神奈川県の東急田園都市線「あざみ野」駅から徒歩18分の場所に、2棟長屋のガレージハウス賃貸がある。家賃20万円でありながら即満室、キャンセル待ちが13組できた。築17年経つ今も、その人気は衰えることなく、家賃下落率は0%。
このような入居待ちができる賃貸の作り方を有限会社Kaデザインの代表で、日本最大級の建築家ネットワーク アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社(ASJ)に登録する山本健太郎氏に聞いた。

家賃20万円を17年間キープ!
リフォームや大規模修繕の必要なし
山本氏が最初に手掛けた賃貸住宅が上の写真のガレージハウスだ。雑誌「ガレージライフ」に執筆したコラムを読んだ読者からの依頼で手掛けることになった。
「先見の明があるオーナーさんでした。2004年に竣工したこの賃貸は2軒長屋で、一戸は引き渡し後数年で一度入れ替わっただけで以来退去がなく、賃料下落率ゼロ。室内のリフォームも大規模修繕もしていません」

入居者は車を複数所有するファミリーを想定。限られた敷地を有効活用するため、スキップフロアの3LDKに。リビングは天井高が2.8mあり、内見に来る人は見上げるほどの天井の高さに惚れ惚れして入居を即決した人もいる。

上記の物件が話題となったことで、その後、同エリアで5棟のガレージハウス賃貸を手掛けることになった。
町田市でも駅徒歩20分、
家賃19万のガレージハウス賃貸が即満室
東京都町田市でも駅徒歩20分の場所でガレージハウス賃貸を3棟手掛けた。満室が続き、好評なことから、オーナーさんが隣の敷地で2棟、追加で作っている。
「3棟のうち1棟を、スペースマーケットを通して時間貸しをしたところ、家賃の3倍ぐらいの売上になったことも。ただ管理の手間がかかることから、現在は3棟とも賃貸に」



入居者に物件の「ファン」になってもらう!
退去の際、入居者が次の入居者を連れてくる
入居待ちができる賃貸住宅を作るうえで大事なことを聞いた。
「その物件にしなかい強烈な魅力を持たせて、入居者の物件のファンになってもらうこと。そうすれば入居者が転勤などで退去しなければならないときにも、次の入居者を連れてきてくれます。そうした例が何軒もあります」
特に昨今では、コロナの影響で在宅時間が増え、ガレージハウス賃貸は潜在的なニーズがあるようだ。
「ガレージは車やバイクを置くだけではなく、お店や工房、家族で集まるなど、多様な使い方ができます。特に郊外で駅近ではない土地の活用に有効です。生産緑地を所有していて、どう活用すればいいか迷っている人にもおすすめです」
ファンを作るためには、共用部も見逃せない。
「ファミリー向け賃貸では共用部にシンボルツリーを配置するなどして、入居者同士、自然と仲良くなるような場を設けます。そうするとコミュニティができ、なかなか退去しなくなります」

シンク台の下はあえて何も作らない。
通気性をよくして、カスタマイズできる楽しさを
魅力的な賃貸住宅作ろうとすると、どうしても建築コストがかかってしまいそうだが、予算を抑える工夫などないだろうか?
「お金をかけるところとかけないところのメリハリが大事です。たとえばキッチンのシンク台の下は湿気がこもりやすく傷みやすいので、あえて何も置かず、通気性をよくすることも有効です。入居者は自分で収納道具を買ってきてカスタマイズする楽しみもあります」


魅力的な物件ができれば、退去や修繕に
悩まされず、オーナー自身の幸せにつながる
最近では一般住宅で断熱性や省エネ性などが重視されている。
「これからは燃費のいい賃貸住宅に価値を見出す入居者も増えていくのではないでしょうか。それも1つの付加価値になると考えていいます」
同じような間取りやデザインなら入居者は新しい物件に移ってしまうため、家賃を下げる以外に武器のない物件は作るべきではないと山本氏は警鐘を鳴らす。
「建築の力を活かして入居待ちができるような物件を作ることは家賃の下落や退去などの問題も少なくなり、大規模修繕などのコストも抑えることができ、最終的にオーナーさんにとってメリットが多く、オーナーさんの幸せにつながっていきます」
画一的な物件を作っては、街並みも画一的になりエリアのポテンシャルを下げる可能性がある。
美しい街並みを作っていくことも建築家の仕事であり、魅力的な賃貸住宅を増やしていきたいと力強く語った。
●取材協力:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社(ASJ) 約3000人が登録する日本最大級の建築家ネットワーク。全国各地のスタジオや定期的に開催するイベントで、さまざまな建築家と出逢い、話し合える場所を提供している。
健美家編集部(協力:高橋洋子)