■ 不動産投資におけるフィンテックとは?
今回は、今流行りの「 フィンテック 」を不動産投資に活用したら、投資で成功できるのか? について考えてみたいと思います。
ご存知の方も多いと思いますが、フィンテックとは「 ファイナンス 」と「 テクノロジー 」を組み合わせた造語で、ITを活用して金融サービスに革新を起こそうとするサービスの総称です。
フィンテックは金融サービス全般を対象にしているので、不動産投資の世界にも当然影響を及ぼします。不動産を対象にしたフィンテックサービスを「 不動産テック 」と呼んで、ひとつのジャンルとして取り扱う風潮もあるようです。
最近では「 新築アパート建設がアプリのやりとりを通じて簡単に行える 」というサービスが大々的にテレビCMを流していました。スマートフォン上で土地取得、アパート建設、賃貸付け、管理、入金といったプロセスを全て済ませることができるという触れ込みです。
興味があったので、私もこのサービスを使ってみました。すると、不動産投資家目線で見ると少し懸念があるように感じました。その懸念とは、「 物件の質( 特に立地 ) 」と「 投資家の戦闘力ダウン 」という問題です。
■ 丸投げは非常に危険
新築アパート建設アプリを使って連絡をすると、すぐに先方からアポイントの提案が来ました。日時が決まったら、顧客の属性や希望を聞いたうえで実際の面談へと移ります。
顧客側からみると、このアプリを使うことで、心理的ハードルの高い「 営業マンとの面談 」の敷居が下がることになります。相手側からみると、それにより、大量集客が狙えることになります。
こうして大量の「 購入希望者 」を集めておけば、実際に新築アパートに必要な「 土地情報 」もアプリ運営者に数多く集まってくるでしょう。すると今度は「 良い物件が紹介してもらえる 」という評判が立ち、購入希望者がまた増える、という算段です。
また、アパート建築後の「 管理 」について、アプリでやり取りできるというのも、時間のない投資家にとってはメリットになるでしょう。アプリでメッセージを送っておけば管理会社が動いてくれるというのは、オーナーとしては非常に楽ですからね。
しかし、このビジネスモデル、投資家にとっては諸刃の剣でもあります。それは 不動産会社( =アプリ運営会社 )にあまりにも自分の不動産投資プロセスを丸投げしすぎることになる、という点です。
このサービスであれば、土地や建築プランの選定、その後の客付け、管理修繕といったプロセスを、ほぼ運営会社に任せることになります。
オーナーはほとんど現地に行くことがなくなるため、自分の中に投資家としてのノウハウは貯まっていきません。管理や客付け、エリア選定や物件選定といったスキルがほとんど身につかないまま、時間が過ぎていくのです。
新築の時は客付けも簡単ですから、それでも運営していけるでしょう。しかし、10年後はどうでしょうか? 古くなって設備やプランも陳腐化したアパートの客付けを、オーナー自らすることができるでしょうか?
その時にアプリ運営会社を頼ろうにも、出てくる提案は「 家賃の引き下げ 」くらいでしょう。それに対して、運営ノウハウが自分に蓄積されていないオーナーは、なすすべもなくそれを受け入れるしかありません。
■ かつて来た道?
この構造、どこかで見たことがあると思いませんか? 個人的には、土地を持っている地主さんに次々とアパートを販売し、管理を請け負う不動産チェーン店のやり方に非常に似ているという印象を受けます。
具体的には、「 物件を買う( 建てる )ところにフォーカスして収益を上げる 」「 その後は管理費収入で利益を出す 」という点で、ビジネスモデルが重なるのです。
しかし、アパートを建てた後で苦労することになる地主さんが多いのは、皆さんもご存知のとおりです。ITやアプリの活用といった「 見た目 」は変わっていますが、残念ながら、ビジネスの本質は従来型から特に進歩はないように私には感じられます・・・。
■ 将来が不安になる立地ばかり
このサービスで更に気がかりなのが、アパートを建てている「 エリア 」と「 立地 」です。アプリを見れば、これまでの施行事例を見ることが可能なので、私もじっくり見てみました。
施行済み物件の立地を見ると、首都圏でいえば、その多くが郊外部の駅徒歩10分以上の物件でした。5年、10年経って、建物に新鮮味がなくなった際には、客付けに不安を覚える立地です。
恐らく、キャッシュフローを確保するため一定の利回りを求めた結果、郊外・駅遠の土地に行きついたのでしょう。また、新築アパートが建てられる土地の売り物件が、郊外部でしか確保しにくいという事情もあるでしょう。
しかし、出口戦略まで考えると、これでは収支的に難しいと言わざるを得ません。現在の売り手市場のマーケットでも、郊外部の物件はある程度利回りを高くしないと売却できないからです。
新築時に8%程度で建てた物件が、売却時は12%でも売れない、となると、レバレッジ効果を考えてもほとんど利益は出ません。ざっくりいうと、5,000万円の物件が、売却時には3,000万円強になってしまうイメージですから・・・。
■ 不動産テックは上手に活用しよう!
不動産テック系のサービスは今後も増えると思います。その特徴は、「 不動産投資への参入障壁を下げて参入しやすくする 」と同時に、「 管理業務などの負荷を下げ、サービスへの依存度を高める 」という点にあります。
ここからは個人的な提案になりますが、不動産投資が初めて、という方は、このような「 丸投げ型 」サービスを最初から活用することはあまりおすすめできません。
一方で、自力で不動産投資を行ってきた実績があり、ノウハウを身に付け、資金的にも余裕が出てきた投資家であれば、「 時間を買う 」という意味で、このようなサービスを選択肢の一つに加えるのは良いように思います。
そういう方であれば、「 丸投げ 」のリスクを認識しつつ、サービスの良いところを享受することができるはずです。ただし、その際にも、特定のサービスや不動産業者に依存しすぎず、常に複数のオプションを投資家自身が持つことを忘れてはいけないと思います。