全国古家再生推進協議会(全古協)の空き家の築古戸建て再生投資をご紹介する連載5回目は物件のバリエーションが豊富な首都圏の湘南エリア。
古家なのに想定家賃25万円という物件もあり、幅の広さはさすが首都圏。物件価格が上がっている中、収益を確保できている理由などについても教えていただこう。
坂の街、横須賀では工務店選びがポイント
もともと根強い人気のある神奈川県、湘南エリアだが、コロナ禍で環境を重視して家選びをする人が増えたせいか、さらに一層住みたい人が増えているという。
「海の近くに住みたいという人が増えています。テレビで横須賀市のバス旅が取り上げられていたり、有名人が葉山町の佐島、秋谷などに住んでいることで憧れを抱く人がいたり、情報が増えているのも要因でしょう」と全古協の認定古家再生士の本多俊夫氏。

もちろん、そうした人気、ブランド力のある地域で古家を買うのは難しい。全古協の湘南ツアーが始まって3年目というが鎌倉市や逗子市、葉山町はもちろん、三浦市、藤沢市周辺の物件はほとんど出ない、あるいは価格が高すぎて投資には向かないことが多い。そのため、中心となっているのは横須賀市だという。
「横須賀市は神戸、横浜よりも坂が多く、坂の上などに空き家が多いのですが、面白いことに家を借りたい人は多く、経済も回っています。
沖縄の次くらいに軍事施設が多く、そのためもあるのでしょう、家賃水準は比較的高めです。その結果、横須賀ならほぼ100%借りてもらえると考え、いい物件が出たら買いたいと考えている投資家が多いのが特徴です」。
面白いのは車社会と言いながらも、坂が多いというのが分かっていながら、車がないのに坂の上を借りる人もおり、全員が全員車を持っているわけでもないという点。坂があるのが当たり前という感覚で住んでいる人が多いのだろう。

ただ、坂の多い街の問題点は改修工事。時には100段単位の階段を上って行った先に物件があることもあり、斜面に建っている物件も多い。それなりのノウハウがない、スタッフがいないと太刀打ちできないことが多いため、物件を確定してから工務店を探して依頼しようと考えると、受けてくれるところが少ない、高くつくことがあるのだという。
その点、本多氏は工務店出身。斜面地に慣れている上に自らも投資、物件購入をしているだけに収支を計算して物件価格の交渉、工事費の設定をしてきちんと収益が上がるようにしてもらえる。
「自社で施工しているので無駄はありませんし、大工の仕事の中でも土台を挙げるなど難易度の高い内容も問題ありません。多少余分にコストがかかったとしても、一度いくらでやると明言したからにはその額で収めるようにしており、そのあたりの信頼度が湘南でのリピート購入に繋がっているのではないかと思います」。
本多さんに限らず、全古協の古家再生士の皆さんは専門はそれぞれに異なるものの、自らも投資をしており、投資家の気持ちが良く分かると言う点は共通している。
一緒になってどうやれば収益を高くできるかを親身になって考えてくれるのである。そのあたりが安心感に繋がっているのは間違いあるまい。
事前に動画で物件をチェック
さて、この日見学したのは3軒の空き家と完成後の物件2軒。他と違うのはツアー前にすべての物件の動画が送られてきたこと。当日にどのような資料が配られるか、また、ツアー終了後にどのようなやりとりをするかは古家再生士によってそれぞれやり方が違うのである。
事前に動画を見ていれば、当日は気になる点を集中的に見れば良いし、相場や周辺の状況を検討しておく余裕も持てる。
湘南エリアは比較的物件が高めで、成約までに多少時間があることからできることだと思うが、そうした地域差も含めて古家再生士ごとに個性があり、やり方があるのも投資家としては学びがあり、面白いところだ。

最初に訪れたのは横須賀市武にある1階に2部屋、2階に1部屋の3Kのコンパクトな住宅。
その代わり駐車場があり、残置物はあるものの、空き家になってまだ間もなく、昭和61年築で状態は非常に良い。見学時点では500万円で出ており、改修には250〜300万円かかる想定である。それに対して賃料は8万5000円以上が見込まれるという。

「横須賀は湘南の他エリアに比べて物件は豊富ですが、最近はインフレ気味。1年〜1年半くらい前までは平均で300〜400万円という印象がありましたが、今は500万円を切る物件は希少。実際には指値を入れて買うのでそのままの額ではありませんが、だいぶ、高くなってきているのは事実です」。
特に外資系の買うパワーは強いという。利回り8%でもとにかく買うという動きもあるそうで、特に湘南エリアは東京に近いだけにその力が強いのだろう。
それでも全古協には買いたい人が集まっていると不動産会社に認知されるようになっているのが強みだと本多氏。
このところ、古家再生の収益の高さに目をつけ、手頃な物件が出ると不動産会社には問合せが殺到しているという。だが、不動産会社としては素人50人を相手にするよりは、50人なり100人の購入希望者を抱える古家再生士一人を相手にするほうが効率的。
そうしたスケールメリットがこのところ、生かされるようになってきたというのだ。難易度の高い物件も含め、全古協に情報が集まるのはそうした理由からなのである。
2軒目はなんと築120年の平屋

2軒目に訪れたのは横須賀市不入斗の築120年、明治30年に建てられたという平屋。
周辺には似たような古い建物があり、そうした物件の残されている一画というわけである。建物は玄関側が2項道路に面しており、反対側は市道の上に建っているのだそうで、払下げは可能だが、60万円くらいの費用がかかるとのこと。
「古い住宅ではこの物件のように敷地の要件に不備があったりするのはしばしば。どうしたら良いですかと意見を求められた場合には収益物件としている限り、そのままで伝えています。新築しない限り、市側から何か言ってくることはありません」。

いったん、本多氏が購入、現在改修が始まっており、改修費は総額で550〜600万円を見込んでいる。物件価格は当初100〜150万円ということだったが、残置物の処分その他の経費を引いてもらい、80万円で購入したという。
これに対してベテラン投資家も多い参加者からは想定される家賃についての議論が始まった。
周辺相場は29uの1LDKで7〜8万円だという。この物件は土地面積54uに建物が33u。一戸建てでもあり、最低で7万5000円くらいではないか、いや、もっと行けるはずなどなど意見はそれぞれ。だが、聞いていていずれも参考になった。
3軒目は建物に入れない、残置物で一杯の物件

3軒目は細い坂の上にある、入口に笹が繁茂、入れなくなっている物件。所有者が亡くなってからかなりの間放置されていたのだろう、建物は歪んでおり、室内は残置物が山のよう。
初めてこうした状態の物件を見た時には驚いたものだが、何度か、ツアーに参加して慣れたと参加者。古家再生にチャレンジできるかどうかは、こうした物件に慣れるかどうかでもあると考えるとツアーは良い経験の場だろう。
価格は100万円。残置物処分に60万円くらいはかかるので、その分を引いてもらって40万円で買う手もあると本多氏。改装費はキッチンの交換、全部で600万円くらいの想定で、残置物処分より土台の歪みを修正するのが大変だという。
ジャッキアップだけで150万円はかかるというが、自社で作業するので工事費だけででき、だから物件可できると本多氏。
ただ、この物件は駅から10分ほどと利便性は高く、賃料は7万5000円から8万円ほど。駐車場はないが、駐車場があってもその分として賃料にプラスできるのは1万円か1万5000円程度。それならバイク置き場を考えるほうが現実的かもしれない。
魅力的な完成物件に大盛り上がり

続いては完成物件を2軒続けて見学した。1軒目は横須賀市田浦にある88uと広い2階建ての物件で改修後8万3000円で貸していたが、現在はそれをアップ、8万8000円で出しているという。
物件価格は200万円で550万円をかけて改修したそうで、錆びた外壁を敢えてそのままにしているなどコストはかけていないのにものすごくかっこよく、見学した人たちからは歓声が上がっていた。

ただ、現時点で同じ改修をすると650万円ほどになるのではないかと本多氏。これからの古家投資ではその点が難になるかもしれない。だが、新築するにはそれ以上のコスト高が考えられることを思うと、あとは家賃をどれだけ上乗せできるか、競争力の勝負だろう。

もう1軒は完成した直後のオーナーもまだ見たことがないという60uほどの平屋。私道を入っていったどんつきの高台にあり、独立感、解放感がすばらしい。
間取りは2部屋にLDKで庭も広々。競争力を高めるためと庭の周りにフェンスを張ってドッグランとして使えるようになっていたのがアイディアである。現在8万円で募集をかけており、問合せが入りつつあるそうだ。

高台の別荘にもなる物件は家賃25万円を想定
最後に向かったのは本多氏が購入、改装をほぼ終了したという藤沢市内の物件。農地から一段高くなった見晴らしの良い土地にあり、バーベキューができる広い庭もあって実にゴージャス。1500万円で出ていたものを850万円で購入、1000万円をかけて改装したという。

入ってみるとリビングが50uもあり、和室、洋室2室ずつにトイレも2か所。もちろん、車も複数台止められ、自宅としても別荘としてもニーズはありそう。
本多氏は25万円で出そうかと検討中だそうで、こうした他にない物件があるのは湘南の面白さとも。物件の広さ、価格、グレードに幅があり、予算、好みに合わせて投資できるのである。
ツアー参加者はここで見学した物件のどれに投資するかを検討。最終的には最初にみた武の物件に2名の手が上がり、ジャンケンの勝者が交渉権を手にした。手堅い物件に人気が集まったとも言えるだろう。

以上、湘南を巡る空き家ツアーをご紹介した。ここまで春日部、金沢、東大阪、八王子、とご紹介してきたが、それぞれ地域ごとに特色が異なり、価格帯もさまざま。
リスクを分散するために広い地域に投資するか、ある程度土地勘のある地域に集中させるか、投資家によって意見は分かれるが、いずれも可能なのが面白いところである。
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健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))