今回の大家列伝は、4年前に公務員を辞めて専業大家になったパスカルさんです。初期は公務員の与信力を使って進めていた不動産投資でしたが、やがて銀行から融資ストップがかかり、転換期を迎えたそうです。どのように打開されていったのか、お話を伺います。
■ とにかく公務員を辞めたい!藁をも掴む思いで不動産投資にのめり込む
華子
自己紹介をお願いします。
パスカルさん
はじめまして、パスカルと申します。長野県在住の50代で、4年前に公務員を辞め、現在は専業大家をしております。物件エリアは長野県の南部で、総投資額は9億円くらい、家賃年収は満室想定で1.6億円以上になります。
アパート、マンション34棟戸建23戸、合計326戸を所有していて、全体の利回りは18.3%、返済比率は40.1%です。
華子
不動産投資を始めたきっかけを教えていただけますか。
パスカルさん
当時とにかく公務員の仕事が嫌で、辞めたかったんです。いろいろ考えて、株や先物にちょっと手を出してはみたんですが、公務員を辞める手段としては、これでは無理だろうなと思ったんですよ。一生お金の事で苦労したくありませんでしたし。そこで行き着いた先が不動産かなっていう感じだったんです。
華子
公務員というのはすごく安定している仕事ですよね。そこから脱出しようとしたのがすごいと思います。
パスカルさん
そうですよね。皆さんにもったいないと言われます。だけど、私にはもう精神的に無理で、このまま一生公務員でいると後悔すると思ったんです。そこで藁をも掴む思いで不動産投資を始めてみたんですよ。
華子
どのようにして不動産投資の勉強を始めたのでしょうか?
パスカルさん
最初は本からです。長野県は田舎すぎて、当時、不動産投資をやっている人がほとんどいなかったんですよね。やられているのは、ほとんど地主さんですよ。後になって金融機関を回ったのですが、「 あなたのような人は初めて見た 」っていう言われ方をしました。
「 中古アパートを買って、それで再生していくなんていうのは初めて見ましたよ 」って言うんです。本当に確かに周りにいないんでしょうね。だから本を読むしかなかったんですよ、当時は。
お金もなかったので、アマゾンで不動産の中古本を探してたくさん読みました。当時は1,500円くらい出すのも、もったいないっていうくらいの経済状況でした。中でも山田里志さんの本には勇気をいただきました。
山田里志さんの本は全部読んで、ご本人にメールをしてお返事をいただきました。内容を簡単に言えば、「 慌てるな 」という事でした。そんなたった一往復のメールだったんですけど、お返事をいただきとても勇気づけられました。山田さんの他にも、吉川英一さんや赤井誠さんなど、100冊以上の本を読みました。
結果として山田さんの言うように、高利回りのアパートを探し始めました。こうして立てた目標が、利回り20%以上、耐用年数以内の物件を買い進めるというもので、アパート戸建合計100戸を目指して始めました。
華子
物件をお探しになったのは基本的にはネットですか?
パスカルさん
そうですね、ポータルでいろいろ見て、買付けを出すまでに1年ぐらいかかりました。2,000万とか退職金くらいの大金ですからね、怖くなりますよ、これは。おいそれと動けないと思いました。
今思えば、やっぱり不動産の借金は入居者が返してくれるっていうことが、言葉としてはわかっていたけれど、本当にはわかっていなかったんだと思うんですよ。だから例えば2,000万円で高級車を買って自分で返さなきゃいけないというような借金と同一視してしまって、考えが凝り固まっていたんですよね。
■ 最初の融資は公務員の与信をフル活用!
華子
最初はどんな物件を買ったのでしょう?
パスカルさん
こうして2012年に始めて購入したアパートは、鉄骨造の8世帯の中古アパートで利回りが約20%でした。売出しが2,880万円だったんですが、2,400万円で買えたんです。
華子
安くなりましたね。
パスカルさん
そうですね。最初なのでよくわかっておらず、利回りが20%ないと死ぬ!と真剣に思っていたんですよ(笑)。家賃から割り戻すと2,400万円が20%ライン。それで指値を通すために、必死にやりました。不動産屋もびっくりしていましたね。いきなり480万円か!って。
華子
最初の融資はどうやってつけたんですか?
パスカルさん
それには公務員の力をフルに使いました。私の職種の職員は長野のある地銀で口座を作らなければいけないんです。そういうところなんですよね。そこへ融資の相談に行くものだから、もう銀行にしてみれば、ある意味、取りっぱぐれのないやつが来たと。融資なんか前のめりですよ。
保証人も、その地銀独自の保証会社をつけるからいらないと言われて。年数20年で頼んだら、「 もっと長くてもいいですよ 」と言ってくれるものだから、逆にこちらがちょっと怖くなって20年にしてもらいました。
華子
すごく条件がよさそうです。先ほど1,500円の本を買うのもちょっと躊躇したっておっしゃっていました。当時、すごく年収が高かったわけじゃないですよね?
パスカルさん
その頃は600万円くらいだと思います。多分これって長野ではいい方だと思うんです。でもそんないいことも長くは続かなかったんですよ。2棟目を買ったところで、家賃収入が公務員の収入を超えたんです。そうすると、もう公務員の与信では貸してくれなくなるんです。
■「 公務員のお遊びはここまでですよ 」手のひら返しの塩対応に!
華子
でも2棟目と3棟目、同じ年に買われたんですよね。他の金融機関をアタックしていったんですか?
2棟目に購入した築46年再建築不可のアパートは利回り約192%!
パスカルさん
そうなんです。2棟目は再建築不可の8世帯のアパートで、100万円で買ったんです。利回りは192%にもなったので、1棟目の家賃を貯めていたら買えたんですよ。ところが、3棟目の利回り約21%のアパートを買ったところで、銀行に釘を刺されてしまいました。
「 公務員のお遊びはここまでですよ 」って、露骨に言われましたね。「 何で公務員やっているのに、こんなことしなきゃいけないんですか?」って聞かれました。そこからが苦労しましたね。
ですので4棟目は現金買いしました。700万円の6世帯の木造アパートで、利回り約34%です。実は形の上では現金買いですが、他の銀行の人が協力してくれて、カードローン、すなわち消費者ローンで買ったんです。公務員だったおかげで金利4.5%で助かりました。
4棟目の中古木造アパートはゴルフ場横にあるそう
700万円借入で4.5%だから当時のスルガ銀行と同じ水準です。それで「 このお金は貸しますが、アパートは、手持ちの700万円を使って買ったことにしてください 」と言われました。このお金はアパートを買うために貸したお金ではないということにしなくちゃいけない、ということです。
その後5棟目の利回り16.7%の12世帯RCを購入するときに、またあの地銀に行ったら、相変わらず厳しいことを言われて、ものすごく嫌な顔をされたんですが、融資を通してくれたんですよ。通してくれたものの、もう絶対にダメっていう感じで、アパートの話をする雰囲気でもないくらい嫌な感じを出されました(笑)。
■ 信金へ飛び込み開拓!優秀な担当のおかげで買い進める
華子
でもひるまずにガンガン買い進められて、すごいですね。そこから他の銀行が登場するんですか?
パスカルさん
そうです。そこからはある信金さんに登場してもらいました。何の紹介もなくその信金さんに行ったら、やっぱり公務員の与信が強いんでしょうね、貸してくれました。ただ、妻の保証をつけなきゃいけなかったんですよ。
だから2015年、その信金さんで2棟買ったところで、もう個人で買うのはやめようと思ったんです。奥さんを保証人にさせるのは嫌だったから。
6棟目に購入した中古鉄骨造アパート( 利回り約19.6% )
そこで法人を立てて買い進めました。法人にすると、私が保証人になればいいので、気持ちは楽になりました。ところが、その信金さんで1億5千万円借りたところで、「 これで貸せるのは限界だ 」と言われました。
その信金の担当さんは、すごく優秀な営業さんでした。その方は私の融資が終わった後、本店に戻って、それ以降ずっと本店の中で働いてます。法人の融資だとかいろんなことをやっているようで、将来とても偉くなると思います。その方のところに、物件を2つ同時に持って行ったこともあるんですよ。
華子
それは担当さんに負荷がかかりますね。
パスカルさん
はい、だからどちらかを通してくれればいいかなと思って。そうしたら、じゃあ片方は今月通します。もう片方は来月通しましょうと言ってくれて、両方融資してくれたんです。救われました。
■ また地銀に行かざるを得ず、嫌がらせ!
華子
融資が限界となった後は、どうされたんですか?
パスカルさん
2017年になって購入した、利回り18.7%の戸建5戸セットの物件からは、またあの地銀に戻るんですよ。本当に行くのが嫌でしたね。でも、これには事情がありまして。物件は任意売却の一歩手前の状態だったんですけど、売主さんがこの地銀からお金を借りていたんですよ。
売主さんが地銀の人と相談して、私に売るという話になったんですよ。そうしたら、「 その地銀で話をした方が早い 」って売主さんの支店担当が言うんですよ。本当に嫌だったけど、私は自分の支店に行かなきゃいけなかったんです。だから行きました。
案の定ものすごく厳しい対応をされて、本当に嫌でしたね。まだあんた、こんなことやっているの?みたいな感じで。もう貸さないって言ったでしょって感じで、一度追い返されたんですよ。
仕方がないかと思っていたら、結局、支店間で話がまとまったんです。それでまた行って話をしまして。厳しかったですよ。自己資金なんか、通帳にあるだけ入れさせられましたからね、もう嫌がらせですよ(笑)。
華子
いろんな銀行マンがいるものですね。
パスカルさん
身をもって知りました(笑)。本当にそう思います。
編集後記
長野県特有の地銀と信金にまつわるお話は、とても興味深かったです。パスカルさん、銀行で嫌な対応をされてもへこたれずによく頑張りましたね。次回は新たな金融機関に活路を開いたお話などを伺います。どうぞお楽しみに!( 担当:T )