税理士の渡邊浩滋さんと、事業継承の方法を模索中の赤井誠さんの対談最終回。準備不足の投資家が多すぎて、この業界の次の世代が心配という渡邊さんが、「 準備を始めるのに最適な子供の年齢 」、大きなポイントとなる「 現オーナーの身の引き方 」、「 事業継承でネックになること 」など、大切な資産を次世代につなぐために「 今、すべきこと 」をレクチャーします。
⇒前回:赤字アパートを相続した2代目大家の苦悩

このままだとこの業界の次の世代が心配です
渡邊浩滋さん
赤井さんは、子育てで意識してきたことはありますか?
赤井誠さん
僕自身は、競争の世界でトップを取り続けるという生き方をしてきました。間違ったとは思っていませんが、これでよかったのかという気持ちもあって、子供たちには「 ガツガツするばっかりが人生じゃないよ 」「 人生で大切なのはお金だけじゃないよ 」と伝えています。
サラリーマン時代は子供の成績に口を出していましたが、今はテストの点数よりも、いかに幸せに生きるかが大事だと考えが変わりました。そういう意味では、家訓って難しいですよ。私自身が20代の頃と50代の頃では、考え方が全然違いますし。それでも、ちゃんとやっておかないといけないんでしょうね。
渡邊浩滋さん
家訓や事業計画は一度作ったら終わりではなく、定期的に書き換えましょう。面倒でも、そこはしっかりやるべきです。正直なところ、私は多くの大家さんが、物件を増やすこと、節税することにはエネルギーを注ぐのに、それで得た資産をどう継承していくかに無関心なのが不思議なんです。
業界は二極化が進んでいて、中には、儲からない物件を抱えている大家さんも多くいます。そんな物件を、何も聞かされないまま引き継ぐことになった子供たちは大変です。
今はうまくいっている方でも、20年後、30年後のことまで考えている大家さんは、どれほどいるでしょうか?
赤井誠さん
その通りですね。私もつい、目の前の物件のことで時間をとられて、後回しになっていました。
渡邊浩滋さん
今のままだと、この業界の次の世代はどうなってしまうのかと心配です。苦労されて築いた資産を、いかに引き継ぐかについて、もっと真剣に考えてほしいですね。
何か問題が発生したときは、事業継承のチャンス
赤井誠さん
税理士さんから見て、オーナーが何才くらいになったら、事業継承をしていくのがいいと思いますか?
渡邊浩滋さん
難しい質問です。経営者として優秀な方でも、「 何才で渡すか 」ついては皆さん、迷っておられます。やっぱり、その先にある死ということを考えたくないんですよね。お子さんの方も、言い出しにくいでしょうし。

赤井誠さん
死ぬ5年前、とか予想できないですからね( 笑 )。
渡邊浩滋さん
一つ言えるのは、何か問題が発生して、それを改善していく時はチャンスです。建物の修繕でもいいですし、空室対策でもいいですが、それをお子さんと一緒に取り組んで、成功体験をさせることで、仕事を面白いと思ってもらうきっかけが作れます。
あとは、お子さんがバリバリのサラリーマンだと、忙しくて余裕がなくなってしまうので、できれば大学生とか新入社員くらいの時間があるときに、始めるのがいいと思います。
経営者の視点を持ちつつサラリーマンができることは、社会人としての強みになりますし、サラリーマンの経験が賃貸経営に活きることもありますよね。
赤井誠さん
確かに。うちは少し、遅かったかな〜。60才で渡したいなら、50才を過ぎたくらいから始めるべきだったと思いますね。でも、その頃は自分が大家として成長することに必死でしたし、子供たちも小さかったので、イメージがわかなかったんです。
合同会社の場合、中学生の子供は役員にできないじゃないですか。「 いつ子供たちに渡そうか 」なんて考えているうちに、もうでっかくなっちゃいましたよ。規模はどうでしょうか。これ以上の規模なら、準備が必要という目安はありますか?
ドロドロの相続争いはテレビの中だけの話ではない
渡邊浩滋さん
それも一概にはいえませんが、お子さんが二人以上いる場合は、注意した方がいいでしょう。仲の良かった家族が、相続を機にバラバラになることもよくありますので。
赤井誠さん
テレビドラマなどで、ドロドロの相続争いの話などがありますが、あれは本当によくあるんですか?
渡邊浩滋さん
残念ですが、あります。その理由の一つが、物件や法人を兄弟で共有させたり、株式を兄弟間で分散させたりすることです。先ほど、相続は集中がカギといったのはここにつながります。赤井さんのように、兄弟にひとつずつ法人を渡すというのはいいやり方だと思います。
家族の幸せのためにアパート経営をしているはずなのに、それが原因で争うようでは本末転倒です。「 家族で資産を守る 」という基本を忘れず、事業継承も仕事の一つとして行うべきだと思います。
赤井誠さん
確かにそうですよね。子供が一人の場合は、もう少しシンプルなんでしょうか。
渡邊浩滋さん
そうですね。かといって、放っておいていいわけではありませんよ。
赤井誠さん
僕くらいでもやることがたくさんあるので、すごく規模が大きい人は、大変ですよね。

渡邊浩滋さん
最近、税制が大きく変わって、中小企業の相続などに伴う株の承継は、要件を満たすことで、その株に係る相続税を全く払わなくてよくなったんです。ただ、資産運用会社は適用外とされました。
それでも「 従業員が5人以上いる株式会社 」の相続については、資産運用会社も適用対象になるので、この仕組みを使うという選択肢もありますね。従業員はパートさんでもいいんですが、原則、社会保険に入るのが条件です。
赤井誠さん
へえ。人を雇うとやめられなくなるので、僕は他人を入れることは考えていませんが、勉強になります。
大切なのは、赤井さんが徐々に現場から退くことです
渡邊浩滋さん
それともうひとつ、事業継承のためにとても大切なことがあります。それは、赤井さんが徐々に現場から退くということです。今のうちから、継承を進めて、息子さんたちに事業を任せていくんです。
赤井誠さん
うーん、それは難しいなあ。自分の方が絶対にうまく経営できるので…。さっき、60才になったら仕事を減らしたいなんて話をしていたのに、ダメですね( 笑 )。自分の場合、そこが一番ネックになるかもしれません。
もちろん、いつか渡そうという気持ちはあるんですよ。墓場まで全部持っていこうなんて思っていません。でも、いい物件があれば買いたいですからね。不動産投資に関する仕事自体が楽しいので、やめるのが難しいんです。
渡邊浩滋さん
その気持ちはわかります。
赤井誠さん
うちの親父が亡くなった時は、遺産も限定的でしたし、生前に将来、母の面倒は私が見るということを父や妹たちと共有できていたので、私が実家などをすべて相続するということで円満に終わったんです。
でも、自分のときは金額も大きいですし、同じようにはいきませんね。きちんと準備しなければいけないな、とよく理解できました。倒れてから慌てるのではなく、今のうちにどう分けるかを決めて、毎年、議事録を作りながら、少しずつ分け与えていこうと思います。

渡邊浩滋さん
どうぞ早めに。ぜひ、今年から始めてください。かかりつけの税理士さんに早めに相談するのも、大切です。
赤井誠さん
税理士さんの協力がないとわからない部分もあるので、また相談させてください。同世代の仲間たちにも、今のうちから事業継承を進めていくように伝えます。今日はありがとうございました。
渡邊浩滋さん
オピニオンリーダーの赤井さんが行動することで、大家さんたちの間で事業継承の大切さが広がっていけば嬉しいです。いつでも相談にのるので、ぜひ取り組んでみてください。
編集後記
対談は今回が最終回。多くの人が、自分だけはいつまでも健康でいられると信じているもの。しかし、「 その時 」は必ず訪れ、それがいつなのかは誰にもわかりません。苦労して築いた物件たちを家族の「 お荷物 」ではなく、「 生きる糧 」として活かすために、この春から事業継承の準備を進めてみてはいかがでしょうか。気になる赤井さんの事業継承の今後については、コラムでお知らせいただきたいと思います。赤井さん、渡邊さん、ありがとうございました。
○ 全4回のテーマ
第1回【 自分の死後、アパートはどうする?「 事業継承 」には無関心な投資家たち 】
第2回【 知恵は何よりの財産、自分の代で絶やすのはもったいない 】
第3回【 赤字アパートを相続した2代目大家の苦悩 】
最終回【 大切だけど難しい「自分が現場から退く」ということ 】