今回の大家列伝に登場いただくのは、建築家として約50棟の賃貸物件を手がけながら、自身も都内にアパートなどを所有する進藤強さんです。「 この土地にアパートを建てたいのですが・・・ 」という相談が日々、持ち込まれる進藤さんですが、断ることの方が多いのだとか。。。果たしてその理由は? 渋谷区代々木公園にある進藤さんのオフィス( 建坪7坪! )にて、お話をうかがいました。
■ 相談に来る人の6割は収支シミュレーションが甘すぎる
華子
自己紹介をお願いします。
進藤強さん
大家で建築家の進藤です。2007年から本格的にビーフンデザインという設計事務所をスタートして、今までに約60棟の設計に携わりました。そのうち8割は賃貸物件です。最初は人の紹介で始めたのですが、その後も紹介が続き、気づくと賃貸物件の設計がメインになりました。
大家としては今、中古で買った物件5棟と、新築( 新築中含む )の小さなアパート6棟を所有しています。ほんの数年前まで本当に貧乏だったので、賃料収入は精神安定剤になってくれています。家賃手残りが40万円くらいになったとき、「 家賃がある生活って精神的にラクだな~ 」と心から思いました。
好きで始めた設計の仕事なのに、お金のために働かなきゃいけないって悲しいじゃないですか。ですから、不動産投資を始めて、本当によかったと思っています。でも、僕のところに新築の相談に来る人には、「 その土地やめた方がいいかも? 」と言うことが多いんですけど。
華子
相談に来る方に「 やめた方がいい 」というのは、どうしてですか?
進藤強さん
色々な方が売土地の情報を持って、「 この土地にアパートを建てたい 」と相談に来られます。僕のところに来てくれるのは嬉しいんです。でも、6割以上の人は収支計算が甘いので、「 その土地に建てても大丈夫ですか? 難しいのでは? 」と答えることになります。
数年前は都内でも利回り10%を狙えたのですが、ここ2年くらいはよくて9%、最近は7%から8%台のものも増えています。それでも儲かるのは、金利を1%台やそれ以下で引けるレベルの人たちです。それが難しい人は、今は無理することはないと思うんです。
あと、リノベーションでもキレイな物件はお断りしています。僕は方針がハッキリしていて、ボロボロか新築しかやらない。元がキレイな物件で、誰がやっても埋まる物件なら、僕がやる必要はないじゃないですか。立地がダメとか、駅が変とか、そういうものばかりあえて受けています。自分のアイディアを生かせるところでやりたいんです。
■ 銀行に提出する資料まで製作する建築家
華子
なるほど。紹介が多い理由はきっと、進藤さんが大家目線で物事を考えられる建築家だからでしょうね。
進藤強さん
うふ。そうですかね( 笑 )。あと僕は、設計だけではなく、銀行さんへ持ち込む資料の作成までやる場合があるので、それも理由だと思います。なぜそんなことができるかというと、一生懸命に図面を書いてオーナーさんに渡しても、「 融資が通らなかったのでこの話はナシにしてください 」と言われることが多かったからです。
「 くっそー、あの日の苦労はなんだったんだ。がんばったのにー! 」と悔しい思いをする中で、だったら融資の仕組みを勉強して、融資が通りやすい物件と銀行用の資料を自分で造ればいいんだと思ったんです。自分でいうのもなんですが、ここまでやる建築家は他にいないと思います( 笑 )。
華子
そもそも、なぜ建築家を目指したのでしょう?
進藤強さん
子どもの頃から、将来、社長になることは決めていました。我が家は父が建築会社、兄が設計事務所を経営していて、おまけに母も自営業。スーツを着ている大人に憧れた時期もありましたが、父の建てたものを見ると、やっぱり何かを造るってカッコいいと思い、泥臭い今の仕事を選びました。
みんな、投資も好きで、僕以外の家族も不動産投資や株をやっています。投資ですから当然、得をしたり、損をしたりしますが、トータルではうまくいっているようです。そう考えると、好きなことを仕事にしているのも、投資好きなのも、血筋なんでしょう( 笑 )。
■ 一棟買いのビルの1階を賃貸に出したら、ローンのほぼ全てをまかなえた
華子
所有している物件について、教えてください。
進藤強さん
僕自身が初めて不動産を買ったのは2005年。自宅件事務所として使うためのもので、土地12坪、建坪7坪で3階建てという小さなビルです。当時は都内で家を持つというと土地3,000万円、建物2,000万円で5,000万円が最低ラインというイメージでした。

その予算内で、色々な物件を検討していたのですが、ピッタリ来るものがなかったんです。そんなとき、電柱にこの家のチラシが張ってあり、見に行くと、1階がキッチンで2階にユニットバスがあって、3階が和室というわけのわからない建物。でも、代々木公園のすぐ近くと立地がよかったので、リノベーションを前提に購入しました。
華子
このミニビルが、大家デビューのきっかけになったそうですね。
進藤強さん
はい。いずれは貸すつもりで、リノベーションの際に、1階と2階の玄関を分けたんですが、これが正解でした。最初は自宅兼事務所として使っていましたが、子どもが増えて近所の賃貸マンションに引っ越した今は、1階をコーヒースタンドに貸して、2階と3階を事務所として使っています。この家賃が毎月十数万円( 坪賃料約2.8万 )で、ローンのほぼ全てをまかなえるので助かっています。
余談ですが、建物の価値は1階のテナントで決まると思っているので、1階の借り手を決めるまでに、1年以上面談していろんな方吟味しました。成功しそうにない人や、変な人には貸したくありません。今入ってくれているコーヒースタンドは雑誌の撮影やテレビCMによく使われるセンスのいいお店。コーヒーもおいしいし、待った甲斐があったと思っています。

華子
建築家の方は、凝りに凝ったマイホームを建てるイメージがありますが、進藤さんは違ったのですね。
進藤強さん
普通の建築家は「 これがオレの自邸だ 」という立派な家を建てるものですが、僕の場合は、昔からなんとなく「 家賃収入っていいな 」と思っていたこともあり、随所にこだわりは詰め込みながらも、全部を家にするということは考えませんでした。貧乏で仕事場と自宅を別々に借りるのが苦しいのが正直な理由ですが・・・( 笑 )。
でも、この小さな建物でいかに快適に暮らすかを散々考えたことは、すごい財産になっています。例えば、小さいキッチンや人がギリギリ歩けるような細い廊下も、自宅で試してみて、「 いいじゃん 」と思ったので、賃貸物件にもどんどん取り入れています。

■ 収益物件である以上、儲からなければ意味がない
華子
お世辞ではなく、7坪なのに全く窮屈な感じがしませんね。むしろ、普通の家より開放感があるように感じます。
進藤強さん
そうでしょう? これには天井を高くするとか、窓を大きくとるとか、色々な工夫があるんです。人って、平面的には広くなくても、容積が大きければ狭苦しく感じないんです。僕の造ったアパートはなぜ高い家賃がいただけるかというと、容積を意識してロフトなどをうまく活用することで、坪当たりの賃料を上げられるからなんです。

華子
いろいろと工夫されている分、設計料や工事費も高いのでは?
進藤強さん
設計料は建築費の10~12%です。ただ、ロフトを入れたりすると、工事費は確かに高くなることもあります。それでも、デザイナーズは近隣相場よりも家賃を割高に設定できるので、その分は吸収できます。収益物件である以上、儲からなければ意味がないですからね。
華子の編集後記
渋谷区の人気エリアである代々木公園駅からほど近い進藤さんの事務所は、ウワサにたがわぬコンパクトサイズ。にもかかわらず、大きな窓や高い天井のせいなのか居心地が良く、つい長居したくなるステキな雰囲気がありました。明日の【 後編 】では、都内でリノベーション後も利回り10%を超えるという進藤さんの投資手法についてお聞きします。お楽しみに。