安心・安全の賃貸経営には良質な入居者が欠かせない。家賃を滞納されたり、夜逃げされたり。こうしたリスクに戦々恐々としないで済む入居者として、一流と言われる企業に勤める人を狙いがちだ。
しかし、優良と言われる企業であってもリストラや倒産といった可能性は常にある。そんな中で一つ注目の入居者がいる。駐留米軍の軍人である。
その米国軍人に照準を当てて賃貸住宅を運用し、高利回りと安定稼働を実現しているサラリーマン大家を取材した。
都内在住のサラリーマンS氏は、横須賀の米軍基地に勤務する軍人や軍属向けに、現在戸建て住宅4物件を運用している。利回りが20%に達しない物件を買わないのが投資方針だ。
軍人相手の賃貸経営について、「横須賀に限らず国内の米軍基地周辺で可能なビジネスだ。賃料水準は基地によって違う。その中でも横須賀の賃料相場は高い。東京圏でボロ戸建てを探していたところ、たまたまベース(基地)案件を知った」と話す。
賃料は入居している本人が振り込むが、軍が家賃負担(思いやり予算?)するので取りっぱぐれがない。空母に乗り込み海外に出ている間は家賃の振り込みが滞るケースもあるが、数か月後、半年後にまとめて振り込まれ、これまでに未収はないという。
契約は3年更新。数カ月で日本を離れる人もいるが、更新時に入居者が入れ替わることが多い。一度軍の査定を通っているので、次の入居者が決まりやすく、空室期間が短いのも強みだ。
通常、築古の戸建てを200万~300万円で購入し、賃貸しても家賃はせいぜい8万~9万円ほどだが、米軍人は倍以上の賃料で借りてくれる。例えば、単身向け1LDK(50㎡)ならば月額賃料5万~6万円の相場に対して18万円台で貸し出せる。
将校クラスが最も高く借り上げ、次に家族持ちの軍人・軍属、単身者と続く。横須賀の軍人の場合は、将校など幹部の賃料が40万~50万円、家族持ちの軍人・軍属ならば25万~30万円、DINKSや単身者では20万円弱での借り上げが相場となっている。
S氏は、「これまでに最も高額な物件は、仕入れとリフォームを合わせて2000万円弱で取得した。RC造2階建て延べ床面積300㎡。ほぼ廃墟状態で雨漏りとシロアリ被害があったものの、躯体がしっかりしていることで再生に踏み切った」と話す。
3世帯に貸し出し、下の2部屋を月額8万5000円ずつで日本人、屋上付きの上階を軍人に24万円で貸し出し、計41万円の月額賃料を得られた。
すでに30代のサラリーマン投資家に売却しており、投資額を大幅に上回る金額を回収したという。現在は、そのサラリーマンの家族が1室に住み、残り2部屋を8万5000円と24万円で貸して計32万5000円の賃料収入を得ているそうだ。
横須賀中央駅や汐入駅の周辺には、仲介大手を含めて米軍人を相手にしているベース特化型の不動産会社が並ぶ。ただ、格安物件は品薄だ。新築物件は、プロの不動産業者が運用するケースが多いため、個人投資家にまで出回らないという。
中古戸建て狙うS氏は、「なんでも良いわけではない。軍人に貸し出す際には、米軍の査定官が住居の査定をする。査定官の出す条件に合致するかを見極めながら物色しなければならない。
100万円、200万円という激安の中古戸建てが出て、競争をかいくぐって手に入れたとしても、査定官の審査を通過しないと貸し出せない」と指摘する。
横須賀エリアは地形的に勾配がきつく、入口まで階段を上らなければならない物件も多いが、その階段は50段以下を目安にする必要があるそうだ。
入居者の住宅の好みに合わせてのリフォームも鍵を握る。アメリカ人は、部屋数よりも寝室が広いのを好み、狭い場合は壁をぶち抜いて広くする。
ほかに網戸が付いていることと、感謝祭など七面鳥を料理するお国柄もあって軍からオーブンの支給を受けるため、キッチンはオープン仕様が欠かせない。ドアの高さも大柄のアメリカ人に合わせる。ただ日本人と違い日当たりは気にしない。
浴室・トイレは、ファミリータイプの場合でシャワー2つ、トイレ3つ、特に寝室はシャワー付きが必須となる。新築の場合は、そうした様式で建てるが、中古はリフォームで追加することになる。
「アメリカ人は親子でも同じシャワーを使わない。なかにはトイレ1カ所でもいいという人もいるけれども、高級将校向けの新築は複数のシャワー・トイレに加え、駐車場も2台分確保する。駐車場が必要な場合は、駐車場とセットで貸し出す」という。
ちみなみに横須賀中心部の駐車場料金は月額3万円ほどで東京と変わらない水準。中心から離れても1万円を切る駐車場を探すのは難しい。
基地に近い、基地までの道が分かりやすい、こうした物件が人気ではあるが、高速道路を使い自動車で30分の場所であっても、気に入ってもらえる物件仕様にできれば借りてくれる。格安で仕入れたS氏の物件は、まさにそうした物件。
入居者に気に入ってもらい、査定官の審査さえ通れば『基地遠』で『築古』であっても高利回りを産み出す投資物件になる。
相場以上の賃料で安定稼働が見込める物件は、プロの不動産事業者が自ら購入・運用してしまうので、個人投資家が仕入れるのは難しい。
しかし、きめ細かく情報を収集し、入居者のニーズを掴むことでプロにも対抗できる。そのための「力」を身に付けることが、不動産投資家には欠かせない。
健美家編集部