東京都品川区、東急電鉄目黒線の不動前駅から徒歩5分、3頭まで多頭飼いできる猫共生賃貸「Deux plumes」が話題を呼んでいる。家賃は相場の2割増しにもかかわらず、竣工1カ月前に満室に。それも全3戸の募集に40組の内見者が殺到する人気ぶりだ。
手掛けているのは株式会社小木野貴光アトリエ一級建築士事務所。人気の秘訣や、どのようにして40組もの内見者を集めたのかなど、気になるポイントを取材した。

風や光が心地よく入り、回遊性のある間取り。
猫も人も快適に暮らせる住まいで印象付ける!
小木野氏はこれまでに猫と共に暮らせる賃貸住宅や住宅を多数手掛けてきた。猫共生賃貸というと、キャットウォーク、キャットステップなど猫の通り道を配置した部屋をイメージするが、それだけではない。
「猫と人との動き方は異なり、猫は高い場所や日当たりのいい場所を好み、回遊性が高い間取りを喜びます。猫が快適に暮らせる住まいを追及していくと人も快適に暮らせる空間になります」

猫共生賃貸「Deux plumes」は、猫好きのオーナーさんからの依頼で手掛けることになった。各階に1戸だけの独立感がある設計で、何より猫の動きに合わせた遊び心のある空間設計が魅力である。1DKで家賃は相場の2割増し。やや所得の高い単身者や、二人暮らしの入居者を想定した。
「賃貸住宅はこの先10〜20年先も持続可能であるために、入居者に対して、どんな暮らしができるのか、明確に打ち出していく必要があります。猫好きはもちろん、そうではない人にも住みたいと思ってもらえる住まいを目指しました」
いざ入居者を募集すると、猫を飼っていない人からの問い合わせも多数あり、3戸中1戸は、猫を飼っていない人が入居している。
「中庭がある回遊性のある間取りは、猫だけではなく、人にとっても快適で、デザイン性や快適性を評価していただいたと感じています。猫を飼っていない場合でも、壁面に配置したキャットステップに、本や小物を置くなど活用できます」
猫共生賃貸はニーズが増えている割に、物件数が少ない!
6月に入居者を募集。内見者をどう集めたのか?
気になったのは3戸の募集に、40組の内見者が集まったことである。どのように募集したのだろうか?
「募集方法はごく一般的な方法で、物件の管理と仲介を不動産屋さんに依頼して、賃貸住宅のポータルサイトにいくつか掲載してもらっただけです。ポータルサイトに掲載する際、広告的な要素も考えて『3頭まで多頭飼いできる猫共生賃貸』であることを打ち出しました」
ポータルサイトで興味を持ってもらうためには、全戸でなくても、1戸だけでも、他の物件にはない珍しい工夫を凝らしてアピールすることが効果的だという。
「6月に入居者を募集し、40組が集まりました。猫を多頭飼いしたい入居者が増えている割に、猫共生をうたった賃貸住宅が少なく、多頭飼いできる賃貸住宅は数が限られるため、多くの人の目に留まったのかもしれません」
逆に言うと、2〜3月の繁忙期でないと入居者が集まらないような賃貸住宅は計画しない方がいいと指摘する。
「猫共生賃貸は需要と供給のバランスが崩れ、需要があるのに供給量が少なく、ずっと部屋探しをしている層があります。そうした層は多少家賃が高くても、気に入った部屋があれば入居しますから、この層を狙った賃貸住宅を計画すべきです」
消臭効果のある「エコカラット」を壁面に。
猫用のトイレや換気扇、キャットフードの置き場所も工夫

設備面での配慮としては、消臭効果のある「エコカラット」を壁面に採用した。トイレにも工夫があり、人用のトイレの脇に猫用のトイレの場所を構え、猫用の換気扇も設置している。
猫共生のための工夫を凝らしていくと建築費が高くなりそうではあるが、キャットステップやキャットウォークを作るためのコストは、さほど高くはなく、どこかで調整できる程度だという。
そうして猫共生のための賃貸住宅にすることで、周辺と競争せずに、差別化をはかることができる。
「隣の賃貸住宅が新しい設備をつけたから、うちも併せて同様の設備をつけようなどと、他の物件を意識するときりがありません。最初から他と競争しないモノを作ることが賃貸住宅を作るうえで大事なのではないでしょうか」
●取材協力:株式会社小木野貴光アトリエ一級建築士事務所

女性の視点・男性の視点どちらも持ちながら、賃貸住宅のほかにも、福祉施設・子供のための建築・クリニック・オフィスまで多種多様な設計にとり組んでいる。
健美家編集部(協力:高橋洋子)