法人化のメリットは、家族に給与を払えることです。家族に給与を払うことで、所得が分散され、低い税率が使えるようになります。さらに、給与所得控除( サラリーマンの経費とみなしてくれる控除 )を使うことでも所得が圧縮できるので、節税になるのです。
しかし、給与を払うと社会保険に加入しなければならなくなります。社会保険料の負担は、健康保険と厚生年金と合わせて給与支給金額の約30%です。例えば、年収が500万円の場合、社会保険料は約150万円になります。
この保険料は、会社と従業員( 役員 )の折半で払います。給与金額の約15%( 上記の例の場合、約75万円 )は会社が負担してくれるので、従業員にとっては、非常によい制度と言えるでしょう。
しかし、不動産投資家が法人化をした場合、自分の会社( 同族会社のこともある )ですから、会社負担の分も自分で負担するのと同じです。これでは法人化による節税メリットがなくなってしまう可能性があります。
そこで社会保険を免れる方策として、「 非常勤役員を利用すればいい 」と言われることがあります。しかし、「 非常勤役員 」でも社会保険事務所から加入義務があると言われたという情報もあります。
実際のところは、どうなのでしょうか? 何かあってから慌てないためには、事前に「 社会保険に加入しなくてよい人 」の要件を理解しておくことが重要です。それがわかれば情報に振り回されることもありません。
1、非常勤役員は社会保険に加入しなくてよい?
非常勤役員だから社会保険に加入しなくてもいい、ということはありません。常勤か非常勤かにかかわらず、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として加入義務が生じるためです。
しかし、働き方によっては、必ず社会保険に加入しなければいけないというわけでもないのです。では、「 法人から労務の対償として報酬を受けているか 」は、どのように判断するのでしょうか?
日本年金機構では、「 業務が経営の参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断する 」と説明しています。
具体的な判断材料としては、下記を挙げています。
①法人の事業所に定期的に出勤している
②法人における職以外に多くの職を兼ねていない
③法人の役員会等に出席している
④法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事している
⑤法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていない
⑥法人より支払いを受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって、実費弁償程度の水準にとどまっていない
②法人における職以外に多くの職を兼ねていない
③法人の役員会等に出席している
④法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事している
⑤法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていない
⑥法人より支払いを受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって、実費弁償程度の水準にとどまっていない
上記を【 満たさない 】場合には、社会保険に加入しなくてよい非常勤役員となります。
2、加入が免れる非常勤役員となるためには?
ただし、上記の判断材料はあくまでも例示であり、実際には実態を見て総合的に判断されます。そして、先ほどの例示を証明するのはなかなか難しいように思えます。社会保険に加入しない場合は、疑いをかけられないように、下記のような対策を講じておいた方がよいでしょう。
1)金額が非常勤役員の給与にふさわしい
常勤の役員と遜色ない金額の給与の支給を受けていると、非常勤であることが疑わしくなってしまいます。過去の裁決事例をみると、月15万円までが最大と思われます。
また、月15万円ですと、社会保険の扶養から外れることになります。扶養から外れないようにするためには月10万円程度にしておいた方がよいかもしれません。
2)法人税の勘定科目内訳書の役員給与欄に非常勤に◯をする
法人税の勘定科目内訳書の役員給与欄に「 常勤 」か「 非常勤 」かを選択する項目があります。ここでの選択が法的に拘束されることはありませんが、常勤に◯をしておいて、非常勤と主張するのは苦しくなってしまうため、「 非常勤 」に◯をしておきましょう。
3)法人の役員会に毎回出席せず、議事録残しておくようにする
役員会に毎回は出席していないことを証明するために、役員会を定期的に開催し、議事録を残しておきましょう。不定期で出席していることが議事録からわかればそれが証拠になります。
3、従業員として逃れること可能か?
わざわざ家族を役員にしなくても、アルバイトにして、加入しなくてよい日数で勤務してもらえれば済むのではと思う方もいるかもしれません。
しかし、アルバイトや従業員の場合には、給与支給額は労働の対価でなければなりません。実労働の実績があって、世間相場並の単価でないと、税務署から給与が否認されてしまう可能性があります。
4、代表者は非常勤役員になれる?
代表者も非常勤の要件を満たせば、社会保険の加入をしなくてもよくなるのでしょうか?
「 代表者は、仮に不定期な出勤であっても( どこにいても )、役員への連絡や職員への指揮命令はでき、定期的な出勤がないことだけをもって被保険者資格がないという判断にはならない 」とされています。
代表者は出勤がなくても、給与を支給すると加入義務を免れることができませんので気をつけてください。
■ Youtubeでは動画解説も
私のYoutubeチャンネル「 大家さんの知恵袋 」でも、「 非常勤役員は本当に社会保険に加入しなくてよいか? 」について解説していますので、よろしければあわせてご覧ください。