アメリカでシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクが破綻したとのニュースが入ってきました。特にシリコンバレーバンクは全米16番目の資産規模で、日本でいうと大手地銀クラスの銀行だそうです。
ここに預金を預けているスタートアップ企業が金融アドバイザーから「 預金を引き出すべき 」と助言されたという話がSNS上に広がり、取り付け騒ぎに発展したようです。預金者からの取り付け騒ぎが起きたことによる資金ショートですので、どこの銀行でも起きえる話です。
債務超過に陥った要因は、銀行が払い出し資金の確保のために所有する債券やMBS証券( 不動産担保証券 )を売却し、損を出したことで株価が暴落。その後の増資もできなくなったことで、流動性資産が足りなくなったためといいます。
シリコンバレーバンクは主に米国債券や不動産担保証券に投資していました。債券は平常時であれば比較的安定している投資先といわれますが、金利が上がると債券価格は下がります。ご存じの通り去年、アメリカでは利上げがありました。
このタイミングで取り付け騒ぎが発生。価格が下がったものを売り流動性資金を確保しようとしたため、損失を計上することになり、株価が80%以上下落、結果的に信用を毀損し、増資もできない状態となって破綻です。
昨年のFRBの利上げスタートから1年ほどで銀行の破綻につながったわけですから、金利というのは恐ろしいものです。
SVBが債券ではなく通常の事業融資を主に行なっていたならば、金利上昇はプラスに作用したはずです。しかし、事業融資の貸出先がなかったのでしょう。短期資金を長期である債券に投下していたのが破綻要因だった、とも報道されていました。
この出来事について、「 海を隔てたアメリカで起こったことで我々には関係ない 」と感じるでしょうか? 私自身の答えは「 NO 」です。借入をしている不動産投資家ですから、他人事とはとても思えません。
■ 人間はいつだって判断を間違える
金利の上昇や下降というのは不動産価格にもっとも影響を与える最大のファクターです。金利が上がれば不動産価格は下がり、金利が下がれば不動産価格が上がるということが、過去に繰り返されています。
金利上昇は金利の安い時に発行された債券価格を暴落させます。債券利回りが上がるため、投資家から見ると相対的に、不動産よりも債券が有利になります。
日米問わず、低金利時代には債券利回りよりも上場REITの方が分配金利回りが高めです。しかし、変動金利での調達の割合が高い場合、金利上昇によって早晩、配当利回りが下がることになります。そうなれば当然、REIT価格も下落するでしょう。
REIT価格が下がるということは回り回って不動産価格も下がるということです。不動産投資家には不動産価格下落と金利上昇のダブルパンチとなります。
アメリカでも金利が上がった現在、下落まで言わずとも、不動産価格には足踏みのバイアスがかかっているでしょう。上がり続けた賃料もそろそろ頭打ちになるはずです。
どんな指数も数値でその方向性が確認された時には既に方向転換がされてから時間が経過しています。不動産価格の指標や数値が下がったと世間に認知され始めた時には、既に転換点を超えてしばらく経過したことになります。
現在の日本は微妙な立ち位置で金融政策を行なっています。いつとは断言できませんが将来的に金利は上がる方向でしょうから、日銀の政策金利には常に注意を払わなければなりませんね。
フルローンで物件を購入していて、借入金利が2%以上も上がるようなことが起きれば、そのまま何もしないでいると返済を滞らせることになってしまいます。
固定金利やキャップ型の変動金利で借りていれば直ちに返済に窮することはないでしょうが、どんな形でも金利上昇はレバレッジ投資家には最大のリスクと言えますし、その弱点を常に自覚して不動産投資をしなければなりません。
もしかしたらこれから10年先まで金利の急上昇は起きずに、オイラの杞憂に終わるかもしれません。そうであればラッキーなことですが、ラッキーなことをただ祈るのは経営自体を何も考えず、リスクになにも手立てを打たないのと同じです。
日本には西側諸国のように金利を上げるだけの政策余力がないと見る向きもあります。しかし、もしも資源のない国の通貨である日本円が暴落すれば、トルコのように金利を上げての通貨の防衛をせざる得ない時代が来るかもしれないと頭の隅に置いておくことは重要です。
歴史や経済を勉強する度に思うのですが、人間はいつも判断を間違えます。
日本のバブル期、大半の人が「 不動産は常に上がり続ける 」と思い込んでいたため、投資家や企業が転換点を見誤りました。ノーベル賞受賞者等の最高の頭脳を集めたアメリカのヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメントも過度のレバレッジが原因で破綻しました。
テック企業であれば全ての起業に薔薇色の未来があると皆が信じた頃に、ITバブルが崩壊しました。サブプライムローンでは複雑な仕組みでリスクを希薄化して見えないようにし、誰もが「 自分は損をしない 」と信じて疑いませんでした。
笑い話のようですが、当時、アメリカでは飼い猫にも住宅ローンがついたといいます。そんな状態の中、リーマンショックが起きました。
常々、オイラは「 自分は間違っているのではないか? 」と自問しますが、その時点では答えは出ません。なぜなら実際に、間違えたことが分かるのは損失を被った後だからです。「 損を出した 」という事実が「 あの判断は間違いだった 」と自分に知らせます(笑)
■ 過去の世界の失敗から学べる事
過去の世界の失敗から学べることがあるとしたら、以下のようなことに注意すべき、ということでしょうか。
@過度なレバレッジを使う投資
A一方通行や狭い方向への投資
B複雑で理解できない投資
C現状が続くと思う感覚と脳の弛緩
自問を続けることが大切です。レバレッジは過度になっていないか? 一つの方向にだけ投資が向いていないか? 自分で理解しているものに投資をしているか? このままの状態が何時迄も続くと思っていないか?
今回のSVB破綻のきっかけも誰かがSNSで呟いたことによるバタフライ・エフェクトとも言えるかもしれません。今回はオイラ自分への戒めとしてコラムを書きました。「 今がうまくいっているからこの先も当然、うまくいく 」とは思わないことです。