前回のコラムに引き続き、「 税金の繰り延べ 」とは何か。そこから減価償却を使った節税の本当の意味について解説していきます。
2.正しい繰り延べの方法
税金の繰り延べとは、税金の支払いを先送りにしているにすぎません。先送りにしているだけで、いずれ支払うことになるのであれば、それは意味がないかというと、そうではありません。
使い方によっては、有効なケースがあります。例えば、毎年900万円所得がある人が、5年後に返戻率100%の500万円の保険( 全額経費になるものと仮定 )に入った場合を考えてみましょう。
■ 意味のない税金の繰り延べ例( 表1 )

保険に入った年( 1年目 )は、所得が低くなるため税金が安くなりますが、5年後( 6年目 )の解約時には所得が500万円増額されます。
所得税は、所得が高くなるほど税率が上がるため( 超過累進税率 )、保険を解約した年には、所得が高くなることから税率も高くなり、高額な税金を支払うこととなります。
6年間のトータルでは、高い税金になってしまい、これでは保険に入る意味がありません。
税金の繰り延べを、「 所得のコントロールができるもの 」と捉えると、節税が可能になります。
所得は毎年一定額とは限らないため、所得が多い年に保険に加入し、所得が少ない年に解約して保険を受け取ることができれば、税率を均すことができるのです。
所得が少なくなる場合とは、例えば、大規模修繕時期に多額の修繕費の支出があるなどです。保険の加入者が法人であれば、役員を退職させて、経費になる退職金と保険金の収入をぶつけるという方法もあります。
それが節税につながります。
■ 意味のある税金の繰り延べ例( 表2 )

つまり、保険を解約すると収入になるため、その収入になるタイミングを、所得が低くなる時点にもってくれば、税率を上がらなくすることが可能になります。
税金の繰り延べは、節税する時点( 入口 )よりも、収入になる時点( 出口 )を見極めることが大事なのです。
もう一つ、税金の繰り延べで、見落としがちなのは、資金が必要だということです。500万円の保険料が支出として一旦出ていくことになります。
返ってくるのが5年後なので、500万円の資金が5年間寝てしまうことになります。では、500万円使って、いくら節税になったのか。
■ 表2の例で、税金の繰り延べを使わなかったら?( 表3 )

税金の繰り延べ( 保険 )を使った場合と使わなかった場合では、5年間で60万円の節税にしかなりません。果たしてこれは、本当に意味のある節税なのでしょうか?
保険料の500万円は、保険に加入している期間、全く使うことができません。5年もの期間500万円を寝かせておくよりも、もっと有効な活用法があったのではないか。
節税という言葉に惑わされず、税金の繰り延べをして、得なのかどうなのかを冷静に判断しなければなりません。
3.減価償却に当てはめて考えると
上記の保険の例は、そのまま減価償却に当てはめて考えることができます。節税する時点が、保有期間で、収入になる時点を、売却時期とします。
(例)土地1,500万円、建物3,500万円の物件を購入した場合。
家賃収入が年間250万円、経費が50万円、減価償却が700万円( 5年間で終了 )とします。6年目に、購入したときと同額の5,000万円で売却すると仮定します( 同額であっても、建物の減価償却が終了しているため、建物金額3,500万円がまるまる利益になると計算します )。

保有期間は、不動産所得での税金計算になるため、総合課税( 給与などと合算 )での税率が適用されます。
売却時期は、分離課税のため、保有期間が5年超なら20.315%の税率が適用されます。この税率の差を利用すると節税になるのです。
■ 総合課税の税率が50%の人が6年目で売却した場合の節税効果( 表4 )

高い税率のときに、節税となり、売却収入になるときに、低い税率が適用になっているため節税効果が高くなっています。
海外不動産の減価償却費を使った節税スキーム( 前々回のコラム参照 )では、この点が「 けしからん 」と指摘を受けていることなのです。
■ 総合課税の税率が20%の人が6年目で売却した場合の節税効果( 表5 )

表5のように、保有時点と売却時点の税率に差がないときは、節税効果がないことがわかると思います。
4.出口で目減りするリスク
表5でも、家賃収入が入ってくるので、トータルのキャッシュフローを考えると損はしていないと思います。
しかし、これはあくまでも6年目で同額で売却すると仮定した場合です。売却金額が大幅に下がってしまったら・・・、空室が増えて家賃収入が半額になってしまったら・・・。
減価償却を使った節税には、このようなリスクも含まれていることを忘れてはならないのです。
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