「 この度物件を購入することになりました。減価償却を大きく取りたいため、売買金額のうち建物金額を大きくしたいのですが、どんなことに注意すればよいでしょうか? 」という質問を受けることがあります。
通常、土地建物を一括で購入する際に、売買契約書に記載される金額は、土地建物の合計金額になります。土地と建物の金額の内訳がない場合には、一般的に土地と建物の固定資産税評価額で按分する方法が取られます。
しかし、そうすると、建物金額が小さくなってしまうことがよくあります。建物金額を大きくして、減価償却にあてたい買主としては、喜ばしいことではありません。
一方、売買契約書に建物金額を明記しておけば、原則としてその金額が建物金額と認められます。それを利用して、建物金額を大きく売買契約書に記載するように売主さんに交渉するよう試みる方がいます。
しかし、どのような場合でも、売買契約書に記載される建物金額が認められるのでしょうか? 2つの事例をみてみましょう。
■ 契約書の建物の価格が認められた事例
まずは、平成20年5月8日の裁決事例です。そこで以下のような判断がなされました。
「 土地及び建物を一括取得した場合の建物の取得価額については、売買契約書において土地建物の売買価額の総額とともに、内訳として土地、建物それぞれの価額が記載されている場合には、
契約当事者が通謀して租税回避の意思や脱税目的等の下に、故意に実体と異なる内容を契約書に表示したなどの特段の事情が認められない限り、当該契約書における記載内容どおりの契約意思の下に契約が成立したものと認められるから、
その価額に特段不合理な点が認められない限り、契約当事者双方の契約意思が表示された当該契約書記載の建物の価額によるのが相当である。」
その判断に至った事実認定は、以下のものです。
(1)契約当事者として契約書に記載された内容で合意し、契約の締結に至ったものと認められ、両者の間に、同族会社であるなど特殊な利害関係あるいは租税回避の意思や脱税目的等の下に故意に実体と異なる内容を契約書に表示したなどの事情は認められないこと
(2)本件契約書に記載された建物の価額は、売主が不動産売買の仲介業者に売却価額の査定を依頼し、その報告書を参考に決定したものであって、審判所の調査によっても特段不合理なものとは認められないこと
(3)建物の価額が明記されていることから、当事者の契約意思は明らかである上、建物に係る固定資産税評価額を下回っているものの、内訳の価額が決定された経緯からみても特段不合理なものであるとは認められないから、建物の取得価額は、当該価額によるべきであり、固定資産税評価額の価額比であん分する方法によることは相当でないこと
原則は、契約書に建物の価額が明記されていれば、当事者の契約意思として、その価額が建物金額になります。しかし、例外もあり、契約書に明記された価額が認められないことがあります。
■ 契約書の建物の価格が認められなかった事例
契約書に明記された価額が認められないケースとは、以下のようなものです。
①契約当事者が通謀して租税回避の意思や脱税目的等の下に、故意に実体と異なる内容を契約書に表示した場合
②その価額に特段不合理な点が認められる場合
実際に、売買契約書の建物価額が否認された事例として、平成20年8月6日那覇地方裁判所の判例があるので紹介します。ここでは、2件の土地建物の購入がありました。
ひとつは、売買代金約1億2,400万円で、土地代金6,500万円、建物代金5,900万円。
もうひとつは、売買代金6,000万円で、土地代金3,600万円、建物2,400万円と記載されていました。
一見、それほど極端な建物金額ではなさそうですが、契約書の土地及び建物価額の割付は、客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められると判断されました。
その判断に至った事実認定は、以下のものです。
(1)昭和36年、昭和39年に建築された建物で、売主が平成2年に購入してから利用しておらず、売買契約締結時には、電気の供給が停止されており、その後も供給が再開されることはなかったこと
(2)売主は建物が古くなりすぎて土地と区別して値段を付けれられるものとは考えておらず、逆に、建物の取壊し費用がかかるため、土地の値段が安くされると思っていたこと
(3)売主は、契約の際、総額いくらで売れればよいと考えており、土地と建物の値段については考えたことはなく、契約書に記載されている土地と建物の値段及びその算定根拠については分からない旨申述していること
(4)買主は、契約の交渉は、仲介人とのみ行っており、売主と会っておらず、売主は、仲介人の言われるとおりに契約を了解していること
ここでのポイントは、売買契約書に建物金額が記載されていても、建物の状況から見て、価額が不合理であり、かつ、建物価額について、売主との価額の合意が取れていないことが発覚したことにあると思われます。
売買契約書に記載される建物金額が絶対というわけではなく、契約の実態と合理性のある経緯がないと認められないことがあるということです。税務調査で後悔しないためにも、知っておくとよいでしょう。
( 注 )上記事例は、わかりやすくするため、元の判例に加筆・修正している部分があります。ご了承ください。