第3回の大家対談では、一度セミリタイアされてから会社員に戻られた馬橋さんと、8年前に会社員を卒業されたぺんたさんに、FIREをテーマに話しあっていただきました。大手企業でバリバリ働いた経験を持つお二人は、「 ヒマが苦手 」で、FIREに関する考えにも共通点があったようです。
■ 足で稼ぎ、営業マンに物件を覚えてもらう
ぺんたさん
馬橋さんの本の中に、賃貸の客付け業者さん用にメルマガを配信されていると書いてありましたね。どのようなものですか?
馬橋さん
空室が出た際に約400名の営業マンにセールスレターを送るんです。受け取った仲介の営業パーソンにとってのベネフィットを書き、彼らがおっ!と心を揺らすワードをちりばめるようにしています。
「 光ファイバーが部屋まで入線していて高速インターネットをエンジョイ。天井高が高く圧迫感がない明るい部屋なので、テレワーク時代にまさに打って付けです!目の前の20代、30代のお客様に薦めてみてください! 」
「 常にすぐに埋まる大人気の物件で早い者勝ちです!今すぐ、内見申し込みのご連絡をください!問い合わせはxxxxまでお電話、メールとFAXは24時間OK! 」なんて書いたりします。ぺんたさんはどのような取り組みをされていますか?
ぺんたさん
地方は昭和の空気が残っているので、顔を合わせることが重視されます。マメに訪問して、その時にちょっとでも会話をして自分の物件を覚えてもらうようにしています。昔の電機メーカーの営業マンみたいなイメージです。
馬橋さん
私も足で稼ぐことも同時に行っています。仲介の営業パーソンには、自社管理物件だけでなく膨大な数の空室のマイソク情報が送られてきます。メールを送って終わりではなく、大家の顔を覚えてもらうことでうちの部屋を想起してもらえるようなアクションもとても大事だと思っています。
ぺんたさん
400人にメールを出すのは大変な作業じゃないですか?私のエリアでは、業界全体でも400人もいないと思います。
馬橋さん
BCCで一斉同報するだけなので大した作業ではありません。過去に名刺交換をしたり、内見対応をした際に出会ったりした方をメーリングリストに入れていたら、その数になりました。
辞める人も多いので定期的にメンテナンスしています。最初は自分で送っていましたが、勤め人の今は管理会社さんにお願いしています。
ぺんたさん
今は管理会社さんに管理を委託されているのですか?
馬橋さん
はい、最初の5年間は自主管理でしたが、今はフルタイムで働いているのでフィーをお支払いして管理会社さんにお願いしています。兼業大家という感じですね。
馬橋さんの物件
■ 「 働きたくないから大家になりたい 」という人はアホかと思う
馬橋さん
最近は「 FIRE 」がはやっていますね。私は一度、会社員を辞めたのですが、5年してからまた会社員に戻ってきました。ぺんたさんはFIREについて、どうお考えですか?
ぺんたさん
少し厳しめの言い方をすると、「 働きたくないから大家になりたい 」という人は失敗すればいいと思っています。そういう考え方は、正直アホではないかと思います。
馬橋さん
なかなか辛口ですね(笑)。
ぺんたさん
そりゃそうですよ~。不動産賃貸業は、様々な形で汗をかき知恵を絞る人たちが生き残る世界です。ラクをして、左うちわの幻想を信じている人は失敗しますよ。私自身もFIREではなく、独立したと思っています。
独立してよかった点は、働いていた時は社内手続きをするだけでも膨大な作業が必要でしたが、起業してそれがなくなったことです。自分で意思決定をして、すぐに行動に移せることが何よりも爽快です。
馬橋さん
そうですよね!ちなみに、ぺんたさんは専業になって何年目ですか?
ぺんたさん
8年目です。あっという間でした。勤め人を卒業する前にイメージしていたことがどんどん実現していくので楽しいです。セミリタイアしたときは20戸未満でスタートしましたが、8年間で10倍以上になりました。
ガラガラだった物件を再生して満室にした後に売却したものが幾つかあるのですが、手放した後で空室が増えているのを見ると、「 オレ、頑張ったよな 」と思います。リアル人生ゲームですよね。バーチャルなコインではなく、リアルなコインが入るのでやりがいがあります。
馬橋さんは38歳でセミリタイアされ、海外を転々とした後にサラリーマンに戻ったそうですが、どういった経緯だったのですか?
馬橋さん
私は38歳の時、大家になる前に博報堂を退職しました。家賃収入ではなく、別の金融資産からのキャッシュフローが勤労収入以上にあったので、憧れだったアーリーリタイアをしたい、と思いまして。
というのも、三菱商事に勤めていた頃、取引先の米国西海岸のIT企業の経営者たちでアーリーリタイアする人がけっこういたんです。「 まだ若いのになぜ仕事を辞めるの? 」と訊くと、「 もう一生暮らせるだけのお金が充分にあるから 」という回答でした。
日本でも昔からそういう生き方をする人はいましたが、そこまでスポットライトを浴びていなかった気がします。それが当時、米国や欧州では結構注目されていたんですよ。
それで憧れて真似をしてみたんです。博報堂の人事部には「 そんな理由で辞めるヤツは会社はじまって以来だよ! 」と呆れられました。でも、実際にやってみたら、私にとっては最悪でした…。
ぺんたさん
えっ?それはなぜですか?
馬橋さん
観光ビザなので1カ所最長でも3カ月くらいですが、最初はアチコチで海外暮らしや旅行をして楽しかったんです。問題は、日本に帰国してからです。
アーリーリタイアしている友達がおらず平日は遊んでくれる相手がいないので、毎日のように六本木で1人で飲んでいました。キャバクラに行って10万・20万円使うとさすがにカネがなくなりますので、朝まで飲んでも数千円で遊べるDJクラブに通っていました。
でも、それもすぐに飽きてしまいました。そういえばDJも遊んで暮らしているように見えましたが、よくよく聞くとそれだけでは食えなくて、昼間は釣り船の船頭とかをしていると話していましたね。
ぺんたさん
そうでしたか。
馬橋さん
リタイア中には楽しい体験もしましたよ。例えば、近所の小学校で読み聞かせをしました。若いママたちと一緒にやるんですが、もともと中学高校で少し演劇をやっていて、博報堂の仕事でDRM型の広告主のラジオ広告の完パケCMを読んだりしたこともあり、発声や場面づくりは得意で、小学校低学年の子どもたちから人気があったんですよ(笑)。
ほかに、インストラクター資格を持つダイビングに行ったり、スキーで山ごもりしたり、オープンカーを買ってドライブしたり、スポーツクラブに通ってそこに来ている芸能人を見たり、茶道教室に通ったり、帝国ホテルのメンバーラウンジにも行ったりしましたが、とにかく時間が埋まらないんです。
ぺんたさん
やることがないのはきついですよね。
馬橋さん
ぺんたさんがまさにそうですが、地元の名門高校から難関大学に入り卒業後は大きい会社で朝から晩まで忙しく働いて大きな実績を残してきたような人が、お金があるからと急にぶらぶらし始めたら、きっとヒマすぎて病気になりますよ。経験した私が断言しますが、そういう人間はFIREなんてするものではありません。
ヒマを楽しむにはかなりの才能が必要だと思います。無理なくできるのは貴族の出の方だけじゃないでしょうか? 中国の古い本に「 小人閑居にして不善をなす 」なんて言葉もあるそうですが、“小人”の対立概念である“君子”なら大丈夫みたいです。
私の知り合いに旧華族がいて、彼らの一日の過ごし方を聞きましたが、“小人”の私にはとてもできないと思いました。貴族はそれこそ一日中趣味にいそしむなどして遊んでいて、同じ日に何度も着替えるそうです。散歩の服とか乗馬の服とか夜会の服とか(笑)
ぺんたさん
私も何度も着替えますよ、普段着と作業着に(笑)。
馬橋さん
さすが“君子”、さすが“貴族”!!(笑)。会社員に戻ったもう一つの理由としては、アーリーリタイアの支えになった金融資産がリーマンショックをモロに食らって利金支払いが停まり、数年後に償還された時には半分になってしまったということがあります。
それで、慌てて不動産投資、というか大家業を始めたんです。「 買って、持って、祈る 」しかできない金融資産と違って、不動産賃貸業は自分で投資対象をコントロールできるしキャッシュフローが安定しているのが最高だと思いました。
ぺんたさんがDIYでリフォームした部屋
■ 大家業がうまくいっている人はヒマになる
ぺんたさん
まじめな話、私もヒマに耐えられません。中には缶コーヒーを片手に仲間と話しているだけでも楽しいという人もいますが、誰にでもできるものではないですよ。
興味深い話があります。去年の夏、大家仲間がリフォームの応援に来てくれました。「 どうしたの?」と聞くと、「 FIREしたのはいいけど、やることがなくて気が狂いそうだから、手伝わせてくれ 」と言うんです。
元大工さんと電気屋さんですが、「 タダでいいから仕事をやらせて 」と言って、2日間手伝ってくれました。管理会社への指示だけでは時間が埋まらないということでした。
馬橋さん
大家業がうまくいっている人はヒマになりますよね。ヒマということは、大家力が高い証拠です。
ぺんたさん
馬橋さんは、FIREのあと再び就職してほっとした感じがありましたか?
馬橋さん
はい、毎日行くところがあるって、嬉しいものですね。「 今日行ける会社がある!! 」と嬉しくなってすごく早起きしたりとか( 笑 )。ただ、もう電車に乗れないカラダになってしまったので、自分でお金出して会社の隣に区分を借りました!(笑)
毎日、ニコニコ仕事に打ち込んでいたら、たまたま社長が引き上げてくださって、上場企業の執行役員として100人超の部下をマネジメントしたり、大きな競合でGoogleに勝ったり、派遣先のベンチャー上場の時にも取締役として東証で鐘を鳴らしたりと、ワクワクするような体験もさせてもらいました。
ぺんたさん
ははは・・・(笑)先日、私と同じエリアで投資されているジャンボ山口さんが大家列伝に登場されていましたが、あの方がFIREした後でずっと家にいたら、「 あそこの旦那は失業したらしい 」と近所の人から陰口をたたかれたそうです(笑)。
馬橋さん
もちろん、人生観は人それぞれですから、FIREをしたい人はしたらいいですよ。ただ、自分には合わなかったですね。それに、FIRE生活を維持するために田舎に住んで節約しているなんて聞くと、そんなのは楽しくないと思ってしまうんです。
私は「 みんなと 」働くのが好きみたいです。日本昔話でもおじいさんは山へ芝刈りに行きますし、男は外で働きたい生き物なのかもしれません。欧米人と日本人では伝統的に職業観が違うようですから、輸入した考え方をそのまま日本人に当てはめるのはムリなのかもしれません。
ということで、その時の流行り言葉に乗って、会社を辞めて青い鳥を探しに出かけるのは、どうかと思いますね。自戒もこめて。
編集後記
一度、セミリタイアされた馬橋さんがまた会社員に戻られたお話は大変興味深かったです。明日の最終回では、これから不動産投資を始める方へのメッセージなどをうかがいます。お楽しみに。