漆喰風の外壁は美しいアールを描き、アーチをくぐるとオリーブの木が揺れる広い中庭。中庭を囲む各住戸のバルコニーや階段はロートアイアン調で、まるで南欧の田舎町に佇む邸宅の趣がある。丸山保博士建築研究所(東京都杉並区)が手掛ける中庭付きアパートがアフターコロナ時代の新しい賃貸住宅スタイルとして人気を集めている。
1999年に地元・高円寺に最初の中庭付きアパートの設計を手掛けてから23年。当初は高円寺を中心に年間1棟ペースだったのが、見た目の高級感に反して意外なローコストであることや常時ほぼ100%を保つ入居率が評判を呼び、2015年からは首都圏で年間10棟近くのオーダーが入る状態になった。近年では全国から地主や家主が視察に訪れ、茨城県や静岡県にも中庭付きアパートが建った。
共同住宅に中庭を設けることの最大のメリットは、空間を活用することで建築費を抑えられることだ。中庭を囲むように建物を配置することで、中庭が共用部分である廊下や階段の役割を兼ね、その分の面積を住戸に振り分けることができる。各専有部分についても無駄な廊下スペースを極力排して居室面積を最大限に確保している。中庭側に玄関を設けて大きな開口部を二箇所確保することで、採光・採風に優れ広さを感じやすい工夫が施されている。
施工会社を入札形式で選び、設備や資材は分離発注形式で調達する一方で、「外壁は生命線」と丸山さんが言うように建物全体の印象を大きく左右する漆喰風の塗り壁やロートアイアン調のベランダ手すりや階段は、熟練の職人に任せる。
このように、20年以上かけて積み上げてきたノウハウで、同規模の一般的な集合住宅に比べて建築費の1-2割節減と、入居者を惹きつける魅力的な外観の実現を両立させているのが、丸山さんの中庭付きアパートなのだ。
中庭付きアパートのもう一つのメリットは、家賃を高めに設定できること。例えば、2020年に竣工した茨城県日立市の物件は、家賃を周辺相場よりおよそ1割程度高く設定したにも関わらず、竣工前に満室となったという。
最寄り駅から徒歩15分の物件でも、ある程度築年数が建った物件でも、家賃を下げなくても高い入居率を保っているのが、丸山さんの手掛ける物件の強みでもある。初期の物件は築20年を超えるが、家賃を下げることなく満室が続いているという。中庭があることで、1階部分も、2階以上と同じ家賃が取れることも、収益性を高めている。
そして、コロナ禍を経た今、テレワークの単身者や子育て世帯から、中庭付きアパートにさらに熱い視線が注がれているという。「ステイホームの最中も、中庭で仕事をすることでリフレッシュできたり、子どもを安心して遊ばせたりできたというお声をいただきました」と丸山さん。
中庭は、建物全体の玄関であり、各戸へのアプローチであると同時に、心安らぐ庭であり、コミュニティスペースでもあるーー。丸山さんの思いがつまった中庭付きアパートは、まさに新しい時代の賃貸経営と言えるだろう。
東京都杉並区高円寺で丸山さんが手掛けた実際の物件を数カ所見学できる無料の見学相談会が、10月から12月にかけて開催される。詳細は、こちらを御覧ください。
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健美家編集部(協力:
(おおさきりょうこ))