今年も受験シーズン到来。学生向けアパートを所有している人も、大学近くのアパートの購入を考えている人も、知っておきたいのが、キャンパスの撤退や移転などの情報だ。大学近くの物件は、キャンパスがなくなれば、入居付けに苦労する可能性がある。
では移転の情報はどう入手すればいいのか? また今年の受験動向は? 長年、大学取材を続けている、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に話を聞いた。
大阪メトロ・中央線に「大阪公立大学」新設予定!
一方で「羽曳野キャンパス」廃止
新年早々ニュースになったのが、2024年度の統合を目指している、国立大の東京工業大と東京医科歯科大が、新大学の名称を「東京科学大学」とすると公表したことだ。国立大が統合し、新たな名称となるのは、「東京海洋大学」以来の20年ぶりだ。
「東京工業大学のキャンパスは目黒区大岡山にあり、東京医科歯科大のキャンパスは、文京区湯島にあり、現時点では、統合後もそれぞれのキャンパスは継続して利用されるものと考えられます。注意すべきは、統合後に、キャンパスの移転、縮小がある場合です」
たとえば、2022年に旧・大阪市立大(杉本キャンパスなど)と旧・大阪府立大(中百舌鳥キャンパスなど)が統合し、「大阪公立大学」が新設された。
2025年には新たに森ノ宮キャンパスができ、メインキャンパスとして利用する予定である。当初4月開設の予定であったが、不発弾の発見などがあり、2025年後期に延期されている。(出典元:大阪公立大学ホームページ)。
それによって今後、旧・大阪府立大の羽曳野キャンパスは、廃止の見通しとなっている。
現「羽曳野キャンパス」の近くにある学生向けの物件は、学生の減少が予想され、学生の賃貸ニーズが激減する可能性がある。
逆に、今後、入居者の増加が見込めるのが「森ノ宮キャンパス」近くの物件であり、大阪メトロ・中央線に「大阪森ノ宮新駅<(仮)大阪公立大学前駅>」の新設が2028年に予定されている(新駅の詳細はこちらの記事を参照)。
「大阪メトロ・中央線の東側(長田駅)や接続する近鉄けいはんな線沿線は、これによって学生アパートの利用者の増加が見込めるかもしれません」
東京・八王子、千葉・野田、群馬・板倉でもキャンパス廃止。
近隣の学生向けアパートの行方は?
関東近郊でも下記のように、キャンパスの移転が、続々と決まっている。
●中央大学法学部
→2023年、法学部1~4年生が東京・八王子から東京・茗荷谷にキャンパス移転(出典元:中央大学ホームページ)
●東京理科大学薬学部
→2025年、千葉・野田から東京・葛飾にキャンパス移転予定(出典元:東京理科大ホームページ)
●東洋大学生命科学部、食環境科学部
→2024年4月、群馬・板倉キャンパスから、東京、埼玉にキャンパス移転予定(出典元:東洋大学ホームページ)
「群馬の板倉キャンパスがあるエリアをよく知っているのですが、群馬のなかでも福島よりの立地で、大学撤退後の学生向けアパートは、非常に厳しい状況になるかもしれません」
板倉キャンパスの跡地に、新たな大学の構想があるといった報道もみられたが、現時点では、跡地の活用は明確に決まっていないようだ。
これまで私立大は郊外キャンパスが主流で、背景には、土地代が安い、地元自治体からの寄付や優遇措置などがあったことが影響している。ところが2000年代以降、学生獲得競争の余波で都心集約が進み、首都圏、関西圏だけではなく、名古屋・中京圏や札幌、鹿児島など地方都市でも都心回帰の動きがみらる。
キャンパス移転情報は、河合塾などの予備校や
旺文社など教育系出版社のサイトが参考に!
地方や郊外で、学生向けのアパートや相場よりも安く売りに出ているのを見つけたら、その背景には、大学キャンパスの撤退、廃止が決まっていたなんてこともあるかもしれない。
大学移転の情報をキャッチするには、河合塾などの予備校、旺文社など教育系出版社のサイトが参考になるが、最終的には各大学の正式発表を見て確認したい。
たとえば、河合塾のサイトでは、文部科学省のデータを元に新設の学部の情報から募集停止、廃止などの情報も一覧で掲載している。
情報系学部、医療系学部の人気はつづく
脱コロナでも、オンライン環境は重要!
昨今の受験動向や人気の学部なども気になるところである。石渡氏によるとIT関連の情報系学部の人気が強いようだ。
「旅行、ホテル、物流、公的機関など幅広く、IT化が求められていることから、どの業界でもIT業界の人材が求められています。この先10年はIT人材の不足が続く可能性があります。
こうした世の中の動きを受け、一橋大学が2023年に『ソーシャル・データサイエンス』学部を新設し、近畿大でも2022年に情報学部を新設しています。今後も情報系学部の新設や人気は続くでしょう」
長引くコロナ禍も重なり、医療や介護業界でも人材不足が続いている。医療法人が新たに学校を立ち上げるケースもあり、今後も医療・介護に関する学校や学部は堅調だと石渡氏は予測する。
学生向けアパートはネット環境の「高速化」がポイント、
さらに「防犯対策」と高騰する「光熱費」への配慮も
では、学生向けアパートの設備面では、賃貸オーナーはどんなことに留意すべきだろうか?
「脱コロナに向けた世の中の動きがあるものの、大学ではオンライン授業は浸透し、かつ、就職試験でも、オンラインで説明会や一次面接などを行う動きが浸透しています。
そのため賃貸住宅において『ネット環境』が重視され、『インターネット無料』であることのほかに『高速、無制限』であることが付加価値になります。
すでにネット環境が整っている場合も、本当に高速なのか、制限がかからないか、確認するといいかもしれません」
昨今では、ストーカー殺人や、強盗殺人など物騒な事件が起こっていることからより安心、安全に暮らせる住まいを求めることも予想される。
防犯対策として「防犯カメラ」「宅配ボックス」「オートロック」、「より防犯性の高い鍵への見直し」も重要なポイントになりそうだ。
さらには、この冬の光熱費の高騰や、夏に向けて電気代の上昇が予想されることから、光熱費を下げるアイデアや設備面での考慮も、学生向けアパートの魅力になるかもしれない。
「本格的な省エネ対策はコストがかかり難しいかもしれませんが、身近なものを使った節電対策を大家さんが教えるだけでも、初めて1人暮らしをする学生さんには喜ばれるのではないでしょうか」