定期的に競売セミナーを開催し、日々、競売の相談を受けているドクターKである。今回、競売で公開されていた一棟マンションの競売事例をご紹介する。
紹介する物件は、都内の一棟マンションである。裁判所から公開された資料では、築年数が28年経過し、外観は立派なマンションである。最寄りの駅からは約3km離れている。徒歩だと30〜40分を要する。歩くには厳しいだろう。また、近くには複数の大学が点在している。
賃貸状況は9室のうち、5室が賃貸中、4室が空きである。通常、競売物件の一棟マンション、アパートは債務者が賃貸管理を怠り、空室となっている物件が多い。この物件を参考頂き、このような競売物件もあることを理解頂けたらと思う。
1.物件概要
(1) 所在地
物件がある市町村は約57万人が住んでいる比較的に大規模な都市である。都内の西側に位置し、都心から約35kmの離れたところに位置する。特徴は、大学が多く、大学、短期大学、高専が市内に23校存在し、留学生を含めると、約11万人の学生が学んでいる。
(2) 物件概要
物件は、土地が157平米、建物の床面積が221平米であり、合計9室である。築28年、3階建ての鉄筋コンクリートのマンションである。駐車場はない。1階は診療所として、賃貸中とのこと。建物の外観より、窓がある側面が南側であり、日当たりは良いだろう。

(3) 間取り、室内
間取りは1階が診療所であり、2階、3階ともに1Kが各4室ある。1階の診療所は、レントゲン室などがあり、かなり修繕したことがわかる。

以下、室内の写真である。左上の写真が診療所の写真である。診療所であるため、清潔感ある室内である。それ以外は、2階、3階の空室の写真である。空室には残置物がなく、特に不具合は見受けられない。

2.物件詳細
(1) 賃貸契約の内容
裁判所の公開資料には賃貸契約の内容も記載され、以下、賃料である。1階の診療所は、家賃が170,000円である。それ以外の部屋の家賃は、共益費を含めると、34,000〜40,000円である。合計で9室あり、5室が賃貸中、4室が空室である。
1階の診療所について、平成7年から占有し、長年経営しているので、直ぐに退去する可能性は低いと思われる。しかし、退去すると、家賃の占める割合が高いので、影響が大きいだろう。診療所以外の部屋の契約内容で住み始めた時期を確認すると、5年も経過していない。近辺に大学があるため、学校に在籍している期間のみ賃貸している学生の可能性が高い。

(2) 関係者のコメント
裁判所の公開資料には、債務者、賃借人の関係者のコメントが記載されている。所有者(債務者)のAは、消息不明とのことで、父親が管理を代行しているようである。しかし、施設に入っているとのことで、大家として、管理がしっかりとできていない可能性がある。

(4) 物件評価の金額
裁判所から依頼された不動産鑑定士による競売の基準価格は以下である。
17,730,000円
上記の金額は、裁判所から依頼された不動産鑑定士によって、査定される。この金額は、一般流通市場の価格よりも安く設定される。理由は、この金額が一般流通市場よりも高いと誰も入札せず、競売自体が成り立たないためである。
3.落札結果
(1) 落札結果
落札金額は以下である。
30,990,000円
(2) 利回り
利回りを計算する前提として、裁判所から公開された賃料が継続可能であるとする。空室の家賃は、現在一番低い家賃の34,000円(共益費込み)で仮置きする。満室時の月額の家賃収入は417,000円である。結果、表面利回りは約15.4%である。
落札金額 30,990,000円
月額家賃収入(満室時) 417,000円
諸費用 1,500,000円(登録免許税や不動産取得税などの概算金額)
表面利回り 15.4%
4.最後に
本物件に関して、東京都内で1棟マンションが満室利回り15%で落札されている。この数値だけなら悪くない。しかし、気になる点は駅から非常に遠いため、空室対策が必要だろう。
近辺の状況を確認すると、駅から離れているが、1km以内に複数の大学がある。そのため、家賃を下げれば、賃貸できる可能性がある。あとは、留学生をターゲットに外国人の受け入れなど、募集条件の幅を広げる手段も考えられる。初心者には厳しい物件のように思えるので、ある程度、仲介の不動産業者と交渉できる中級者、上級者向きの物件に思える。このような物件もあることをご理解頂き、ご参考頂ければと思う。
執筆者:ドクターK
【プロフィール】
「株式会社ココス」所属。競売コンサルタント。年に数十回の入札を行い、数件落札。競売をやりたい初心者向けに毎月競売セミナーを開催し、競売のノウハウを伝授。執筆活動も行い、著書「はじめての競売」に一部寄稿。