神奈川県相模原市、小田急線の東林間駅から徒歩3分。空き家があった敷地に、新たに建てられたのが市松模様のようなデザインが印象的な木造アパートだ。
2022年のグッドデザイン賞を受賞し、竣工2ケ月前に入居者が埋まる人気を得ている。オリジナリティ溢れるデザインが目を引くが、いったいどうしてこのようなデザインが生まれたのか?
この物件を手掛けた合同会社ココト一級建築士事務所 代表で、建築家の小林 宏輔氏を取材した。

オーナーは90代の祖父。融資額が決まっているなかで、
長く選ばれるために、デザインで差別化
今回の依頼主は、小林氏の90歳を超える祖父である。空き家が建っていた敷地に、相続対策を踏まえて、賃貸住宅を建てたいとの相談を受けた。
「場所は駅から徒歩3分と魅力的ですが、賃貸住宅は飽和状態で周りには競合物件も多く、どう競争力を付けるかが課題でした。それと同時にネックになったのは、90代の祖父が受けられる融資額の上限が決まっていたことです」
物件の管理は不動産業者に一任することを見据えて、デザイナーズ物件のプロデュースや管理に慣れている不動産業者に声をかけ、小林氏と二人三脚でプランを練ることに。
「想定家賃や建築費・利回りなどシミュレーションした結果、RC造などではコストがかかりすぎるため、木造の2階建で、コストが抑えられる片廊下型の設計が最適だと考えました」
市場調査から入居者はターゲットを絞らず、学生や社会人など幅広く取り込もうと1階は単身者向けに、ロフト付きのワンルームを5戸確保。2階はDINKSや若いファミリー層をターゲットに、1LDK・1DK・2LDKと間取りが異なる3戸を設けた。
全8戸で、総工費は空き家の解体費などを含めて8800万と、予算内に抑えることができた。土地活用の目的は相続対策が最優先であったが、高めの家賃設定ができたことで、利回り7〜8%を確保できた。
こうした限られた条件のなかでライバル物件と差を大きく付けることになったのが、類まれなる「外観デザイン」だ。
「通常は外壁や窓と一体化されている『耐力壁』を前に出したら面白いのではないかと、構造設計者の意見から生まれたアイデアです。バルコニーの前面に耐力壁があることで、バルコニーにちょっとした『遊び』の空間が生じ、住み手に応じて多様な使い方ができると考えました」


シンプルで飽きがこない、無駄を省いたローコスト設計。
それでいて、ほかにはない特別感のある空間設計に
室内では扉や設備など必要最低限に抑え、キッチン設備などは既製品を採用することで、コストを抑えている。
天井は木材がむき出しで、床材と相まって木のぬくもりが感じられ、一般的な木造のアパートとは一線を画した内装である。
「準防火地域の共同住宅であるため、内装制限に適合させる必要があったのですが、近年新しく追加された規制緩和を用いて計画することで、このような木架構(木材を結合して組み合わせた構造)の内装が可能になりました」


デザイナーズ物件の集客に慣れている仲介業者の手腕も相まって、竣工2ケ月前に満室
いざ入居者を募集すると、狙い通りデザインが多くの人の目に留まり、続々と入居者が決まる嬉しい結果に。
「物件の管理を担う不動産業者がデザイナーズ物件の管理や募集に慣れていることも相まって、早々に満室になりました。祖父も喜んでいます」
さらには2022年グッドデザイン賞を受賞した。防耐火性能をクリアした上で、新技術を活用して投資物件に求められる耐久性への配慮や、ローコスト賃貸における木質表現などが評価された。
今回の事例も踏まえ、これから賃貸住宅の購入や建築を考えている読者に向けて、アドバイスを。
「賃貸住宅はいかにほかの競合物件と長期的な差別化するかが重要です。もちろん、みなさんそれを念頭に置いて投資を考えるとは思いますが、デザインに特化することでコストを抑えつつも、入居率が落ちないようなものをつくることが可能です」
ユニークで、飽きのこないデザインこそが、長期的な戦略の1つとして有効なのかもしれない。

●取材協力:建築家ポータルサイト『KLASIC』
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