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「太田垣章子のトラブル解決!」”入居者”と”賃借人”が違うから怖い 「法人契約」の罠。

賃貸経営/トラブル ニュース

2021/02/18 配信

法人の節税のひとつに、従業員の住む場所を社宅とする手法がある。住宅手当として数万を支給するより、法人が部屋を借り、その部屋に従業員が住み、そして多少の寮費を従業員から取るという方法だ。

確かに税金面では、有益かもしれない。ただ現場では、借り手と住み手が違うためにトラブルになりやすく、そして解決も一筋縄ではいかない。

賃借人がとんでもない奴だった

運送業を営むA社長は人材確保の一環として、ドライバーのためにワンルームマンションを借りた。

家賃は7万2千円。従業員は1万5千円を負担するだけで、住む部屋を得られる。運転免許さえあれば、住む場所も働く場も得られるということで、生活に困窮している側からしても好都合だった。

1年ほどして、住み手である従業員のBさんから申し入れがあった。

「体調が悪いので、暫く仕事を休ませて欲しい。その間の家賃は自分で払います。体調が戻ったら、すぐに仕事に復帰しますから」

A社長はここで雇用も打ち切り、部屋から退去してもらうことも考えた。だが今の人材不足のことを考えると、それも得策ではない。

部屋の家賃を自分が払うというなら、会社に損失もない。A社長はBさんの申し入れを受け入れることにした。

そこから5ヶ月後、私は家主から明け渡しの手続きの依頼を受けた。

A社長の法人が家賃を払わないということだった。A社長の法人に内容証明郵便を送ったところ、すぐに連絡が来て私は事情を知ることになった。

ある意味A社長も被害者なのだろうが、ツメが甘かったとしか言いようがない。A社長は日々の仕事に忙殺され、Bさんのことが頭からすっ飛んでいたのだ。

運送業に限界を感じ、A社長は他の法人で事業を展開し運送業の法人は休眠状態だったため、管理会社の督促がBさんの耳に届いていなかったようだ。

一方のBさんは、仕事に来なくなった時期から「自分で払う」と言いつつ、家賃を払っていなかった。

ところが賃貸借契約上の賃借人は、A社長の法人。当事者同士で「自分が払う」としていても、法的にはA社長の法人が払うべき賃料なのだ。このままならA社長の法人に対して、訴訟手続きを進めるしかなくなってしまう。

A社長の法人が賃借人なので、一緒に現地を確認することにした。

すでにライフラインは止められ、ドアノブにはたっぷり埃が積もっていた。もはや室内への出入りはなされてないようだった。

ドアをノックしても、反応がない。何度か試してみた後、A社長は賃借人として合鍵でドアを開けた。

18㎡弱のワンルーム。そこにBさんの姿はなく、飲んだ後のペットボトルが膝の辺りまで敷き詰められるほど転がっていた。冷蔵庫は空っぽ。荷物もなく、あるのはペットボトルの山だけだった。

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「僕が責任もって契約を解除して、部屋を明渡します。Bさんが何か言って来ても、こちらで対処しますから」

A社長は、滞納分を支払い、大量のペットボトルを撤去して部屋を明け渡してくれた。

人材確保のための妙案だったが、想像以上の経済的負担を背負う結果になってしまった。一方でBさんがまだ部屋を使っていたとしたら、解決までに非常にややこしく時間がかかったはずだ。今回のことは不幸中の幸いとしか言いようがない。

連帯保証人がいてくれたおかげ

Cさんは突然に管理会社から退去通告を受けた。勤務先の法人が借りてくれた部屋の家賃を払っていないというのだ。ネジ工場に勤務するCさんは、コロナで自宅待機中だった。

法人が借り、Cさんが住み、Cさんの義弟が連帯保証人になっていた。

ネジ工場の社長は工場ごと夜逃げして、もはや連絡がつかなくなっていた。自宅待機中のCさんは、社長の夜逃げを知らなかったのだ。

家主から依頼を受けた私は、夜逃げした法人と、入居者であるCさんと、そしてCさんの義弟である連帯保証人に対して訴訟手続きを開始した。

Cさんの妹は「主人にだけは迷惑かけたくない」と、慌てて私のところに連絡をしてきた。

まずはCさんが部屋を明け渡してくれることが先決だった。

ところが62歳になったCさんは、すぐに職を得ることは難しいかもしれない。無職のまま部屋を借りることも厳しい。

妹さんはCさんを引き連れ、役所に掛け合って生活保護の申請をした。その保護費で家賃を払えるところを探し、Cさんを転居させてくれた。そしてそこまでの滞納賃料を払うことで、訴訟手続きの当事者から抜けることができたのだ。

もしこの契約に連帯保証人がついていなければ、解決までに時間がかかっただろうし、家主は滞納分の回収もできなかっただろう。

連帯保証人が法人ではなく入居者側の親族だったこと、しかも義理の親族で「迷惑かけたくない」という思いがあったからこその早期解決だった。

賃借人=入居者であればシンプルだが、そうでないケースも少なくない。

借りる側も入居する側も、メリットだけでなくデメリットも検討する必要がある。そして何よりも家主側は、万が一のときの対応策をしっかり備えておくことが必要なのだ。

居住用の法人契約には、トラブルの芽がたくさん潜んでいることを忘れてはいけない。

執筆:太田垣章子(おおたがき あやこ)

章子先生
【プロフィール】
OAG司法書士法人 代表
平成14年から主に家主側の訴訟代理人として、悪質賃借人の追い出しを延2000件以上解決してきた賃貸トラブルのエキスパート。徹底した現場主義で、早期解決のためにトラブルある物件には必ず足を運んできた。現場で鍛えられた着眼点から、賃貸トラブルの解決を導く救世主でもある。著書に「家賃滞納という貧困」(ポプラ社)「賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド」(日本実業出版社)がある。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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