前回に続き、加藤ひろゆきさんと大黒天人さんの対談の模様をお届けします。今回は、大黒さんが遭遇した数々の驚くべき体験とその対処法がテーマ。そのあまりの修羅場っぷりに、さすがの加藤ひろゆきさんも、驚くばかりだったようです・・・。
■ 勝手にアパートを壊して建替えていた入居者

大黒様は、入居者さんと仲良しですよね。

そうですね。でも、いい方ばかりというわけでもなく、私が買う前からいる入居者さんの中には、トラブルメーカーもいたのですよ。裁判もかなりの数をこなしてきました。

どんなトラブルがあったんですか?

大阪にある2階建の木造アパートに入居した人が、周りの人を追い出して、勝手に3階建のRC物件に建て替えていたことがあります。1年ぶりにその物件を見に行くと、アパートがないので、最初は「 場所を間違えたかな 」と思いました。数秒後に勝手に建替えられたとわかったときは、ちょっとパニックになりましたね。
それだけではなく、周囲は高い塀で覆われていて、監視カメラがいくつもある。道路側の壁は厚さ10センチくらいの鉄板で固められ、雰囲気も普通じゃないんです。もしかして、と思ったら、やっぱりあちらの世界の方でした。最初は一般の人を入居させておいて、途中で入れ替わったんですね。その場所にどうしても事務所を構えたかったみたいです。

ええ? でも、そんなことしても、すぐにばれますよね。それで、どうしたんですか?


建築確認もなく、法的にはむちゃくちゃな建物なので、役所に行き「 この建物に住んではいけない 」という通知を出してもらいました。私からは、取り壊して元の物件を建てるための費用を賠償するよう伝えました。この件も時間はかかりましたが、なんとか解決することができました。
■ 大阪特有のトラブルへの対処法

ワタクシは海の家で組織の方にお会いすることがありますが、入居者として遭遇したことはありません。大阪は、そういうトラブルが多いですか?

そうですね。あるアパートで、滞納と近隣からのクレームで、退去してもらった若い男性がいました。それがその筋の方で、退去後の部屋に行くと、キッチン、トイレ、お風呂が全部、コンクリートで埋められていたんです。配管周りが全部ダメになってしまい、全交換で150万円もかかりました。
このときは、保証人だった親分さんに弁償してもらいました。ちなみにその親分の家も、高い塀で囲まれていて、玄関にトラの敷物があり、部屋には鎧兜が飾ってあるVシネマのような作りでした。元入居者を叱りつけたあと、「 堅気の方に迷惑をかけてしまって・・・ 」と謝ってくれました。

でも、その若い衆は、相当締められたんじゃないですか?

実は私の目の前で・・・。おっと、これ以上は言えません。でも、「 そんなことしても、1円にもならないし、勘弁してあげて 」と私からお願いしました。この彼とは10年後に偶然、出会ったんですが、職人になっていて、「 あのときは迷惑をかけてすみませんでした 」と謝ってくれました。親分に払ってもらったお金は、今でも少しずつ返しているそうです。

足を洗って更生したんですね。なんだかいいお話じゃないですか。それにしても、家中の配管にコンクリートを詰めるお金があるなら、家賃を払ってほしかったですよね。

そうなんです。どうやってやったの?って聞いたら、実は実家が左官屋さんで、ホームセンターで材料を買い、部屋の中で水と混ぜて、ひとりで全部やったっていうんです。ある意味、すごい行動力ですよ。それにしても、今思うと、床が抜けなくて良かった。そうなれば、下の住人さんの命にかかわりますから。

加藤さんの事務所に飾られているキヨサキ氏との写真
■ 大家を辞めたいと思った時

競売物件の占有者が出て行くときに、嫌がらせでそういうことをするって聞いたことがありますが、本当にそんなことがあるんですね。

はい。これも大阪ですが、壁をぶち抜いて、勝手に隣の部屋を使っていた滞納者がいました。訪問すると、玄関に鉄板が貼られていて中に入れない。何が起きたのかと思ったら、いつの間にか内部を改造していて、強度を高めるためか室内には鉄骨の枠まで組んでいたんです。
「 はあ? 」と思いつつも冷静に対応して、建物の撤去費用等の賠償を保証人のお兄さんに行ってもらいました。その後、その土地は区画整理地域になって収用されたので、補償金が入りました。

その滞納者さん、器用ですね。家賃の代わりに、大工仕事を頼めばよかったじゃないですか。あ、でも、家賃を払わない人って、仕事が好きじゃないから、難しいか・・・。他に、変わった入居者さんはいましたか?

アパートで300匹以上の爬虫類を飼っていた人がいました。下の階のベランダに蛇が逃げて発覚したんですが、物干し竿にからみつく蛇を見たご婦人がショックで気を失ってしまい、大騒ぎになりました。「 爬虫類好きなのはかまわんけど、うちの物件で飼うなや! 」と心の中で叫びながら、後処理に奔走しました。
あと、水道代が異常に高い部屋があったので行ってみると、デリヘルの待機所兼オイルマッサージの店になっていたこともあります。無許可経営だったんですが、私より先に警察が気付いて「 大家なのに、知らなかったはずないだろう! 」と説教されました。

古い物件を買う時は、前から入っている入居者に変わった人がいないか、要注意ですね。これまで、大家を辞めたいと思った時はなかったんですか?


入居者さんとのトラブルは、やるべきことをやるだけですから、平気です。ただ、師匠が亡くなったときは、1年以上何も手につきませんでした。もう不動産から手を引いて、サラリー一本でいこうと思っていると、師匠が夢に出てきて「 お前は何をしてるんだ! 」といわれたんです。
その後、本気でやらなければと気持ちを入れ直し、当時持っていた物件の半分以上を売却しました。それ以来、会社員の仕事も辞めて、大家業一本です。そのあとも師匠は夢に出てきて、「 空から応援しているよ 」と言ってくれました。
■ 不動産は簡単に稼げるものではない

ステキなお話ですね。ところで、半分以上売ったのは、どうしてですか?

より質の高い賃貸経営をするために、家賃6万円以下の物件は売りに出して、それ以上の物件に組み替えたんです。その後も築30年を超える物件、家賃の安い物件から売却し、順次、中身を入れ替えています。自主管理の限界は住居系で200戸と感じていますし、数を増やさず、内容で利益を上げていく方針です。

師匠の会社は、どのくらい物件を持っていたんですか?

私が入ったときは住居系だけで約600戸、今は総数で約2,400戸あります。これだけ増える間に、私もかなり鍛えられました。そういえば、師匠は気になると放っておけない性分みたいで、物件を再生するのが好きでした。私も師匠に人生を再生してもらったようなものです。偶然の出会いでしたが、ご縁があったんだなと思います。

運転手がセンチュリーに乗って迎えに来た時から、運命は決まっていたのかもしれませんね。師匠の教えで一番心に残っている言葉を教えてください。


「 不動産は簡単に稼げるものではない。いかに努力をして稼ぐかを考えなさい 」。あと、「 金だけ出してあとは人任せでは、自分の力が身に着かない 」ともよく言っていましたね。そういえば、師匠はサブリースが嫌いでした。自分で少しのノウハウも蓄積せず、契約が切れたあとで経営が立ち行かなくなっても、誰のせいにもできないぞ、と。

●●パレスも、サブリースが終わるときは全員退去させてから引き渡すそうですね。新築から20年も経てばオーナーは年をとっていますし、そこから苦労するのはかわいそうです。そういえば、ハウスメーカーは、新築の見積もりを取ると、必ず地主さんが借りられるマックスの価格で出してくるといいます。利回りも建物だけなのに5%台だそうです。

うちも実家に更地があるので、色々なメーカーさんが見積もりを持ってきますが、1LDKが1戸あたり1,000万円もするんです。営業の人が「 相続税対策に効果的 」というので、「 その前に回らなくなって差し押さえられたらどうすんねん。3LDKで400万円に作り直してから来んかい! 」と無理難題をつきつけて追い返しています( 笑 )。
大黒さんの口から次々に飛び出す過酷な体験談に、加藤ひろゆきさんの事務所全体が凍りつくような場面も見られました。それにしても、結局は丸く収めてしまうところが大黒さんのすごいところです。次回は、不動産投資で利益を最大化するためのポイント「 売却 」がテーマです。お見逃しなく!
○ 全5回のテーマ
第1回、【 家賃70億円の師匠に21才で弟子入りした話 】
第2回、【 勝手にアパートを壊して建替えていた入居者 】
第3回、【 8年目で売りに出して3年かけて売却する理由 】
第4回、【 大事なのは買う基準よりも買わない基準 】
最終回、【 儲かる物件とそうでない物件 〜加藤ひろゆきさんの物件ツアー編〜 】
対談に協力いただいた方々
撮影協力:張田満さん
影武者:特殊工作員Nさん