって君くらいだよ 」と言われたりしました(笑)。売主の奥さんもできあがりを見て満足されたそうです。「 養子に入れ 」と言われるかと思ったんですけど、それは今のところまだないです(笑)。
実際の指示書。すべての部屋に大工さんへの指示が細かく書いてあります
編集後記
元商社マンならではの、ガッツな気概あふれるきこりさん。寸暇を惜しんで不動産投資活動にいそしむエピソードには驚きました。後編はさらなるボロ物件エピソードや、きこりさんが目指されている「 不動産の民主化 」についてお伺いします。( 取材担当:T )