前回のコラムでは「 大きく考える事 」について書きました。今回はその話とも大いに関係がある「 大型融資 」を獲得するまでの話を書きたいと思います。
この物件は、コロナの影響で最近は不動産全般にネガティブになりつつあるM銀行より昨年、融資承認をいただき、プロジェクトが動き始めました。もし今年だったらこの融資を受けるのは不可能に近かったと思います。
過去の物件取得を振り返るときにいつも思うことがあります。それは、不動産では物件選定と同じくらい、「 ステキなタイミング 」で局面を迎えられるかどうかが重要なファクターであるということです。
■ 1億5千万円の乖離をどうするか
当たり前ですが、10億円超の融資ともなると、銀行の融資承認獲得までの道のりも平坦ではありません。本当に、崖あり谷ありの道でした。
まずは預貯金のエビデンス・関連会社の財務内容、そして既存物件の入居率・家賃収入、既存物件の資産価値査定と着工計画中の新規物件の査定など、長時間をかけてオイラの事業ベースを査定され、ようやく前に進みます。
今回の大型物件の総事業費は16億円です。それを収益還元法で査定した結果、M銀行は融資金額として12億円を提示したのでした。それも共同担保に既存物件のA棟を1棟提供する前提での12億円です。
私の借入希望額は13億5千万円ですので、1億5千万円の乖離がありました。その差を埋める方法として、A棟を売りに出して手残りを自己資金にプラスしようかと考えました。A棟は残債が4億に対して6~7億の買いつけが2度入った物件なのです。
A棟を売れば税引き手残りが1億5千万円残りする見込みでした。しかし、考えた末、売却するよりも物件を持ち続けたほうがトータルでメリットがあると判断して売り止めにしました。( この判断が正解だったかは時間が経過しなければ分かりませんが )
そこから何度も本部と担当者が折衝してくれて、最終的には13億円の融資額まで伸ばしてくれました。しかし、追加での条件もなかなか厳しいものがありました。追加でもう1棟のB棟を共同担保に提供するよう言われたのです。
それだけでなく、コベナンツフィーという融資アレンジフィーの金額が当初、融資額の2%だったものが、4%に倍増したのです。このフィーだけで新築木造アパートを建てられる額になります( 笑 )
融資額が12億円の答えに対して、もう1億円出してもらうために、共同担保としてもとの1棟にさらにもう1棟を追加して、融資アレンジフィーも倍払い、ようやく融資の組み立てをしてもらったという事です。
その2棟の余剰枠は借入残債と実勢価格の差額( 仮に売却した際に手残りする分 )はA棟が2.7億円、B棟が1.2億円で、合計4億円弱ありました。しかし、税引き前の余剰です。また、銀行は6~7掛けの評価で見るため、実際には合算で2億円程度の担保評価価値になりました。
できればA棟の共同担保だけで進めたかったのですが、B棟の1億の枠も追加で入れることになりました。現金と共同担保を合わせて総事業費の3割に相当する5億程度の自己資金となります。それらを提供して、ようやく融資承認を得られたのでした。
■ 今回の融資でオイラが獲得した「 良い取引 」
2棟の共同担保を差し出し、高いコベナンツフィーを支払ってまでやる意味があるのかと思われる人もいるかもしれません。しかし、オイラにとってはそこまでしてもやる意味がある取引なのです。それを成立することが出来ました。
ドルフ・デ・ルース博士の言葉に「 物件に惚れるな、取引に惚れろ 」というものがあります。今回の融資でオイラが獲得した「 良い取引 」の内容は、2年間の元本据え置きと33年の返済期間でした。その為に他に出された条件はほぼ飲み込んだと言ってよいでしょう。
金利については変動で0.7%程度、10年固定では恐らく1%前半に落ちつくかなと感じていますが、そこは来年3月にならないと確定しません。
オイラが獲得した2年の元本据え置きですが、これがどんな意味を持つかは新築をやったことがある人ならすぐに理解できるでしょう。仮に来年3月竣工から半年後の9月末で満室に出来たならば、残りの1年半は金利の支払いだけになります。
支払い利息はこのままのレートで決まれば月額130万程度です。想定満室家賃は月額1,080万ですから、最短半年で満室したら運営費などを控除して毎月700万程度が残る勘定です。少なくとも募集から3カ月程度で利払いできるくらいの入居があるはずです。
もしも、満室まで1年間かかっても、2年間のキャッシュフローは莫大なものになります。税金を考慮しなければ1億円以上の自己資金を回収できることになるのです。これが苦労した取引の醍醐味でしょうか。しかし、まだ絵にかいた餅の状態であることには変わりありません。
■ 2年の元本据置がリスクのクッションになってくれる
この大型物件の満室までの道のりはまたコラムに書くことにします。通常の年であればほぼ計算通りに進むはずですが、来年一年間はまだコロナウイルスの影響が残っているでしょうから、まったくの未知数です。
確率は低いと考えていますが、本当に絵にかいた餅を見ることになるかもしれません。しかし、2年間の元本据え置きはそれにも耐えられる条件だと考えています。
この土地を取得した一年前には、こんな世の中になるとはまったく想像も出来ませんでした。しかし、今はこの条件のおかげで( この案件に限っては )平静を保つことができています。
もっとも、また感染者が増えている現在の状況では、入居付けにも長期の時間がかかることを想定し、覚悟をもっていなければなりませんね。